フアン・ビジョーロ (Juan Villoro、1956年9月24日生-)は、メキシコの作家、コラムニスト、随筆家。現在メキシコで最も高く評価されている作家の一人であり、これまで国内外の多くの文学賞を受賞している。スペイン語圏の数多くの有力紙や雑誌に寄稿し、過去にはメキシコの日刊紙『ラ・ホルナダ紙 (La Jornada)』週刊で発行する文化面増刊『ラ・ホルナダ・セマナル (La Jornada Semanal)』の編集長も務めた。また、ドイツ語と英語の重要文学作品の翻訳家でもあるほか、児童文学作品や舞台脚本も執筆するなど幅広い分野で活躍している。
作家としては、1991年スペインの大手出版社アルファグアラ社から出版された長編小説El disparo de argónが評価され、93年にはドイツ語翻訳が発表される。1995年から1998年にかけて、メキシコの全国紙の一つである『ラ・ホルナダ紙』が週刊する文化増刊『ラ・ホルナダ・セマナル』の編集長を務める。またその傍ら、国立芸術院(INBAL) やメキシコ国立自治大学 (UNAM) などで文芸創作の教室やコースを担当した[2]。
1999年発表の短編集La casa pierdeでメキシコの権威ある文学賞ハビエル・ビジャウルティア賞を、そして2004年発行の長編El testigoでエラルデ賞を受賞する。以降、小説のみにとどまらず評論集、児童文学、ドイツおよび英米文学の翻訳など多様なジャンルの作品を発表し、多くの文学賞を受賞し続けている。2014年2月25日にはそれまでの功績が認められメキシコ国立学士院であるエル・コレヒオ・ナシオナルの新会員として認定された[3]。
ビジョーロはまた、『エル・パイス (El País)』『レフォルマ (Reforma)』『プロセソ (Proceso)』『ラ・ホルナーダ (La Jornada)』『レトラス・リブレス (Letras Libres)』『ネクソス (Nexos)』等のスペイン語圏の多くの新聞や雑誌に精力的に寄稿している。2000年代に入ってからは、演劇の分野でも脚本家や劇作家として活動をはじめ、2008年に『部分的な死 (Muerte parcial)』、2011年には『人生の哲学 (Filosofía de vida)』が上演され、2016年には一人芝居『雨についての講演 (Conferencia sobre la lluvia)』が日本でも公演された[4]。
幼少の頃から大のサッカーファンであり、FCバルセロナの熱心なサポーターであることを公言している。子どものときには、『プーマス(Pumas)』の呼称でも知られるメキシコシティのサッカーチーム『クラブ・ウニベルシダ・ナシオナル』の下部組織に所属していたが16歳でチームを去っている[6]。サッカー関連の記事を多くの媒体に寄稿し、『神は丸い (Dios es redondo)』(2006年)、『イダ・イ・ブエルタ (Ida y vuelta)』(2012)、『こぼれ球(Balón dividido)』(2014年)の3冊のサッカー関連書籍を出版している。
また音楽愛好家、特にロックファンして知られている。自身の作品の多くで実在するバンドやロック界の伝説的な人物について言及しており、2012年発表の小説『岩礁 (Arrecife)』では主人公とその親友を元ロックミュージシャンとして描いている。本人があるイベントで語ったところによると、音楽好きの母親の影響で子どもの頃からロックを聴き始め、とりわけ60年代70年代の同ジャンルに親しんでいった[7]。1977年から1981年に脚本制作を担当していたラディオ・エドゥカシオンのラジオ音楽番組”El lado oscuro de la luna (『月の暗い面』)”では、当時まだメキシコ国内でレコードが入手しづらかった海外ロックの楽曲を積極的に放送した[8]。
作品
長編小説
El disparo de argón (1991年) (新版2005年)
Materia dispuesta (1997年) (新版2011年)
El testigo (2004年)
『証人』(山辺弦訳、水声社、2023年)
Llamadas de Ámsterdam (2007年)
Arrecife (2012年)
短編小説
La noche navegable (1980年) (新版1997年)
Albercas (1985年)
同書所収の「ガラスの沈黙 (El silencio de los cristales)」は邦訳されている(「ロックと若い文学 (海外同時代短篇-ラテンアメリカ特集)」, すばる9巻6号, 安藤哲行訳, 1987年, pp.138-145, 164-168)
La alcoba dormida (1992年)
La casa pierde (1999年) (新版/改訂版2003年、2011年、2012年、2016年)