ビンクリスチン
IUPAC命名法 による物質名
(3aR,3a1R,4R,5S,5aR,10bR)-methyl 4-acetoxy-3a-ethyl-9-((5S,7S,9S)-5-ethyl-5-hydroxy-9-(methoxycarbonyl)-2,4,5,6,7,8,9,10-octahydro-1H-3,7-methano[1]azacycloundecino[5,4-b]indol-9-yl)-6-formyl-5-hydroxy-8-methoxy-3a,3a1,4,5,5a,6,11,12-octahydro-1H-indolizino[8,1-cd]carbazole-5-carboxylate
臨床データ 販売名
Oncovin Drugs.com
monograph MedlinePlus
a682822 胎児危険度分類
法的規制
薬物動態 データ生物学的利用能 n/a (not reliably absorbed by the GI tract )[ 1] 血漿タンパク結合 ~44%[ 2] 代謝 Liver, mostly via CYP3A4 and CYP3A5 (英語版 ) [ 1] 半減期 19 to 155 hours (mean: 85 hours)[ 1] 排泄 Faeces (70-80%), urine (10-20%)[ 1] データベースID CAS番号
57-22-7 ATCコード
L01CA02 (WHO ) PubChem
CID: 5978 DrugBank
DB00541 ChemSpider
5758 UNII
5J49Q6B70F KEGG
D08679 en:Template:keggcite ChEBI
CHEBI:28445 en:Template:ebicite ChEMBL
CHEMBL303560 en:Template:ebicite 化学的データ 化学式 C 46 H 56 N 4 O 10 分子量 824.958 g/mol
O=C(OC)[C@]4(c2c(c1ccccc1n2)CCN3C[C@](O)(CC)C[C@@H](C3)C4)c5c(OC)cc6c(c5)[C@@]89[C@@H](N6C=O)[C@@](O)(C(=O)OC)[C@H](OC(=O)C)[C@@]7(/C=C\CN([C@@H]78)CC9)CC
InChI=1S/C46H56N4O10/c1-7-42(55)22-28-23-45(40(53)58-5,36-30(14-18-48(24-28) Key:OGWKCGZFUXNPDA-XQKSVPLYSA-N
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ビンクリスチン (Vincristine、VCR)は、抗がん剤 として用いられるビンカアルカロイド の一つ。商品名オンコビン 。微小管 の重合反応 を阻害する事により、細胞 の有糸分裂 を阻害する。軟部腫瘍、血液 腫瘍等に対してよく使われる[ 3] 。静脈注射 で用いられる。
承認
米国では1963年に発売された。日本では1968年に承認された後、2005年2月に他の抗悪性腫瘍剤との併用療法として、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、乏突起膠腫成分を有する神経膠腫の追加承認がされ、2013年3月には褐色細胞腫の効能・効果ならびに用法・用量が追加承認された[ 4] :1 。WHO必須医薬品モデル・リスト に収載されている[ 5] 。
効能・効果
日本で認められている効能・効果は、白血病 (急性白血病、慢性白血病の急性転化時を含む)、悪性リンパ腫 (細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病)、小児腫瘍(神経芽腫 、ウィルムス腫瘍 、横紋筋肉腫 、睾丸胎児性癌、血管肉腫 等)、褐色細胞腫 のほか、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、乏突起膠腫成分を有する神経膠腫に対する他剤との併用である[ 6] 。
ビンクリスチンは様々な化学療法レジメン (英語版 ) に組み込まれている[ 1] 。非ホジキンリンパ腫 に用いられる場合はCHOP療法 、ホジキンリンパ腫 にはMOPP療法 (英語版 ) 、COPP療法 (英語版 ) 、BEACOPP療法 (英語版 ) 、急性リンパ性白血病 (ALL)や腎芽腫 にはスタンフォードV (英語版 ) の組み合わせとする[ 1] 。デキサメタゾン およびL-アスパラギナーゼ と組み合わせてALLの寛解を目指したり、プレドニゾン との併用で小児白血病の治療をしたりもする。
ビンクリスチンは、免疫抑制剤 として、血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP)や特発性血小板減少性紫斑病 (ITP)の治療に用いられる事もある[ 1] 。
副作用
主な副作用 として、すべての抗がん剤に共通する骨髄抑制 (汎血球減少(0.7%)、白血球減少(29.8%)、血小板減少(19.8%)、貧血(5.7%))、粘膜 障害、脱毛 のほか、末梢神経障害 (神経麻痺、筋麻痺、痙攣等)(25.5%)がある。これは神経細胞 において微小管輸送が重要だからだと考えられる。他に重大な副作用とされているものに、錯乱、昏睡、イレウス、消化管出血、消化管穿孔、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 (SIADH)、アナフィラキシー、心筋虚血、脳梗塞、難聴、呼吸困難・気管支痙攣、間質性肺炎(0.5%)、肝機能障害・黄疸(0.5%)がある。(頻度未記載は頻度不明)
末梢神経障害は四肢末端、時に四肢全体に起こる進行性・長期性・しばしば非可逆性の、疼き、痺れ、激しい痛み、寒さに対する過敏症を呈する[ 7] 。重症化することがあり、化学療法の中止・減量の原因となる。初期症状は下垂足 (英語版 ) である。血縁者に下垂足の既往のある者またはシャルコー・マリー・トゥース病 (CMT)患者が居る場合はビンクリスチンを投与すべきでない[ 8] 。
