(W, S) をコクセター行列 M を持つコクセター系とし、係数環 R を固定する(普通は R として複素数体 C のような代数閉体や有理整数環 Z をとる)。q を形式的な不定元として、R 上のローラン多項式の環 A = R[q, q−1] を考えるとき、これらによって定められるヘッケ環H とは Ts (s ∈ S) によって生成される A 上の単位的結合多元環で、その基本関係式が
組み紐関係式: s ≠ t のときTsTtTs … = TtTsTt (両辺はともに mst < ∞ 個の因子の積)
二次の関係式: (Ts − q)(Ts + 1) = 0 (s ∈ S)
で与えられる。この環を不定元 q を R の元に特殊化することで H から得られる個々の環と区別するために、一般ヘッケ環とも呼ぶ。
元 C′w は w が W の上を亘るとき、ヘッケ環 H の基底を成す。これをヘッケ環 H の双対標準基底(dual canonical basis) という。標準基底(canonical basis) {Cw | w ∈ W} は同様の方法で得られる。この定理に現れる多項式 Py,w(q) をカジュダン-ルスティック多項式という。
カジュダン-ルスティックによるコクセター群における左・右・両側セルの概念は H の作用の元での標準基底の挙動を通して定義される。
上に述べた岩堀ヘッケ環ははじめ、群論における非常に一般な構成の重要な特別の場合として現われた。 (G, K) を局所コンパクト群G とその閉部分群 K からなる組とする。このとき、両側 K-不変連続函数の空間
に畳み込みで積を入れて結合多元環の構造が導入される。普通、G が離散群の場合には K を概正規部分群とすることで、それ以外の場合には K をコンパクト部分群とすることで、畳み込み積を定義し、それによってこの関数空間が閉じているようにするために何らかの意味での関数の台のコンパクト性が満たされるようにする。こうしてえられる多元環を
有限ワイル群のヘッケ環が誘導されるのは、G が位数 pk の有限体上で定義される有限シュバレー群で K = B がそのボレル部分群であるときである。岩堀はそのヘッケ環
が G のワイル群W の一般ヘッケ環 Hq の不定元 q を有限体の濃度 pk に特殊化したものから得られることを示した。ジョージ・ルスティックは1984年の『有限体上の簡約群の指標』(Characters of reductive groups over a finite field) の xi ページ脚注で
「
I think it would be most appropriate to call it the Iwahori algebra, but the name Hecke ring (or algebra) given by Iwahori himself has been in use for almost 20 years and it is probably too late to change it now.(私自身はこれを岩堀代数と呼ぶのが最も相応しいと思うが、岩堀自身によって付けられたヘッケ環の名がかれこれ20年ほど使われてきているので、今更変えようにも遅すぎるきらいがある)
^F. M. Goodman; P. de la Harpe and V. F. R. Jones (1989). Coxeter graphs and towers of algebras. MSRI Publications #14. Berlin and New York: Springer-Verlag. ISBN 0-387-96979-9
^ Lusztig, George. On a theorem of Benson and Curtis. J. Algebra 71 (1981), no. 2, 490--498.
Alexander Kleshchev, Linear and projective representations of symmetric groups, Cambridge tracts in mathematics, vol. 163. Cambridge University Press, 2005. ISBN 0-521-83703-0
George Lusztig, Hecke algebras with unequal parameters, CRM monograph series, vol.18, American Mathematical Society, 2003. ISBN 0-8218-3356-1
Andrew Mathas, Iwahori-Hecke algebras and Schur algebras of the symmetric group, University Lecture Series, vol.15, American Mathematical Society, 1999. ISBN 0-8218-1926-7
Colin Bushnell and Philip Kutzko, The admissible dual of GL(n) via compact open subgroups, Annals of Mathematics Studies, vol. 129, Princeton University Press, 1993. ISBN 0-691-02114-7
外部リンク
Weisstein, Eric W. "Hecke Algebra". mathworld.wolfram.com (英語).