リリカカプセル:75mg
プレガバリン (INN : Pregabalin)は、神経障害性疼痛 に用いられる医薬品である。日本 では2010年 より、商品名リリカ (英 : LYRICA )としてファイザー が製造・販売している(エーザイ が販売提携)。
欧州連合 ではてんかん (部分発作併用療法)[ 1] 、全般性不安障害 (GAD) の承認もある[ 2] 。
経緯
2004年11月2日、米国でメルク の選択的COX2阻害薬バイオックス(日本では治験段階[ 3] )が、心血管疾患イベント(急性心筋梗塞や心臓突然死)のリスク増加を理由に販売停止になった[ 4] 。
これにより空いた関節炎鎮痛薬市場に、この効果のあまり高くないプレガバリンが、非特異的な痛みに特徴がある曖昧な線維筋痛症 と結びつけて販売されることとなった[ 5] 。
日本では2010年6月の発売当初はカプセル剤(25, 75, 150mg)が、2017年6月に口腔内崩壊錠であるOD錠(同規格)が発売された[ 1] 。
2020年8月17日に、厚生労働省 は後発医薬品 として、22社の80品目を承認し、12月10日に薬価収録されたが、ファイザーは特許が2022年7月まで有効として、2020年8月17日に東京地方裁判所 に特許権侵害訴訟を提起するとともに、仮処分命令の申し立てを行った。
薬理
神経 におけるシナプス に存在する電位依存性カルシウムチャネル のα2 δリガンド として結合し、神経細胞内へのカルシウム 流入を抑制し、グルタミン酸 などの神経伝達物質 の放出を妨げる。このことにより、疼痛信号の中枢神経系への伝達を抑制し、疼痛を緩和する。
γ-アミノ酪酸 (GABA) 模倣特性を持ち、またドーパミン 作動性の報酬系 に直接・間接的に作用するため、薬剤乱用 の懸念となる[ 2] 。
適応症
神経障害性疼痛 (2013年2月28日、中枢性・末梢性の区別なく適応となった)
発売当初は帯状疱疹 後神経痛、その後末梢性神経障害性疼痛であった。
線維筋痛症 に伴う疼痛(2012年6月22日認可)
線維筋痛症の診断は、米国リウマチ学会の分類(診断)基準等の国際的な基準に基づき慎重に実施し、確定診断された場合にのみ投与すること[ 1] 。
日本人の線維筋痛症においても、二重盲検試験で有効性が認められた[ 6] 。
日本初の線維筋痛症治療薬[ 7] 。
有効性
プレガバリンが慢性膵炎 による疼痛を緩和し、プラセボ よりも優れていたとの報告がある[ 8] 。
適応外使用
慢性瘙痒 に対して有効なことがある[ 9] 。神経伝達物質 を阻害することにより、痒み刺激を遮断すると考えられている。むずむず脚症候群 にプラミペキソール よりもさらに有効と報告された[ 10] 。
副作用
など
浮動性めまいは20%以上の確率で発症する頻度の高い副作用であり、自動車運転など危険な作業を控える必要がある。また、体重増加も10-20%の頻度で認められており、体重増加が発症した場合には、運動療法や食事療法で対処するとしている[ 11] 。
2014年09月17日、厚生労働省は製造販売元のファイザーに対して劇症肝炎 と重篤な肝機能障害 を添付文書に追記するよう指示した[ 12] 。過去3年間で同副作用が発現した患者は11人で、劇症肝炎を発現した患者1人が死亡した。
プレガバリンには、15gの過量投与の症例があり、主な症状は、情動障害、傾眠、錯乱状態、痙攣発作であった[ 11] 。プレガバリン単独でオーバードース の危険度は低いが、オピオイド との併用では懸念がある[ 13] 。
離脱症状
医薬品の添付文書には、急な投与中止により、不眠、悪心、頭痛、下痢、不安や多汗症といった症状の可能性があるため、1週間以上かけて徐々に減量する旨の注意書きが記載されている。
服用中止の際の離脱症状 の特徴については2012年の論文に記載されている[ 14] 。
依存性・乱用
薬物依存 の可能性がある[ 14] 。薬物乱用 の可能性は明らかであり、アメリカの規制物質法 のスケジュールV、イギリスの1971年薬物乱用法 のクラスCに指定されている[ 13] 。
2017年まででは、ほとんどの情報は治験時のものであり、乱用に関する証拠1件だけ出版されて、副作用のデータベースを含め、乱用と依存が起きうるという証拠が明らかである[ 13] 。オピオイド のような乱用性は認められない[ 13] 。
文献の調査からは、臨床試験では陶酔の副作用が報告されており、前臨床試験ではGABAとグルタミン酸の調節作用からの乱用の可能性を示した[ 15] 。特に薬物乱用 の既往歴のある場合には、乱用の兆候に注意が必要となる[ 15] 。
類似した薬剤であるガバペンチン よりも早く吸収され、同様に、陶酔と鎮静の混合作用を引き起こすと考えられる[ 2] 。闇市場での需要の成長も見られる[ 2] 。
出典
^ a b c リリカOD錠25mg インタビューフォーム(2018年4月改訂第12版)
