『メゾナイトの絵画 』(メゾナイトのかいが、英 : Paintings on masonite )はジョアン・ミロ が1936年 に制作した27枚の抽象絵画 からなる連作絵画。これは1936年6月18日にスペイン内戦 が始まった直後、メゾナイト と呼ばれる木製成型板を使って描かれた。この連作は、それ以前のいわゆる「野性的絵画」時代から脱却している。(「野性的絵画」とは、スペイン内戦に先立つ1934年-1936年の2年間の作品を指してミロが呼んだ名前である。)
解説、論評
バルセロナにあるミロ美術館 館長のロサ・マリア・アレ博士は、この『メゾナイトの絵画』と、直前に銅板その他の素材に描かれた「野性的絵画」[ 1] とを比較している。
1936年7月18日、スペイン内乱が勃発。これ以降、ミロの絵画からは証言的なものが消え、一種の暴力的で直接的なエクソシズムを表わした27点の「メゾナイトに描いた絵画」が登場する。
この連作には野生は表現されないが、描き方そのものにわずかに現れている。つまり怪物は、画板に向かう画家の直接的な攻撃に置き替えられた。背景はメゾナイトそのものをむき出し、この上にミロはカゼインの白、タールの黒、砂、アスファルトなどを置いた。風景は消え、生きものたちは最も基本的な特徴だけを残している。球体や大きな足の指の爪、豆などから派生したフォルムは明らかにミロのものだが、すっきり図案化されている。また、男根の形がしょっちゅう現われるが、これは時に人物そのものとして表わされた。
“メゾナイト”にはあらゆる叫びの力があるが、ただそれだけである。それはある出来事に対する画家の積極的な表明でもあるが、どんな新しい道も切り開きはしない。ミロがもう一度自分自身を見つめ、適切な表現媒体を見つけようとするためには、モンロチを、さらにはスペインを出なければならなかったのである。
ニューヨーク近代美術館 も手法の荒々しさに着目している。
… この連作は自国の騒乱に対するミロの心情的・身体的反応の表現であると長らく示唆されてきた。しかしミロはこの連作を「それらの事件に関わりなく」制作したと主張している。この連作において物語性は脇に追いやられ、油彩とエナメルのペイント、カゼイン、タール、砂、小石といったテクスチャと素材がより強調されている。ミロは時にメゾナイト板へ荒々しく立ち向かい、繊維質の地をノミでえぐり、一発勝負の筆使いを見せ、根源的な直観力を表現した。
この連作はモンロチ [ 4] とバルセロナ [ 5] で制作された。連作が完成した直後、1936年 の秋にミロはスペインを出国してパリ に戻り、そこで4年間を過ごすことになった。
一覧
いずれもメゾナイト の上に油絵具 、タール 、砂 、カゼイン を用い、1936年夏に制作された。
作品
サイズ (cm)
所蔵
都市
出典
Painting I
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting II
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting III
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting IV
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting V
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting VI
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting VII
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting VIII
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting IX
78 x 108 cm
長崎県美術館
長崎
[ 6]
Painting X
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XI
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XII
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XIII
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XIV
108 x 78 cm
ミロ美術館
バルセロナ
[ 6] [ 7]
Painting XV
78 x 108 cm
イスラエル博物館
エルサレム
[ 6]
Painting XVI
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XVII
108 x 78 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XVIII
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XIX
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XX
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XXI
78 x 108 cm
ミロ美術館
バルセロナ
[ 8]
Painting XXII
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XXIII
78 x 108 cm
シカゴ美術館
シカゴ
[ 6]
Painting XXIV
108 x 78 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XXV
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
Painting XXVI
78 x 108 cm
個人蔵
ロンドン
[ 6]
Painting XXVII
78 x 108 cm
個人蔵
[ 6]
脚注
^ 高階秀爾(監)、木村重信(編) 編『25人の画家〈第24巻〉ミロ』講談社〈現代世界美術全集〉、1981年、p.70頁。
^ ロサ・マリア・アレ『ジョアン・ミロ』佐和瑛子(訳)、美術出版社〈現代美術の巨匠〉、1988年、p.17頁。ISBN 978-4568180053 。
^ “MoMA Presents the First Major Exhibition to Focus on the Transformative Decade of Joan Miró's Work between 1927 and 1937 ” (PDF) (英語). MoMA Online Press Office. pp. p.6 (2008年). 2010年7月8日時点のオリジナル よりアーカイブ。2011年11月3日 閲覧。
^ “Past Exhibitions - Miró ” (英語). テート・モダン (2011年). 2011年6月29日時点のオリジナル よりアーカイブ。2011年10月13日 閲覧。
^ Michele Leight (2008年). “Joan Miró: Painting and Anti-Painting 1927-1937. The Museum of Modern Art New York (November 2, 2008 to January 12, 2009) ” (英語). The City Review . 2011年10月13日 閲覧。
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z Dupin, Jacques; Ariane Lelong-Mainaud (2000) (英語), Miró. Paintings II. 1931-1941 , pp. pp.158-175, ISBN 2868820379
^ Rosa Maria Malet; Joan Miró (2003), Joan Miró: apunts d'una col·lecció : obres de la Gallery K. AG , Fundació Joan Miró, ISBN 978-84-932159-8-9 , https://books.google.co.jp/books?id=jHkKPAAACAAJ&redir_esc=y&hl=ja 8 October 2011 閲覧。
^ “A NEW APPROACH TO JOAN MIRÓ ” (PDF) (英語). Joan Miró Foundation. pp. p.41 (2010年). 2011年6月20日時点のオリジナル よりアーカイブ。2011年10月13日 閲覧。
関連文献
Clavero, Jordi.J (2010). Fundació Joan Miró. Foundation's Guide . Barcelona: Polígrafa. ISBN 978-84-343-1242-5