マデイラ・ワイン
マデイラ・ワイン(ポルトガル語: Vinho da Madeira)とは、ポルトガル領のマデイラ島で造られている酒精強化ワインである。なお、一般的なワインは通常醸造酒に分類される酒だが、酒精強化ワインは混成酒に分類される酒である。したがって、当然マデイラ・ワインも混成酒である。 概要マデイラ・ワインは、ブドウ果汁の醗酵途中で蒸留酒を添加し、酵母を死滅させ強制的に醗酵を止める酒精強化ワインの1種である。特徴的なのは発酵を停止した後、最低90日間、45 - 50℃程度の比較的高温で熟成させる手法(エストゥファと呼ばれる[1])または、暑い環境であるワインセラーの上方の階で2年間保存する手法(カンテイロと呼ばれる[1])のどちらかにより穏やかに加熱熟成される。これは大洋を横断する際、熱帯地方を通過したときにワイン樽が暑熱にさらされるが、そのワインが好評だった逸話に基づく。マデイラ・ワインの製法・生産は、公的管理機関であるマデイラワイン・刺繍・手工業協会 (IVBAM)によって、ブドウの産地や品種、熟成期間などが細かく定められ、エストゥファ製法の場合はブドウの収穫後2年後の10月31日以降に発売が可能[1]、またカンテイロ製法の場合は収穫後の翌年1月1日を起点に少なくとも3年の熟成を必須としている[1]。あまりにも長期間、樽の中でワインを保存するのではアルコールが飛んでしまい商品価値を損なうため、長期熟成品は樽での所定の熟成後はデミジョンと呼ばれる編みかごに包まれたガラス瓶に移し替えられて保存される。 シェリーやポートワインと並んで、世界3大酒精強化ワインの1つに数えられる[2]。 マデイラ・ワインには単一年度産のブドウより製した物の他、ブレンドものも存在し、辛口から甘口、明色から暗色、軽い味わいから重厚な味わいのものといった様々なタイプが存在する[3]。酒精強化ワインのため当然ながら一般的なワインよりもアルコール度数は高く、アルコール度数17 %から22 %程度のワインとなる。なお、主に辛口のマデイラ・ワインは食前酒、甘口のマデイラ・ワインはデザートワイン(食後酒)として用いられる傾向にある。また、安価なものは料理酒としても用いられることもある。 分類マデイラ・ワインには幾つも分類が存在する。ここではそれらについて解説する。 原料や製法による分類
製品の甘さによる分類甘さによる分類は4段階で、セコ(辛口)、メイオ・セコ(中辛口)、メイオ・ドセ(中甘口)、ドセ(甘口)が存在する。 かつては、酵母が自身の作り出したエタノールによって自滅するまで醗酵させた、つまり、完全に醗酵させて辛口にした醸造酒(一般的なワイン)に、ブドウ果汁を煮詰めたものや、ブドウ果汁にエタノール(蒸留酒)を加えたものを添加することによって甘味を調節していた。 しかし、現在は酒精強化のタイミング(蒸留酒を加えて酵母を死滅させるタイミング)を変えることで甘さを調節している。つまり、酵母によってブドウ果汁中に含まれていたグルコースなどが、どの程度消費されるかで甘さの調整を行っている。 製品の色による分類マデイラ・ワインの色は、琥珀色からマホガニー色の間で5段階に分けられる。辛口のものは色が淡く、甘口になるほど色が濃くなる。同じ甘さのものでは熟成年数が長いほど色が濃くなる。なお、黒ブドウから作られたマデイラ・ワインでも後述する加熱処理によって退色して、白ブドウから作られたものと同じような褐色系の色になる[7]。 製法(ブドウの栽培については、「ブドウ栽培」の節を参照のこと。) 収穫と運搬マデイラ・ワインの製造は、まず毎年9月にブドウを収穫するところから始まる。20世紀前半までは、収穫したブドウを桶に入れて足で踏み、これによってブドウを絞ってブドウ果汁にしてヤギの皮革で作った袋に詰め、それを担いで山道を通って醸造所まで運んでいた。また海沿いの斜面で栽培されたブドウは、同様の方法で果汁にされた後、小舟で海岸沿いを運び、目的地の海上で樽を海に落し、人力で海岸まで運ぶといったことも行われた。しかし、道路が整備されていったため、2003年現在では収穫したブドウを直接トラックで醸造所に運び、そこでブドウを絞って果汁にしている。 醸造マデイラ・ワインの醸造の際、ブドウの皮や種子は除去して果汁のみを醗酵させる方法と、皮や種子もいっしょに醗酵させてから皮や種を取り除く方法がある。これらの方法は、熟成の予定年数に応じて、または、目的の味を出すために、それぞれのメーカーが使い分けている。なお、ここまでは一般的なワインと同様である。 酒精強化上記のようにマデイラ・ワインも通常のワインと同じようにブドウ果汁を醗酵させるわけだが、この醗酵の段階で酒精強化、すなわち、蒸留酒(エタノール)の添加が行われる。2003年現在ではこの酒精強化のタイミングを調節することで甘さの調整が行なわれる。