ムパナティッギ (シチリア語 :'Mpanatigghi [ 注釈 1] 、イタリア語化:impanatiglie 、dolce di carne )は、イタリアのシチリア島 ラグーサ県 モーディカ 特産の、ビスコッティ生地に牛肉 とチョコレート のフィリング を詰め焼き上げた伝統郷土菓子[ 1] [ 2] 。
形は半月状で、生地を焼く前に片側の「腹」に切れ目を入れ、「窓」から少し溢れ出る中身を見せるのが特徴。
起源 - 肉とチョコレートの組み合わせ
スペインの影響説
ムパナティッギの起源ははっきりしないが、シチリアがスペイン の支配下に置れていた16世紀にそのスペインの影響によって発祥したと考えられている[ 1] [ 2] 。ムパナティッギの名前自体も、やはり半月形でスペイン語で「パン生地に包まれた」という意味のエンパナーダ に由来していると考えられている[ 1] [ 2] 。
同じ16世紀初頭にはクリストファー・コロンブス やエルナン・コルテス が、彼らにとっては未知の食用可能な植物・作物 を中米からスペインに持ち帰っており、その中にはカカオ も含まれていた[ 3] [ 4] [ 5] 。当初スペイン宮廷はカカオに興味を示さなかったが、同世紀の半ばごろに中米のケクチ・マヤ族 の使節団がスペインを訪れカカオを使った飲料を伝える と、カカオは瞬く間にヨーロッパ中に広まったという[ 6] [ 7] [ 8] 。その中には当時スペイン支配下のシシリア島も含まれており、数は少ないもののスペイン料理に時折見られる肉とチョコレートの組み合わせも伝わったのではないと考えられている[ 1] [ 9] [ 10] 。
お肉とチョコレートの甘い関係 - ウサギとチョコレートを使ったカタルーニャ のコニラムショコラータ(Conill amb xocolata )
但し当時は肉と言ったら狩猟肉で、「チョコレート」は固形でなく液状だった[ 11] [ 12] 。なおイベリア半島には今でもキジ科の狩猟鳥を使ったPerdiz al chocolate やウサギを使ったConill amb xocolata (カタルーニャ語 )などの狩猟肉とチョコレートを組み合わせた料理が残っている[ 13] [ 14] 。牛肉を使ったものではピレネー山脈地方のシチューEstofado de Ternera a la Catalana がある。これはcivet と呼ばれる中世から受け継がれているシチュー の牛肉版で、civet自体は鹿やヨーロッパウズラ などの狩猟で得た食用可能な肉なら何でも使われてきた[ 15] 。またcivetには元々豚の血が使われていたが、それがチョコレートに置き換えられたと言う[ 15] 。
修道院説
もう一つの説は、謝肉祭 の翌日から復活祭 の間の四旬節 では敬虔なカトリック信者は質素な食事をすることが習わしで、特に肉を食することを禁じられていることから、当時のお菓子作りの技術に長けた修道女 達が、質素な食事にもかかわらず町から町へと布教活動で移動を続けなくてはならない修道士を不憫に思い作ったことから始まったというものである。質素とは言い難いが四旬節中でも摂取を許されていたマジパン やチョコレートケーキ[ 注釈 2] を使いスパイスと共に、その時期禁忌である肉の存在をビスコッティの中に隠した栄養価の高いお菓子を修道士に与えた助けたと言うものである[ 1] [ 16] [ 17] 。
メッシーナ県 パッテイ ではパスティッチョッティ・ディ・カルネ(pasticciotti di carne )という仔牛肉とアーモンド入りのお菓子が作られている
モーディカではないが、18世紀から19世紀初頭にかけて、同じシチリア島内のパレルモ のオリグリオーネ修道院 の修道女の作る「ドルチ・ディ・カルネ(dolci di carne )」やエンナ 地方のマッツァリーノ・デル・エンネーゼ修道院の「パスティッチョッティ・ディ・カルニ・カ・チクーラッティ(pasticciotti di carni ca ciculatti )[ 注釈 3] 」はよく知られていた[ 18] 。またメッシーナ県 パッテイ ではパスティッチョッティ・ディ・カルネ(pasticciotti di carne )[ 注釈 4] という仔牛肉とアーモンドのフィリングが入ったお菓子が今も作られている[ 19] 。このパッテイのお菓子も元は修道院で作られていた[ 20] 。
狩猟肉消費説
更にもう一つの説は狩猟の過多で余り過ぎた肉をさばくために考え出されたとも言われている[ 17] 。この方法は冷蔵保存の技術が無い時代にカカオと砂糖の効用で余った肉の長期保存を可能とし、かつチョコレートが鮮度が落ちた肉の臭みを隠してくれた[ 1] [ 9] [ 17] 。
材料
生地 - 小麦粉(軟質小麦粉00番が望ましい)、砂糖、黄身、無塩バター(ラード )、レモンゼスト[ 1] [ 21]
フィリング - 植物性油、脂身が多めの牛挽肉、アーモンド 、果物の砂糖漬け、ビターチョコレート、卵白、卵、砂糖、塩、シナモン 、ナツメグ [ 1] [ 21]
生地閉じ用 - 水で薄めた卵白
仕上げ - 粉砂糖
脚注
注釈
^ Mの前にアポストロフィー が付くのは、その単語が"i"で始まるが、その"i"を省略していることを表している。しかし現在はそのアポストロフィーさえも付けることも無くなって来ている。イタリア語化した綴りが"i"で始まるのも参照されたし。
^ 前述のように当時は肉は狩猟肉で、「チョコレート」はまだ固形のものはなく液状だった。
^ パスティッチョッティはカスタードクリームやリコッタなどが詰まった平た目のカップケーキ状の焼き菓子。プッリャ州 の銘菓だがシチリアでも作られる。Carni は肉、ciculatti はサルデーニャ語のチョコレートの意味で、肉とチョコレートのパスティッチョッティの意味になる。
^ パスティッチョッティはカスタードクリームやリコッタなどが詰まった平た目のカップケーキ状の焼き菓子。プッリャ州 の銘菓だがシチリアでも作られる。Carni は肉で、肉のパスティッチョッティの意味になる。
