メレオロジー (英語 : mereology )とは、数理論理学 ・言語学 ・哲学 の専門用語 で、部分 と全体 の関係 (part-whole relation )を扱う理論 ・視座のこと。もともとはスタニスワフ・レシニェフスキ が数理論理学の文脈で用いた造語 だが、のちにそこから派生して様々な文脈で用いられるようになった。語源 は古典ギリシア語 で「部分」を意味する「メロス」(μέρος )から。形容詞 形は「メレオロジー的 」「メレオロジカルな 」(mereological )。
数理論理学
20世紀 初頭ポーランド のレシニェフスキ が、数学基礎論 ・数学の哲学 の文脈で「メレオロジー」を提唱した。この場合のメレオロジーは集合論 と対比される。20世紀中期米国 のグッドマン やクワイン もメレオロジーを論じた。
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(2020年4月 )
言語学
言語学 における意味論 (語彙意味論 )の文脈で、単語 間の階層関係についての説明として、メレオロジーを念頭に「メロニミー」(meronymy )または「メロノミー」(meronomy )という用語で総称される単語群がある[ 2] [ 3] 。例えば「車 」にとっての「車輪 」がこれにあたる。メロニミーは、「ハイポニミー 」(hyponymy )すなわち「車」にとっての「バス 」と対比される。また、「ホロニミー」(holonymy )すなわち「車輪」にとっての「車」とも対比される。メロニミーと関連する用語として、換喩 (メトニミー)や提喩 (シネクドキ)といった修辞技法 の用語がある。
また、言語学における形式意味論 および哲学における言語哲学 の文脈で、英語 における不可算名詞 (mass noun 、質量名詞、物質名詞)や複数 (plural)についての説明の仕方の一つとしてメレオロジーが用いられることもある[ 5] [ 6] 。それと関連して、「質量名詞仮説」(mass noun hypothesis)という仮説 がある[ 7] 。すなわち、日本語 ・朝鮮語 ・中国語 といった、文法上の数 をもたない代わりに助数詞 をもつ言語について、これらの言語はすべての名詞が不可算名詞であり、後述の一元論のように世界を捉えている、とする仮説である。この仮説は、1968年のクワインによって、「ガヴァガイ」で知られる翻訳の不確定性 (英語版 ) と関連して提唱された[ 9] 。しかしその後、1990年代の飯田隆 によって否定され[ 10] 、クワイン自身もその否定を受け容れている[ 9] 。
哲学
主に現代 の分析形而上学 において様々な文脈で論じられる。わかりやすい応用例・喩え話 として、「砂山のパラドックス 」「テセウスの船 」「粘土と像」(statue and lump of clay)、「ティブルスのパラドックス」(Tibbles, 猫のティブルス)、『ミリンダ王の問い 』の冒頭[ 13] などがある。主な論点・トピックとして以下がある。
また、哲学史 研究の視座の一つとしてメレオロジーが応用されることもある。例えば、古代ギリシア哲学 において「メロス」(部分)は「ホロン 」(全体、男性形 : ホロス、ὅλος )や「パン」(総て、πᾶν )や「ストイケイオン」(構成要素・元素 、στοιχεῖον )などと一緒に言及されており、プラトン やアリストテレス においても言及されている[ 18] 。アリストテレスは類種関係 をメレオロジーと結びつけている。その他、ソクラテス以前の哲学者 ・古代原子論 者や、トマス・アクィナス などの西洋中世哲学 [ 20] [ 21] 、フッサール の現象学 (いわゆる大陸哲学 )、ライプニッツ やホワイトヘッド の思想のうちにメレオロジーが見出されることもある。さらに、『ミリンダ王の問い 』冒頭の「ナーガセーナ 」と「車」の喩えなどの仏教 思想や[ 13] 、ニヤーヤ学派 とヴァイシェーシカ学派 の思想、諸子百家 の『荘子 』「丘里之言」章や名家 の思想[ 23] [ 24] [ 25] といった、東洋哲学 のうちにメレオロジーが見出されることもある。
脚注
^ “#2811. 部分語と全体語 - hellog~英語史ブログ ”. 堀田隆一(慶應義塾大学 サーバー内). 2020年4月26日 閲覧。
^ さらに別の表記として「パートノミー」(Partonomy)および「パート二ミー」(Partonymy)がある。
^ Nicolas, David (2018). Zalta, Edward N.. ed. The Logic of Mass Expressions (Winter 2018 ed.). スタンフォード哲学百科事典 . https://plato.stanford.edu/archives/win2018/entries/logic-massexpress/
^ Linnebo, Øystein (2017). Zalta, Edward N.. ed. Plural Quantification (Summer 2017 ed.). スタンフォード哲学百科事典 . https://plato.stanford.edu/archives/sum2017/entries/plural-quant/
^ 飯田隆「ワークショップ : "The mass-count distinction: philosophical, linguistic, and psychologicalperspectives"(6月8日 三田キャンパス東館6階 G-SECLab) 」『Newsletter』第9巻、慶應義塾大学グローバルCOEプログラム論理と感性の先端的教育研究拠点、2009年。
^ a b 丹治信春 (2009) [1997]. クワイン ホーリズムの哲学 . 平凡社〈平凡社ライブラリー〉(講談社〈現代思想の冒険者たち〉の増補版). pp. 243-247
^ 飯田隆 (1998). “Professor Quine on Japanese Classifiers”. Annals of the Japan Association for
Philosophy of Science (科学基礎論学会 ) 9-3 : 111-118(1996年のクワインの京都賞受賞記念ワークショップにおける発表原稿). doi :10.4288/jafpos1956.9.111 .
^ a b Henry, Desmond Paul (1989). “Mereology and Metaphysics: From Boethius of Dacia to Leśniewski” . The Vienna Circle and the Lvov-Warsaw School . 38 . Dordrecht: Springer Netherlands. pp. 203–224. doi :10.1007/978-94-009-2829-9_11 . ISBN 978-94-010-7773-6 . http://link.springer.com/10.1007/978-94-009-2829-9_11
^ 「メレオロジー的虚無主義」のより正確な定義は、「複合的なもの(真部分をもつもの)は実在しないのだ、とする立場」。Sider, Theodore (2013). “Against Parthood” . Oxford Studies in Metaphysics 8 : 237–293. https://philpapers.org/rec/SIDAP . "composite entities (entities with proper parts) do not exist."
^ テアイテトス_(対話篇)#「真なる思いなし+言論」についての問答 / パルメニデス_(対話篇)#内容 / 形而上学_(アリストテレス)#第5巻_-_哲学用語辞典
^ 加藤雅人 『意味論の内と外 ―アクィナス 言語分析 メレオロジー』関西大学出版部、2019年。ISBN 978-4873546902 。
^ Arlig, Andrew (2019). Zalta, Edward N.. ed. Medieval Mereology (Fall 2019 ed.). スタンフォード哲学百科事典 . https://plato.stanford.edu/archives/fall2019/entries/mereology-medieval/
^ Fraser, Chris (2018). Zalta, Edward N.. ed. Mohist Canons (Winter 2018 ed.). スタンフォード哲学百科事典 . https://plato.stanford.edu/archives/win2018/entries/mohist-canons/
^ アンヌ・チャン 著、志野好伸・中島隆博 ・廣瀬玲子 訳『中国思想史』知泉書館、2010年、132-143頁。ISBN 978-4862850850 。
^ 『荘子 』則陽篇(リンク )、『墨子 』墨経(リンク )(英語) - 中国哲学書電子化計画
関連文献
関連項目
外部リンク
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