マンソン住血吸虫
左よりつがい、雌成虫、雄成虫
分類
学名
Schistosoma mansoni Sambon, 1907[ 1]
和名
マンソン住血吸虫
マンソン住血吸虫の虫卵。棘状の突起が特徴
マンソン住血吸虫 (マンソンじゅうけつきゅうちゅう、学名 :Schistosoma mansoni )は、住血吸虫科 住血吸虫属 に属する吸虫 の1種。Biomphalaria 属の淡水巻貝 を中間宿主 、ヒト 、サル 、ネズミ を終宿主とし、門脈 に寄生して腸管住血吸虫症 を引き起こす。名前は、スコットランド 出身の医師パトリック・マンソン (英語版 ) が台湾 でこの吸虫を見出したことにちなむ。
治療にはオキサムニキン が用いられる。ただし、アフリカ株は南米株と比べてオキサムニキンへの耐性を有することが報告されている[ 2] 。
形態
成虫は吸虫としては珍しく、細長い線虫 のような形態をしている。雌雄異体で、終宿主 には雄が抱雌管で雌を抱えた状態で寄生する。
雄は白く、体長1cm程度、太さは1mm程度である。雌は灰色で、体長はやや長く、雄と比べるとかなり細い。雌の重量のほとんどが生殖器で占められている。
消化管は口吸盤に始まり、食道が2分岐して再び1つにまとまったのち、行き止まりになっていて肛門はない。
虫卵は黄褐色で、側方部に刺状の突起がある。虫卵は小蓋を持たない。
生活環
虫卵は糞便とともに排出され、水中で成熟ミラシジウム が孵化する。
ヒラマキガイ科 Biomphalaria 属に属する巻貝を中間宿主としており、ミラシジウムはこの貝に出会うと体表から組織内へ侵入し、スポロシスト に変態する。母スポロシスト、娘スポロシストの2世代を過ごした後、数千のセルカリア が生じる。なお、ベネズエラ ではアフリカマイマイ も中間宿主となりうることが報告されている[ 3] 。
セルカリアは日中に貝から水中へ泳ぎ出し、終宿主と出会うと皮膚から体内へ侵入する。このとき、セルカリアは皮膚を這って毛嚢 などの好適部位を探し出し、タンパク質分解酵素を分泌して頭部を皮膚組織へ侵入させる。頭部はシストソミューラ に変態し、皮膚に数日留まったあと血流に乗って肺へ移動する。成虫は肝臓の類洞 へたどり着くとつがい をつくり、血流に逆らって腸間膜静脈に移動して産卵を始める[ 4] [ 5]
雌の成虫は雄の抱雌管にはさまれている。雄は雌がいてもいなくても正常に成熟できるが、それでも行動や生理には差が生じることが知られている。一方、雌は雄がいないと成熟できず、生殖器が発達しない。
マンソン住血吸虫の成虫は、大腸や盲腸の周囲の下腸間膜静脈に寄生し、1日あたり約300個の虫卵を毛細血管内皮に産卵する[ 6] 。虫卵は腸管内に入り込み、糞便と共に宿主体外へ排出される。
ゲノム
ゲノムサイズはおよそ270 Mbpで、GC含量は34%である。ゲノムの約4割を反復配列が占めている。染色体は8対で、そのうち1対が性染色体である。受精の時点で染色体によって性が決定され、哺乳類とは逆に同型で雄 (ZZ)、異型で雌 (ZW)となる[ 7] 。
2009年にゲノムの概要が解読され、タンパク質分解酵素が多様化していることと、脂肪酸 やステロール の生合成ができないことが特徴として示された[ 8] [ 9] 。
分布
住血吸虫のなかでも広範囲に分布しており、アフリカ、中東、カリブ海沿岸、南米など世界で約8000万人が感染しているとされる[ 10] 。
出典
^ 日本寄生虫学会用語委員会 「暫定新寄生虫和名表」 2008年5月22日 Archived 2011年4月14日, at the Wayback Machine .
^ 住血吸虫症 、メルクマニュアル
^ (スペイン語) Libora M., Morales G., Carmen S., Isbelia S. & Luz A. P. (2010). "Primer hallazgo en Venezuela de huevos de Schistosoma mansoni y de otros helmintos de interés en salud pública, presentes en heces y secreción mucosa del molusco terrestre Achatina fulica (Bowdich, 1822). [First finding in Venezuela of Schistosoma mansoni eggs and other helminths of interest in public health found in faeces and mucous secretion of the mollusc Achatina fulica (Bowdich, 1822)]. Zootecnia Tropical 28 : 383-394. PDF [リンク切れ ] .
^ “DPDx - Schistosomiasis ”. CDC . 2007年6月14日 閲覧。
^ Beltran S, Boissier J (September 2008). “Schistosome monogamy: who, how, and why?”. Trends in Parasitology 24 (9): 386–91. doi :10.1016/j.pt.2008.05.009 . PMID 18674968 .
^ Loverde PT, Chen L (November 1991). “Schistosome female reproductive development”. Parasitology Today 7 (11): 303–8. doi :10.1016/0169-4758(91)90263-N . PMID 15463396 .
^ “Schistosoma mansoni Genome Project ”. Sanger Institute . 2007年6月14日 閲覧。
^ Berriman M, Haas BJ, LoVerde PT, Wilson RA, Dillon GP, Cerqueira GC, Mashiyama ST, Al-Lazikani B, Andrade LF, Ashton PD, Aslett MA, Bartholomeu DC, Blandin G, Caffrey CR, Coghlan A, Coulson R, Day TA, Delcher A, DeMarco R, Djikeng A, Eyre T, Gamble JA, Ghedin E, Gu Y, Hertz-Fowler C, Hirai H, Hirai Y, Houston R, Ivens A, Johnston DA, Lacerda D, Macedo CD, McVeigh P, Ning Z, Oliveira G, Overington JP, Parkhill J, Pertea M, Pierce RJ, Protasio AV, Quail MA, Rajandream MA, Rogers J, Sajid M, Salzberg SL, Stanke M, Tivey AR, White O, Williams DL, Wortman J, Wu W, Zamanian M, Zerlotini A, Fraser-Liggett CM, Barrell BG, El-Sayed NM. (July 2009). “The genome of the blood fluke Schistosoma mansoni” . Nature 460 (7253): 352–8. doi :10.1038/nature08160 . PMC 2756445 . PMID 19606141 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2756445/ .
^ “Killer parasites' genes decoded ”. BBC News (July 16, 2009). 2009年7月16日 閲覧。
^ Crompton DW (June 1999). “How much human helminthiasis is there in the world?” . The Journal of Parasitology (The Journal of Parasitology, Vol. 85, No. 3) 85 (3): 397–403. doi :10.2307/3285768 . JSTOR 3285768 . PMID 10386428 . オリジナル の2010年2月23日時点におけるアーカイブ。. https://webcitation.org/5nkxyS6AS?url=http://www.healthmanager.ru/files/helminths.pdf .
関連項目
外部リンク