出典
^ a b c d e f g h “'Mpanatigghi: i dolci siciliani a base di carne | Palermoviva ” (イタリア語) (2021年9月3日). 2021年12月8日 閲覧。
^ a b c “Mpanatigghi | Traditional Cookie From Modica | TasteAtlas ”. www.tasteatlas.com . 2021年12月8日 閲覧。
^ “Chocolate - All About Chocolate - History of Chocolate ”. archive.fieldmuseum.org . 2021年12月8日 閲覧。
^ “Christopher Columbus' More Important "Discovery" ” (英語). Voila Chocolat . 2021年12月8日 閲覧。
^ “Exploratorium Magazine: Chocolate: page 2 ”. www.exploratorium.edu . 2021年12月8日 閲覧。
^ “Exploratorium Magazine: Chocolate: page 4 ”. www.exploratorium.edu . 2021年12月8日 閲覧。
^ Editors, History com. “History of Chocolate ” (英語). HISTORY . 2021年12月8日 閲覧。
^ Coe, Sophie D. (2013). The true history of chocolate . Michael D. Coe (Third edition ed.). London. ISBN 978-0-500-29068-2 . OCLC 847481520 . https://www.worldcat.org/oclc/847481520
^ a b “‘i ‘mpanatigghi tra storie e leggende ”. Link Sicilia (2012年2月16日). 2014年6月17日時点のオリジナル よりアーカイブ。2022年1月28日 閲覧。
^ cuoco, Il (2021年2月22日). “'Mpanatigghi ” (英語). 2022年1月28日 閲覧。
^ “'Mpanatigghi: la storia dei dolci modicani ripieni di carne ” (イタリア語). Tasting the World (2018年11月9日). 2022年1月28日 閲覧。
^ Klein, Christopher. “Chocolate’s Sweet History: From Elite Treat to Food for the Masses ” (英語). HISTORY . 2022年1月28日 閲覧。
^ “PERDICES CON CHOCOLATE ” (スペイン語). abc (2004年8月7日). 2021年12月8日 閲覧。
^ Lladonosa i Giró, Josep (2005). El gran llibre de la cuina catalana . Jaume Fàbrega (1. ed ed.). Barcelona: Salsa Books. ISBN 84-9787-131-6 . OCLC 61130396 . https://www.worldcat.org/oclc/61130396
^ a b “Nunca adivinarás el ingrediente secreto de este abundante estofado catalán ”. www.deliciousrecipeslife.com . Saveur. 2021年12月9日時点のオリジナル よりアーカイブ。2021年12月9日 閲覧。
^ Redazione (2017年9月10日). “Modica the sweet: chocolate, cubbaite, and 'mpanatigghi ” (英語). Wine in Sicily . 2021年12月8日 閲覧。
^ a b c “Gli 'Mpanatigghi sono biscotti ripieni impanati Tipici Siciliani. ” (英語). Viaggiamente (2014年3月19日). 2021年12月8日 閲覧。
^ “Quando la carne diventa un dolce - la Repubblica.it ” (イタリア語). Archivio - la Repubblica.it . 2021年12月9日 閲覧。
^ Komunicare (2020年1月15日). “A Patti i dolci con carne di vitellina, i pasticciotti di carne ” (イタリア語). BellaSicilia.it . 2021年12月9日 閲覧。
^ Galante, Nino (2013年9月18日). “Pasticciotti di Carne e Cardinali, le due specialità esclusive della pasticceria di Patti ” (イタリア語). Caffè Galante . 2021年12月9日 閲覧。
^ a b “'Mpanatigghi (Sicilian Chocolate-Meat Cookies) ” (英語). Saveur (2018年11月28日). 2021年12月8日 閲覧。
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
ムパナティッギ に関連するカテゴリがあります。