ヤルコフスキー効果ヤルコフスキー効果(ヤルコフスキーこうか、英: Yarkovsky effect)[1]は、天体からの熱放射の不均一が生じることにより、天体にモーメントが生じ、小天体の軌道が影響を受ける効果である。通常その影響が問題になるのは、直径が 10 cm から 10 km までの比較的小さい流星物質や小惑星といった天体においてである。 発見の歴史ヤルコフスキー効果は、ロシアで働くポーランド人[2]土木技術者イワン・ヤルコフスキーによって見出された。ヤルコフスキーは空き時間に科学的な問題について取り組んでいた。1900年前後にヤルコフスキーは、宇宙空間で自転する天体への日々の加熱によって、小さい力ではあるが、特に流星物質や小さい小惑星のような小天体の軌道に大きな長期的な影響を及ぼしうる力が発生することを記した冊子を発行した。ヤルコフスキーのこの洞察は、1909年前後にヤルコフスキーの冊子を読んだエストニアの天文学者エルンスト・エピックがいなければ忘れられていただろうと考えられる。数十年の後、エピックはヤルコフスキーの冊子の存在を思い出し、太陽系での流星物質の運動におけるヤルコフスキー効果の重要性について議論した[3]。 メカニズムヤルコフスキー効果は、放射によって暖められた小天体の温度変化 (およびそれに伴う小天体からの熱放射の強度の変化) が、入射する放射の変化に対して遅れが生じることによって発生する。つまり、天体の表面は放射にさらされてから暖かくなるまでに時間がかかり、また放射を受けなくなった際に冷却するのにも時間がかかる。一般に、この効果には以下の2つの要素が存在する。
一般的にヤルコフスキー効果による影響は天体のサイズに依存し、大きさが小さいほど影響を受けやすい。例えば、小惑星ゴレブカ[5]に対してヤルコフスキー効果が与える力はおよそ0.25ニュートンと推定され、この力による加速度はおよそ 10−10 m/s2 である。一見して弱い力ではあるが、この力は継続的に働くため、数百万年かけて、この小惑星の軌道を大きく変化させたと考えられる。 ヤルコフスキー効果による影響は、大きな軌道離心率の軌道にある天体ではより複雑なものになる。 測定ヤルコフスキー効果が理論的に提唱されたのは1900年前後であるが、この効果の影響が初めて測定されたのは,1991年から2003年の小惑星ゴレブカの観測においてであった。この小惑星の軌道は、アレシボ天文台を用いた1991年、1995年と1999年のレーダー観測によって非常に精密に観測されており、12年間にわたって予測された位置から 15 km 軌道が移動していた[6]。 直接測定が無い場合、任意の小惑星の軌道に対してヤルコフスキー効果が実際に与える影響を予測するのは非常に困難である。これは、この効果の強さは観測による限られた情報から決定するのが難しい多数の要素に依存しているためである。これらの要素は、例えばその小惑星の実際の形状、その配置、アルベドである。ヤルコフスキー効果の計算は、局所的なクレーターや全体的な凹形状によって引き起こされる影の効果と熱的な「再照射」の効果のため、さらに複雑になる。またヤルコフスキー効果は放射圧とも競合し、放射圧も小惑星の表面にアルベドの違いがある場合や非球形をしている場合は似たような長期的な力を及ぼしうる。 例を挙げると、90° の赤道傾斜角を持つ円軌道にある球状の天体に働く季節ヤルコフスキー効果のみを考えるというシンプルな設定の場合でさえも、天体のアルベドが一様である場合と、北半球と南半球でアルベドの分布に強い非対称性がある場合では、天体の軌道長半径の変化は最大で2倍程度異なる。天体の軌道と自転軸に応じて、ヤルコフスキー効果による軌道長半径の進化の方向は、天体の形状が球形から非球形に変わるだけで逆向きになりうる。 このような困難があるものの、地球に衝突する可能性のある地球近傍天体の軌道をヤルコフスキー効果を用いて変化させるというシナリオが調査されている。小惑星の進路を逸らしうる戦略としては、小惑星の表面に「塗装」を施したり、太陽放射を小惑星に集約したりすることにより、ヤルコフスキー効果の強さを変化させて小惑星を地球との衝突コースから変化させるというものがある[7]。2016年9月に打ち上げられたオサイリス・レックスのミッションでは、小惑星ベンヌにはたらくヤルコフスキー効果を調べることも目的とされている[8]。 出典
関連項目
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