甘口のものは醗酵があまり進んでいない段階で蒸留酒添加が行うことによって、早めに酵母を死滅させて、ブドウ果汁の甘さを残したまま醗酵を止める。これに対して辛口のものは醗酵がほぼ完了し糖分がほとんど無くなった段階で蒸留酒を添加する。この段階でアルコール度数は17%前後に調整される。ちなみに、この酒精強化のタイミングで甘さの調整を行う方法を取る場合、甘口に仕上げるためには早期に酵母を殺す必要があり、したがって酵母によって作り出されるエタノールの量も少ない。このため、甘口のものほど添加されるエタノールの量は多くなり、辛口のものほど少なくなる[8]。 なお、マデイラ・ワインの場合、酒精強化の際に添加される蒸留酒は、ブドウから造られた中性スピリッツである。つまり、通常のワインを何度も蒸留してエタノールの濃縮し、アルコール度数を95%に上げた蒸留酒が添加される。ちなみに、このブドウを原料とする中性スピリッツは、フランスやスペインから輸入されたものが使われている。ただし、20世紀の一時期、サトウキビから作られた中性スピリッツが用いられたこともあった。しかし、1974年以降、酒精強化に使用されるのは、ブドウを原料とした中性スピリッツに限られている[8]。 加熱処理酒精強化の後、数か月間の安定期間を置き加熱処理が施される。加熱方法は過去から現在まで色々な方法が試されてきた。現在ではクバ・デ・ガロールと呼ばれるワインの樽に温水の入ったパイプを通す方法と、カンティロと呼ばれる倉庫の2階に大きなガラス窓のついた部屋を作り、そこにワイン樽を置き自然に加熱する方法が行なわれている。クバ・デ・ガロールは主に普及品に、カンティロはフラスケイラのような単一品種で長期熟成をさせるものに使われる[9]。 クバ・デ・ガロールでは新酒をエストゥファ(湯が循環する過熱容器)に移し、45℃~50℃を保ちながら最低3か月加熱する。微妙な味わいが要求される高級品は、湯を通した管を張り巡らせて倉庫全体を温め、熱の当たりを柔らかくするという手法がとられる[10]。 加熱は50℃以下で3か月以上と決められている。加熱期間が終わると自然にゆっくりと常温まで下げられる。カンティロでは人工加熱と同じ効果を得るためには2年かかると言われている[9]。 熟成加熱処理が終わると熟成期間に入る。カンティロの場合はすでに木製の樽に入っているので、このまま常温で熟成が行われる。クバ・デ・ガロールで加熱されたものも、エストゥファから木製の樽へ移し替えて、やはり常温で熟成が行われる。収穫年数を表示するもの以外は、ブレンダーの手によって複数の収穫年のものがブレンドされ、メーカー独自の風味が作り出される。なお、この熟成は数年間から、長いものでは数十年間に渡って行われる。 瓶詰め熟成終了後、安定期間を置き冷却処理され瓶詰めされる[9]。なお、フラスケイラに分類されるマデイラ・ワインのように、瓶詰めされた後もしばらく保管しておく場合もある。 ブドウ栽培マデイラ島でブドウ栽培に向いているのは島の南部の標高330mから750mほどの比較的標高が低く、サイブロとよばれる石ころの混じった赤い凝灰岩の土地である。ただし、マデイラ島では土壌や標高などで畑の格付けはされていない[11]。 マデイラ島のブドウ畑の多くは山の斜面に作られている。また、入植初期には小作人に貸し与える形でブドウ畑が作られたため、一般に畑の面積は小さく、機械化も進んでおらず、21世紀初頭においても人力に頼るところが多い[12]。畑は棚造りとなっているものが多く、2mほどの高さのワイヤーを使った棚にブドウの蔓をはわせている。ちなみに、かつては樹木やサトウキビにブドウの蔓を這わせるという栽培方法もとられていた[13]。 マデイラ島で栽培されるブドウは推奨品種と許可品種の2つのグループに分けられている。2003年現在マデイラ島で一番多く栽培されているのは黒ブドウで推奨品種のネグラ・モレ。なお、他に推奨品種とされているのは、白ブドウのセルシア、ボアル、ヴェルデーリョ、マルヴァジアなど。また、推奨品種の中でも白ブドウのセルシアル、ボアル、マルヴァジア・カンディダ、ヴェルデーリョ、テランテス、黒ブドウのバスタドルは、マデイラ島の伝統的品種と呼ばれる[14]。 マデイラ・ワインの歴史この節では、以下の語を使い分けていることに注意。
ナポレオンとマデイラ・ワイン1815年にナポレオン・ボナパルトがセントヘレナへの流刑にされた際、船が補給のためにマデイラ島に立ち寄った。上陸を許されなかったナポレオンに対し、イギリス領事が1792年ビンテージのマデイラ島産のワインを贈った。しかしナポレオンはそのワインを飲むことなく1820年に息を引き取った[17]。 脚注注釈
出典
参考文献
関連項目外部リンク
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