マリカウリス属
マリカウリス属(Maricaulis)は真正細菌のプロテオバクテリア門アルファプロテオバクテリア綱カウロバクター目マリカウリス科に属する属の一つである[8]。 概要Maricaulisは、ラテン語で「海」を表す中性名詞"mare"と、「茎」を意味する男性名詞"caulis"を組み合わせた造語であり、「海に由来する茎」を意味する。 桿状、紡錘状、又はビブリオ菌様の形状をした幅0.4~0.5μm×長さ1~2μmのグラム陰性菌である。プロステーカを持ち、その直径は0~15μmで長さは菌種ごとや環境に応じて異なる。細胞の長軸方向の極の一方から延びている。先端には接着物質が存在している。二分裂により単独で増殖する。分裂直後には一方の細胞はプロステーカを、他方の細胞は単一の極鞭毛を持ち、それらは、分裂で新たに作られた側とは反対側の細胞極に形成する。この鞭毛細胞はこの後、鞭毛基部で接着物質を分泌してこの基部でプロステーカを発生させ、非運動性の栄養期に入る[1]。有機栄養性好気性細菌であるが、1988年にAnastとSmitが試験したほとんどの菌株は、おそらく発酵により産生したアミノ酸を炭素源として利用することにより、嫌気条件で生育することに成功した[9]。いくつかの菌株は硝酸塩を嫌気的に亜硝酸塩に還元する。ほとんどの菌株は、炭素をポリ-β-ヒドロキシ酪酸として貯蔵できる。ビタミンB群とアミノ酸の混合物だけでは生育には不十分であり、他の有機物を必要とする。全ての菌株は、塩化ナトリウムを5g/L添加したペプトン酵母エキス(PYE)培地で培養可能である。最適な塩化ナトリウム濃度は20~60g/Lである。100g/L以上の塩分濃度にはわずかな菌株だけが耐えられる。1%(w/v)以上の有機物を含む培地では、増殖が阻害されたり、細胞が変形したりする。ほとんどの菌株の生育温度範囲は15~35℃、最適生育温度は20~25℃である。生育に最適なpH範囲は中性付近の6.0~8.0である。GC含量は62.5~64.0mol%である。全ての分離株は海水からのみ単離された。 脂肪酸プロファイルでは主要な脂肪酸はC16:0、C17:liso<y9c、及びsum7であること、少量成分としてC11:0iso 3-OH、C17:lo?8、C17:0iso、C17:0、及びC18:lco9を含むことが特徴である。極性脂質としてα-D-グルコピラノシルジアシルグリセロール、α-D-グルコピラノシルジアシルグリセロール、スルホキノボシルジアシルグリセロール、α-D-グルクロノピラノシルジアシルグリセロールタウリンアミドは検出され、ほとんどの菌株ではホスファチジルグリセロールも含まれる[1]。 種マリカウリス・マリス(Maricaulis maris)marisは、ラテン語で「海」を表す中性名詞"mare"に因んで造られた中性名詞であり、海水から発見されたことに由来する。カウロバクター・マリス(Caulobacter maris)のバソニムであり、カウロバクター・ハロバクテロイデス(Caulobacter halobacteroides)のシノニムである。 タイプ株はATCC 15268T(CM 11T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はAJ227802である。GC含量は62.5mol%である[1]。 マリカウリス・パージメンシス(Maricaulis parjimensis)parjimensisは、新ラテン語で「印ゴア州の州都パナジ(Panaji)の」を意味する形容詞である。命名は、この菌種のタイプ株はパナジ近くの海岸から発見されたことに由来する。 タイプ株はMCS 25T(LMG 19863T、CIP 107440T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はAJ227808である。 5~100g/Lの塩化ナトリウムを添加したPYE培地で培養でき、最適生育濃度範囲は20~80g/Lである。非存在下では生育は観察されない。100g/Lでも緩やかではあるが生育する。最適生育温度範囲は30~40℃であり、10℃以下又は50℃以上では生育しない。 脂肪酸プロファイルではC18:0とC18:1ω7が主要であり、C17:0、C17:1x8c及びC18:1ω9cは少量検出される。