^ a b c d Schifano, Fabrizio; Orsolini, Laura; Duccio Papanti, G.; Corkery, John M. (2015). “Novel psychoactive substances of interest for psychiatry” . World Psychiatry 14 (1): 15–26. doi :10.1002/wps.20174 . PMC 4329884 . PMID 25655145 . http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/wps.20174/full .
^ “心血管リスクのため主力製品・COX-2阻害薬の販売をメルク社が中止 ”. 薬害オンブズパーソン会議 (2004年10月21日). 2019年11月12日 閲覧。
^ “米国でVioxxの服用による急性心筋梗塞や心臓突然死は5年間で約2万7000イベント” . 日経メディカル . (2004年11月6日). https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/hotnews/archives/342256.html 2019年11月12日 閲覧。
^ デイヴィッド・ヒーリー 著、田島治監訳、中里京子 訳『ファルマゲドン』みすず書房、2015年、88頁。ISBN 978-4-622-07907-1 。 Pharmageddon , 2012.
^ Ohta, Hiroyoshi; Oka, Hiroshi; Usui, Chie; Ohkura, Masayuki; Suzuki, Makoto; Nishioka, Kusuki (2012). “A randomized, double-blind, multicenter, placebo-controlled phase III trial to evaluate the efficacy and safety of pregabalin in Japanese patients with fibromyalgia” . Arthritis Res. Ther. 14 (5): R217. doi :10.1186/ar4056 . PMC 3580529 . PMID 23062189 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3580529/ .
^ 繊維筋痛症治療ガイドライン2013 日本線維筋痛症学会編 (PDF )
^ Olesen, Søren Schou; Bouwense, Stefan A.W.; Wilder–Smith, Oliver H.G.; van Goor, Harry; Drewes, Asbjørn Mohr (2011). “Pregabalin Reduces Pain in Patients With Chronic Pancreatitis in a Randomized, Controlled Trial”. Gastroenterology 141 (2): 536–543. doi :10.1053/j.gastro.2011.04.003 . PMID 21683078 .
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^ a b "添付文書 - リリカカプセル25mg/リリカカプセル75mg/リリカカプセル150mg/リリカOD錠25mg/リリカOD錠75mg/リリカOD錠150mg"
^ “神経障害性の痛み治療薬「リリカ」に重い副作用 ” (2014年9月17日). 2014年9月18日 閲覧。
^ a b c d World Health Organization (6 December 2017). PREGABALIN Pre-Review Report Agenda Item 5.1 : Expert Committee on Drug Dependence Thirty-ninth Meeting (pdf) (Report). 世界保健機関. 2017年12月5日閲覧 。
^ a b “Gabapentin and pregabalin: abuse and addiction” (pdf). Prescrire Int (128): 152–4. (2012). PMID 22822593 . http://legeforeningen.no/PageFiles/123775/Pregabalin%20og%20Gabapentinmisbruk%20%20oversikt%20i%20prescrire%202012.pdf .
^ a b Schjerning, Ole; Rosenzweig, Mary; Pottegård, Anton; Damkier, Per; Nielsen, Jimmi (2016). “Abuse Potential of Pregabalin”. CNS Drugs 30 (1): 9–25. doi :10.1007/s40263-015-0303-6 . PMID 26767525 .
関連項目
外部リンク