レクイエム (デュリュフレ)モーリス・デュリュフレの『レクイエム』作品9は、楽譜出版社デュランの依嘱により1947年に作曲された宗教曲。混声合唱およびメゾソプラノ独唱とバリトン独唱のために作曲されており、伴奏はフルオーケストラ版、オルガン版(オルガンと任意のチェロ独奏)、室内オーケストラ版(1961年)の3種が存在する[1]。 概要依頼が舞い込んできたとき、デュリュフレはグレゴリオ聖歌を主題とする『オルガン組曲』の作曲に取り組んでいた。それでデュリュフレは、『組曲』のためのスケッチを『レクイエム』の作曲に転用しており、グレゴリオ聖歌の『死者のためにミサ曲』からも多くの主題を用いている。主題の素材のほとんどがグレゴリオ聖歌に由来すると言っても過言でない。 楽譜の冒頭には「父の霊」に献じられたことが明記されている[2]。初演は1947年 11月2日にエレーヌ・ブヴィエとカミーユ・モラーヌの独唱でパリのサル・ガヴォーにてロジェ・デゾルミエールの指揮のもとフランス国立管弦楽団によって行われた[3][4]。本作の大きな特徴のひとつはフォーレの『レクイエム』(1887年)と多くの類似点が見られ、曲の構成についてはフォーレの構成をほとんど踏襲している。すなわち、デュリュフレはフォーレと同様に『死者のためのミサ』で最も名高い経文「怒りの日」には曲付けしておらず、フォーレと同様により穏やかでより瞑想的な経文「われを解き放ちたまえ」(Libera me)と「天国へ」(In Paradisum)を付け加えている。ただし、曲数はフォーレが7曲で、デュリュフレが9曲となっているが、フォーレが「入祭唱とキリエ」と「アニュス・デイと聖体拝領唱」を各々ひとつにまとめているのに対して、デュリュフレは独立させているからである。また、編成面でもデュリュフレはフォーレを模したと考えられる。メゾソプラノとバリトンと混声合唱と管弦楽およびオルガンという基本的な構成はフォーレと同一である。一方、デュリュフレの『レクイエム』の最も顕著な特徴はグレゴリオ聖歌やルネサンス音楽の影響である[2]。全曲の導入部分を含む多くの楽章(例えばサンクトゥスやアニュス・デイなど)で、グレゴリオ聖歌の『レクイエム』からのメロディの引用が見られ、それらの引用がデュリュフレ流の高度に洗練されたフランス和声や対位法により彩られている。また、フォーレはフォルティッシモの使用を意識的に避けていたが、デュリュフレはピアニッシモからフォルティッシモの音量の幅を使いドラマティックな効果を作り出している[5]。『ラルース世界音楽事典』によれば「本作はフォーレ、そしておそらくはブラームスの〈慰めの〉美学をもち、劇性を排したレクイエムを巧みに踏襲している」ということである[6]。 なお、メゾソプラノ独唱は、第5楽章の「慈しみ深きイエスよ Pie Jesu」において、バリトン独唱は第3楽章「主なる救世主イエス Domine Jesu Christe」と第8楽章「われを解き放ちたまえ Libera me」において歌唱する。 第5楽章「Pie Jesu」からの一部抜粋は、1995年にマイケル・ジャクソンが発表したアルバム『ヒストリー パスト、プレズント・アンド・フューチャー ブック1』ディスク2の第14曲「リトル・スージー」(Little Susie)に使用されたことがある。[7]。 構成
エオリア旋法で書かれている。男声のユニゾンで歌われるグレゴリオ聖歌に、女声のユニゾンが母音唱法で応える形で始まる。
グレゴリオ聖歌の旋律で始まり、それの対位法的処理に終始する。
不協和音を伴う前奏で始まる。その後、低音でこの部分のグレゴリオ聖歌の動機が予示するように現れる。4部合唱に移り、「願わくば救いたまえ」(Libera eas)の訴えが力を込めて反復され、フォルティッシモのクライマックスとなる。その後、音楽はモデラートの落ち着きを取り戻し、冒頭と同じ動機による間奏に続いて後半が始まる。後半部は力強く峻烈なドラマとはうって変わり、清らかな祈りがソプラノ合唱、ソプラノとアルトの合唱、バリトンの独唱によって続けられ、最後は消え入るように終わる。この楽章にはデュリュフレの戦争体験が反映していると見られる[8]。 全曲中最も清純な美しさを持った部分で、2つのパートに別れたソプラノとアルトの合唱がアルペッジョの伴奏音型の上で歌い始める。合唱は「いと高き天にホザンナ」(Hosanna in excelsis)の叫びで頂点を迎えたのち、冒頭と同一の楽想による「ベネディクトゥス」(Benedictus)に移行する。
メゾソプラノ独唱に任意でオブリガート奏法によるチェロ独奏が加わる。簡素な書法による慎ましやかな旋律により死者の安息を願う。 穏やかな祈りが続けられる。アルトの合唱が極めて音域の狭い旋律を歌い、次第に4部合唱へと進む。最後はピアニッシモで「永遠に安息を与え給え」と余韻を残すように終わる。
短い前奏の後、ソプラノ合唱が他のパートによるハミングに支えられて歌い始める。これに旋律的要素が無く朗唱的な部分が交代するように現れる。
管楽器の強奏に始まり、バスの合唱は順次4部合唱に拡大され、力強い叫びに近い祈りとなる。「私は恐れおののき」からはバリトン独唱が登場する。後半はバスの合唱により「怒りの日」(Dies irae)が歌われるが、すぐに4部合唱が同じテキストを劇的に歌う。
この部分は本来はミサ曲の一部ではなく、死者の棺を埋葬する時に用いられる赦祷文に作曲したものであったが、フォーレ同様『レクイエム』の最後に置かれている。心休まる透明感に満ちた楽章で、浮き上がるような美しいハーモニーに乗ってソプラノがグレゴリオ聖歌の美しい旋律を歌い、やがて合唱の他のパートが加わり、7声部となって、死者の永遠の安息を願うテキストを静かに響かせながら、全曲が閉じられる。 編成フルオーケストラ版
室内オーケストラ版
演奏時間約40分 主な録音
脚注参考文献
外部リンク |