極性脂質として、α-D-グルコピラノシルジアシルグリセロール、α-D-グルクロノピラノシルジアシルグリセロール、及びSQDGが検出され、ホスファチジルジアシルグリセロール又はα-D-グルクロノピラノシルジアシルグリセロールタウリンアミドは観測されない。GC含量は63.0mol%である[4]。 マリカウリス・サリグノランス(Maricaulis salignorans)salignoransは、ラテン語で「塩」を表す名詞"sal"と、「無視する」を表す形容詞"ignorans"を組み合わせた造語であり、「塩を無視する」を意味する。この命名は、塩分が存在しない条件でも生育することに由来する。 タイプ株はMCS 18T(LMG 19864T、CIP 107439T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はAJ227806である。 「概要」の項で列挙した特徴に加えて以下の特性を持つ。0~80g/Lの塩化ナトリウム濃度のPYE培地で培養でき、最適な生育濃度は20~60g/Lである。塩化ナトリウムの非存在下でも増殖がわずかに低下するだけであり、マリカウリス属に珍しく、淡水環境で顕著な増殖速度を示す。80g/Lを超える塩分濃度には耐性は無い。脂肪酸プロファイルではC16:0とC17:1 iso ω9cが主要であり、C14:1ω5、C17:1ω8c、Ciso-17:0及びC17:0は少量検出される。極性脂質として、α-D-グルコピラノシルジアシルグリセロール、α-D-グルクロノピラノシルジアシルグリセロール、及びSQDGは検出され、ホスファチジルジアシルグリセロール又はα-D-グルクロノピラノシルジアシルグリセロールタウリンアミドは含まれない。GC含量は63.3mol%である[4]。 マリカウリス・バージネンシス(Maricaulis virginensis)virginensisは、新ラテン語で「ヴァージン諸島由来の」を意味する形容詞である。この命名は、タイプ株がヴァージン諸島沖の熱水噴出孔近くの深海水から発見されたことに由来する。 タイプ株はVKM B-1513T(LMG 21018T、VC-5T、CIP 107438T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はAJ301667である。 「概要」の項で列挙した特徴に加えて以下の特性を持つ。全ての菌株は、脂肪酸プロファイルの主要脂肪酸がC17:0とC18:1ω7の2つであることによって特徴付けられる。C14:0、C16:0、C17:0 iso、及びC18:0は少量検出される。主な極性脂質はα-スルホキノボシルジアシルグリセロールである。GC含量は65.2mol%である。 マリカウリス・ワシントネンシス(Maricaulis washingtonensis)washingtonensisは、新ラテン語で「米ワシントン州の」を意味する形容詞である。この命名は、タイプ株が発見された場所が米ワシントン州エドモンズの海であることに因む。 タイプ株はMCS 6T(LMG 19865T、CIP 107441T)である。この株の16S rRNA遺伝子配列のGenBank/EMBL/DDBJアクセッション番号はAJ227804である。 「概要」の項で列挙した特徴に加えて以下の特性を持つ。塩化ナトリウム濃度0~80g/LのPYE培地で培養でき、最適な生育濃度は20~40g/Lである。塩化ナトリウムの非存在下でも増殖がわずかに低下するだけであり、マリカウリス・サリグノランスと同様にマリカウリス属に珍しく、淡水環境で顕著な増殖速度を示す。40g/Lを超える塩分濃度では生育速度は著しく低下し、100g/L以上で生存は観測されなくなる。GC含量は63.0mol%である。マリカウリス・ワシントネンシスMCS 6T株とマリカウリス・サリグノランスMCS 18T株のDNA-DNA binding valueは59%である[4]。 系統樹16S rRNA遺伝子配列解析に基づくアルファプロテオバクテリア綱内の発生系統学的関係を以下に示す[4]。
脚注
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