ヤマトメリベ
ヤマトメリベ (Melibe japonica) は、裸鰓目メリベウミウシ科に属する大型になるウミウシの1種。背面に対になる突起を並べ、口は大きな頭巾状になる。よく海中を漂い、小型甲殻類を捕食する。 特徴大型のウミウシで、大きいものは50センチメートルを越える[1]。細長い体の前端から大きく脹らんだ頭巾(oral hood)と呼ばれる袋のような口部がある。頭巾の周縁部には触手のような小突起が多数並んでいる。また、背面には大きいものは体長の約半分から小さいものは数ミリメートルにわたる背側突起を10対かそれ以下突出させる。最初の2対は大きくてほぼ同大で、それ以降のものはずっと小さく、後方のものほど更に小さい。またこの部分は自切によってはずれやすい。 体色は透明感があり、全体に淡紅色で、頭巾の周縁や体表の小突起が濃赤色を呈し、美しい[2]。 習性など遊泳性で、漁網などにはいることがある。肉食性で、小型甲殻類を食べる。頭巾は、獲物を包み込んで捕らえるために使われる。 飼育個体について、以下のような観察の報告がある[3][4]。これは2005年に和歌山県で採集された4個体についてのものである。水槽内での生存期間は40-79日であった。 活動水槽内の観察では、活動の型としては以下の4つが区別出来た[5]。
今原はこのような観察からヤマトメリベが浮遊性と言われてきたが、必ずしもそうでなく、底棲生活をしながらも捕食時や警戒時、あるいは衰弱したときに浮遊、遊泳する性質のものではないかと述べている[6]。 摂食摂食は浮遊と匍匐の際に行われる。飼育下では餌としてはアルテミアのノープリウス、および淡水産活け海老が使われた。
また、観察個体の1つは頭巾の片方が大きく損傷して餌を囲い込むのが困難だったが、捕獲から26日後には損傷部を底面に着けることで餌を捕獲出来るようになり、それ以降はこの捕獲法を使った。 この種を含め、スギノハウミウシ科やメリベウミウシ科は甲殻類を好むとされており、アルテミア幼生はこれまでにもヤマトメリベの餌として好適であることは知られていた。湖産エビに関しては、捕食されるものの消化されなかった事例もあること、それまでの報告などから今原はこの種が小型プランクトンサイズから体長3センチメートル程度までの甲殻類を餌にしており、ただ湖産エビのサイズのものでは、より殻の薄いタイプの甲殻類を餌としているのではないかと見ている[7]。 交尾交尾は1例だけ観察されている。2個体が向き合って着底した状態から、互いの体の右側側面を密着させ、両生殖門を接合させた。観察出来た時間は1時間半ほどで、この間、両個体は頭巾を閉じ気味に、背側突起をほぼ垂直に立てて、嗅覚突起も立てた状態で、ときおり頭巾を上下に振った。 産卵上記の交尾した個体を含め、複数回の産卵が確認された。卵塊は、螺旋状に巻いた帯状卵塊であり、ピンク色で透明なゼリー状物質に覆われていた。長さは70 cm - 80 cm、幅は3 cm - 4 cmであった。この中には卵殻が数珠状に並び、その列は卵塊の幅で縁にいたって折り返しては卵塊を横断する構造になっている。個々の卵殻には120 - 150の卵が含まれる。卵殻は0.75 - 1.25 × 0.47 - 0.67 mm、卵は0.05 mm - 0.07 mmだった。卵塊あたりの卵数は250万 - 300万である。水温20 ℃では産卵後1時間で卵割が始まり、80時間 - 100時間後には卵殻内でトロコフォア幼生が泳ぎ始め、さらに40時間後にはベリジャー幼生に変態し、ここで孵化するらしい。ただし飼育下では大半がこの段階で死亡し、孵化してこなかった。 分布日本特産で、九州から三浦半島にかけて希に捕獲され、個体数は極めて少ないと思われる。しかし2000年には4月から7月までの期間に和歌山県の海岸で20個体が発見された。上記観察はこれに基づく。 今福はこれらの採集記録をとりまとめ、その発見の状況などから以下のような点を指摘した[8]。
ここから彼は、この動物の生息域が日本近海の亜熱帯海域にあり、多分ダイバーがあまり行かない水深50mあるいはそれより深い海域である、との推定を行っている。 分類本種はスギノハウミウシ目(Dendronotacea)メリベウミウシ科(Fimbriidae)に属する。本属ではムカデメリベ M. vexiliferaとヒメメリベ M. papillosa の2種が知られる。この2種は同一種としてメリベウミウシ M. pilosa とされることもあり[9]、別種との扱いもある[10]。 出典参考文献
|
Portal di Ensiklopedia Dunia