脊柱管 に誤投与(蜘蛛膜下 投与)した場合には、ほぼ100%死亡に至る。上行性麻痺 、広範囲の脳障害 、脊髄神経の脱髄 、難治性疼痛を呈した症例の転帰はほとんどが死亡であるが、発現直後から積極的に治療(脳脊髄液 の排出ならびに脳保護剤 の投与)した症例では生存例もある[ 9] 。小児では生存確率が高い。注射後直ちに積極的治療を受けた患児で、軽度の神経障害を残したのみでほぼ完全に回復した例がある[ 10] 。中華人民共和国 では2007年に上海Hualian(华联)で製造されたシタラビン やメトトレキサート (蜘蛛膜下投与されることが多い)に混入したビンクリスチンを蜘蛛膜下投与する事例が連続して発生した[ 11] 。
作用機序
ビンクリスチンはチューブリン 二量体に結合し、微小管 構造形成を阻害して有糸分裂 を中期 で停止させる[ 4] :12 。細胞分裂が活発な細胞全てに作用するため、腫瘍細胞のみならず消化管上皮細胞 や骨髄細胞 も傷害する。
生合成
ビンクリスチンはビンカ属の植物中でビンドリンとカタランチンの結合により生成される[ 12] 。
歴史
古くはロイコクリスチン(leurocristine)と呼ばれ、ニチニチソウ (学名:Catharanthus roseus 、旧学名:Vinca rosea )から発見された。ニチニチソウは何世紀にもわたって民間療法として使用されてきたが、1950年代の研究で70種のアルカロイドを含み、その大半が生物活性を有することが明らかとなった。当初は糖尿病 治療への使用が試みられたが失敗に終わり、白血病 マウスを用いた研究で骨髄抑制 作用があることが判明し、ビンカ属植物の投与で生存期間が延長することが示された。
ビンカ属の植物をSkelly-B脱脂剤で処理して酸性ベンゼンで抽出して“分画A”を得、酸化アルミニウム 処理、クロマトグラフィー 分画、クロロホルム 処理、ベンズジクロロメタン処理、pH別分離によってビンクリスチンが得られた[ 13] 。
その他
2012年FDAはビンクリスチンのリポソーム 製剤を承認した[ 14] 。
ビンクリスチンを微小粒子に結合させた製剤が開発中である[ 15] 。
出典
^ a b c d e f g Brayfield, A: “Vincristine ”. Martindale: The Complete Drug Reference . Pharmaceutical Press (13 December 2013). 15 April 2014 閲覧。
^ “Oncovin, Vincasar PFS (vincristine) dosing, indications, interactions, adverse effects, and more ”. Medscape Reference . WebMD. 16 April 2014 閲覧。
^ “Vincristine Sulfate ”. The American Society of Health-System Pharmacists. Jan 2, 2015 閲覧。
^ a b “オンコビン注射用1mg インタビューフォーム ” (2014年9月). 2015年1月25日 閲覧。
^ “WHO Model List of EssentialMedicines ”. World Health Organization (October 2013). 22 April 2014 閲覧。
^ “オンコビン注射用1mg 添付文書 ” (2015年2月). 2016年6月29日 閲覧。
^ “Chemotherapy-induced Peripheral Neuropathy ” (Feb 23, 2010). 2016年6月29日 閲覧。
^ Graf, W. D.; Chance, P. F.; Lensch, M. W.; Eng, L. J.; Lipe, H. P.; Bird, T. D. (1996). “Severe Vincristine Neuropathy in Charcot-Marie-Tooth Disease Type 1A”. Cancer 77 (7): 1356–1362. doi :10.1002/(SICI)1097-0142(19960401)77:7<1356::AID-CNCR20>3.0.CO;2-# . PMID 8608515 .
^ Qweider, M.; Gilsbach, J. M.; Rohde, V. (2007). “Inadvertent Intrathecal Vincristine Administration: A Neurosurgical Emergency. Case Report”. Journal of Neurosurgery: Spine 6 (3): 280–283. doi :10.3171/spi.2007.6.3.280 . PMID 17355029 .
^ Zaragosa, M.; Ritchey, M.; Walter, A. (1995). “Neurological Consequences of Accidental Intrathecal Vincristine: A Case Report.”. Medial and Pediatric Oncology 24 : 61–62. doi :10.1002/mpo.2950240114 . PMID 7968797 .
^ Jake Hooker (英語版 ) and Walt Bogdanich (英語版 ) (January 31, 2008). “Tainted Drugs Tied to Maker of Abortion Pill” . New York Times . http://www.nytimes.com/2008/01/31/world/asia/31pharma.html?_r=1&ref=health
^ “Pharmacognosy of Vinca Alkaloids ”. 2015年1月25日 閲覧。
^ Johnson, I. S.; Armstrong, J. G.; Gorman, M.; Burnett, J. P. (1963). “The Vinca Alkaloids: A New Class of Oncolytic Agents” (pdf). Cancer Research 23 (8 Part 1): 1390–1427. PMID 14070392 . http://cancerres.aacrjournals.org/content/23/8_Part_1/1390.full.pdf .
^ FDA press release Aug 9, 2012
^ Bind Therapeutics conference call of Nov 6, 2014
外部リンク