数学 において、リー環のコホモロジー (英 : Lie algebra cohomology )とは、リー環 に対するコホモロジー 論である。それは Chevalley and Eilenberg (1948 ) によって、コンパクトリー群 の位相空間 としてのコホモロジーの代数的構成を与えるために、定義された。上の論文では、コシュール複体 (英語版 ) と呼ばれる鎖複体 がリー環上の加群 に対して定義され、そのコホモロジーが普通の意味で取られる。
動機付け
G がコンパクト [要曖昧さ回避 ] 単連結 リー群 のとき、G はそのリー環によって決定され、したがってそのコホモロジーはリー環から計算できるはずである。これは次のようにしてできる。そのコホモロジーは G 上の微分形式 の複体のド・ラームコホモロジー である。これは同変微分形式 (英語版 ) の複体に置き換えることができ、それは今度は適切な微分でリー環の外積代数 と同一視できる。外積代数のこの微分の構成は任意のリー環に対して意味をなし、したがってすべてのリー環に対してリー環のコホモロジーを定義するのに使われる。より一般に加群に係数を持つリー環のコホモロジーを定義するために類似の構成を用いる。
定義
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
を可換環 R 上のリー環、
U
g
{\displaystyle U{\mathfrak {g}}}
をその普遍包絡環 とし、M を
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の表現とする(同じことだが
U
g
{\displaystyle U{\mathfrak {g}}}
-加群とする)。R を
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の自明表現と考え、コホモロジー群
H
n
(
g
;
M
)
:=
E
x
t
U
g
n
(
R
,
M
)
{\displaystyle \mathrm {H} ^{n}({\mathfrak {g}};M):=\mathrm {Ext} _{U{\mathfrak {g}}}^{n}(R,M)}
を定義する(Ext の定義は Ext関手 を参照)。同じことだが、これらは左完全不変部分加群関手
M
↦
M
g
:=
{
m
∈
M
∣
x
m
=
0
for all
x
∈
g
}
{\displaystyle M\mapsto M^{\mathfrak {g}}:=\{m\in M\mid xm=0\ {\text{ for all }}x\in {\mathfrak {g}}\}}
の右導来関手 である。
同様に、リー環のホモロジーを
H
n
(
g
;
M
)
:=
T
o
r
n
U
g
(
R
,
M
)
{\displaystyle \mathrm {H} _{n}({\mathfrak {g}};M):=\mathrm {Tor} _{n}^{U{\mathfrak {g}}}(R,M)}
と定義でき(Tor の定義は Tor関手 を参照)、これは右完全余不変 (英語版 ) 関手
M
↦
M
g
:=
M
/
g
M
.
{\displaystyle M\mapsto M_{\mathfrak {g}}:=M/{\mathfrak {g}}M.}
の左導来関手と同値である。
リー環のコホモロジーについての重要な基本的な結果の中にはホワイトヘッドの補題 (英語版 ) 、ワイルの完全可約性定理 (英語版 ) 、レヴィ分解 (英語版 ) 定理がある。
シュバレー・アイレンバーグ複体
体 k 上のLie環
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
の左
g
{\displaystyle {\mathfrak {g}}}
-加群 M に値を持つリー環コホモロジーはシュバレー・アイレンバーグ複体
H
o
m
k
(
Λ
∗
g
,
M
)
{\displaystyle \mathrm {Hom} _{k}(\Lambda ^{\ast }{\mathfrak {g}},M)}
を用いて計算できる。この複体の n -コチェインは M に値を持つ n 変数の交代 k -多重線型関数
f
:
Λ
n
g
→
M
{\displaystyle f:\Lambda ^{n}{\mathfrak {g}}\to M}
である。n コチェインのコバウンダリは次で与えられる (n + 1) -コチェイン δf である[ 1] :
(
δ
f
)
(
x
1
,
…
,
x
n
+
1
)
=
∑
i
(
−
1
)
i
+
1
x
i
f
(
x
1
,
…
,
x
^
i
,
…
,
x
n
+
1
)
+
∑
i
<
j
(
−
1
)
i
+
j
f
(
[
x
i
,
x
j
]
,
x
1
,
…
,
x
^
i
,
…
,
x
^
j
,
…
,
x
n
+
1
)
,
{\displaystyle (\delta f)(x_{1},\ldots ,x_{n+1})=\sum _{i}(-1)^{i+1}x_{i}\,f(x_{1},\ldots ,{\hat {x}}_{i},\ldots ,x_{n+1})+\sum _{i<j}(-1)^{i+j}f([x_{i},x_{j}],x_{1},\ldots ,{\hat {x}}_{i},\ldots ,{\hat {x}}_{j},\ldots ,x_{n+1})\,,}
ただしキャレットはその引数を除くことを意味する。
小さい次元のコホモロジー
0次コホモロジー群は(定義により)加群に作用するリー環の不変加群である:
H
0
(
g
;
M
)
=
M
g
=
{
m
∈
M
∣
x
m
=
0
for all
x
∈
g
}
.
{\displaystyle H^{0}({\mathfrak {g}};M)=M^{\mathfrak {g}}=\{m\in M\mid xm=0\ {\text{ for all }}x\in {\mathfrak {g}}\}.}
1次コホモロジー群は内部微分の空間 Ider を法とした微分の空間 Der である:
H
1
(
g
;
M
)
=
D
e
r
(
g
,
M
)
/
I
d
e
r
(
g
,
M
)
{\displaystyle H^{1}({\mathfrak {g}};M)=\mathrm {Der} ({\mathfrak {g}},M)/\mathrm {Ider} ({\mathfrak {g}},M)}
ただし微分はリー環から M への写像 d で
d
[
x
,
y
]
=
x
d
y
−
y
d
x
{\displaystyle d[x,y]=x\,dy-y\,dx~}
なるもので、それが内部微分とはそれがある a ∈ M で
d
x
=
x
a
{\displaystyle dx=xa~}
で与えられることをいう。
2次コホモロジー群
H
2
(
g
;
M
)
{\displaystyle H^{2}({\mathfrak {g}};M)}
はリー環の加群 M によるリー環の拡大
0
→
M
→
h
→
g
→
0
{\displaystyle 0\rightarrow M\rightarrow {\mathfrak {h}}\rightarrow {\mathfrak {g}}\rightarrow 0}
の同値類の空間である。
より高次のコホモロジー群に対しては同様の易しい解釈は無いようである。
関連項目
参考文献
Chevalley, Claude; Eilenberg, Samuel (1948), “Cohomology Theory of Lie Groups and Lie Algebras” , Transactions of the American Mathematical Society (Providence, R.I.: American Mathematical Society ) 63 (1): 85–124, doi :10.2307/1990637 , ISSN 0002-9947 , JSTOR 1990637 , MR 0024908 , https://jstor.org/stable/1990637
Hilton, P. J.; Stammbach, U. (1997), A course in homological algebra , Graduate Texts in Mathematics, 4 (2nd ed.), Berlin, New York: Springer-Verlag , ISBN 978-0-387-94823-2 , MR 1438546
Knapp, Anthony W. (1988), Lie groups, Lie algebras, and cohomology , Mathematical Notes, 34 , Princeton University Press , ISBN 978-0-691-08498-5 , MR 938524
^ Weibel, Charles A. (1994). An introduction to homological algebra . Cambridge University Press. p. 240