ニューグローヴ世界音楽大事典
ニューグローヴ世界音楽大事典 (ニューグローヴせかいおんがくだいじてん、The New Grove Dictionary of Music and Musicians )は、音楽 と音楽家 に関する百科事典 である。これはドイツ語 による「音楽の歴史と現在 」とともに、西洋の音楽について扱った最大の参考文献の一つである。元来「音楽と音楽家に関する事典 A Dictionary of Music and Musicians 」として出版され、後に「音楽と音楽家に関するグローヴの事典 Grove's Dictionary of Music and Musicians 」となり、19世紀 から数度の改訂を重ね広く使用されている。近年では電子版が「グローヴ・ミュージック・オンライン Grove Music Online 」として利用可能となっており、「オックスフォード・ミュージック・オンライン Oxford Music Online 」の中で重要な位置を占めている。
音楽と音楽家に関する事典
初版はジョージ・グローヴ 編、最終巻にはジョン・メイトランド (英語版 ) [ 注 1] の付録付きで4巻(1878年 、1880年 、1883年 、1889年 )が出版された。索引はエドマンド・ウッドハウス(Edmund Wodehouse)が編集し、別冊として1890年 に出版された。1900年 に必要になった図版への細かな修正を施し、全巻が再発行された。この際、索引は第4巻に付けられた。初版と再版は現在オンラインで無料で閲覧できる[ 1] [ 2] 。グローヴは、1450年 から始めてその当時までの年表を作成した。
音楽と音楽家に関するグローヴの事典
第2版(Grove II )は全5巻で、メイトランドが編集して「音楽と音楽家に関するグローヴの事典」として1904年 から1910年 にかけて出版した。第2版の各巻は再版を重ねた。「アメリカ人補遺 American Supplement 」がワルド・セルデン・プラット(Waldo Selden Pratt)とチャールズ・ボイド(Charles N. Boyd)によって編まれ、1920年 に付け足された。この版では初版にあった1450年 という年表開始年月の制限を取り去ったが[ 3] 、それでもそれ以前の重要な作曲家 や音楽理論 の記述がなされないままであった。第2版も現在ではオンラインで無料にて入手可能である[ 4]
[ 5]
第3版(Grove III )も全5巻で、第2版の拡大版であった。ヘンリー・コールズ (英語版 ) [ 注 2] が編集し、1927年 に出版された[ 6] 。
第4版(Grove IV )もコールズの編集で、1940年 に全5巻で出版された(いくつか修正を施した第3版の再版である)。「アメリカ人補遺」に加え[ 7] 、マクミラン社(MacMillan )からコールズ編の「補巻 Supplementary Volume 」がニューヨーク [ 8] とロンドン [ 9] で出版されている。
第5版(Grove V )は全9巻で、エリック・ブロム (英語版 ) [ 注 3] の編集で1954年 に刊行された。これはグローヴ事典のそれまで最大の刷新であり、多くの記事がより現代風に書き改められ、新規記事も多く書き加えられた。多くの記事はブロム自身が書いたものか、もしくは翻訳したものであった。大半をブロムが記した追加の補巻が1961年 に出版されている。なお、ブロムは1959年 に死去しており、補巻を完成させたのはデニス・スティーヴンス (英語版 ) [ 注 4] であった。第5版は1966年 、1968年 、1970年 、1973年 、1975年 に増刷されている[ 10] 。
ニューグローヴ
第1版
次の版が1980年 に世に出た際、名称は「ニューグローヴ世界音楽大事典 The New Grove Dictionary of Music and Musicians 」と改められ、大きく拡大されて全20巻、記事数22,500、伝記数16,500となった[ 11] 。主編集者はスタンリー・セイディ [ 注 5] で、出版に際してはナイジェル・フォーチュン (英語版 ) [ 注 6] が主要な編者として貢献した。
この版は微修正を施しながら、1982年 と1983年 を除いて1995年 まで毎年再版された。1990年代 半ばには、全巻セットが2,300ドル で販売されていた。1995年 に再版された紙表紙版は500ドルだった。その時点で、編集者たちは1980年版の誤謬の修正よりも次の版に集中することを決めていたようである[要出典 ] 。
スピンオフ
「ニューグローヴ事典」の項目の中には、特定の事項について少量の組や個別の本として出されているものもある。これらで典型的なのは、個人や集団の作曲家に関して更新、加筆された項目[ 12] 、全4巻からなるアメリカ音楽事典(1984年 )[ 13] 、全3巻からなる楽器事典(1984年)[ 14] 、そして「新グローヴオペラ事典 」(セイディ編)である[ 15] 。
第2版
第2版はこのタイトルのまま、2001年 に全29巻で刊行された。この版はグローヴ・ミュージック・オンラインという名前で、インターネットで購読できるようになった[ 16] 。編者はスタンリー・セイディで、編集長はジョン・タイレル[ 注 7] である。CD-ROM版のリリースも予定されていたが、計画は実現しなかった。セイディは前書きにこう記している。「この版で一番大きく変わったことは、20世紀 の作曲家を網羅したことです。」
この版には大量に誤植や事実の誤記があり、批判に晒されることがある[要出典 ] 。誤りの中には学生に校正させたことが原因とされるものがあるが[要出典 ] 、学生を編集スタッフとして雇ったという事実はない[要出典 ] 。ストラヴィンスキー の作品一覧とワーグナー の参考文献一覧に脱落があったために、2巻が修正版として再版された。オンライン版も、図表が本文とは別の個所に離れて掲載されていることなどで批判の対象となっている[要出典 ] 。
日本語訳
1993年から1995年にかけ講談社 で出版。21冊および別巻2の全23巻での構成
オンライン版
現在、「グローブ音楽事典」の全巻がグローヴ・ミュージック・オンラインで購読可能である[ 17] 。オンライン版は幾度にもわたる改訂を経ており、また新規項目も加えられている。29巻の事典本編に加え、オンライン版では全4巻の「ニューグローヴオペラ事典」と全3巻の「ニューグローヴジャズ事典 (英語版 ) (バリー・カーンフェルド (英語版 ) [ 注 8] 編)の総計50,000の記事が追加されている。
この事典は元来マクミラン社から刊行されていたが、2004年 にオックスフォード大学出版局 に売却された。オンライン版は、2008年[要出典 ] からオックスフォード大学出版局のより大きな研究ツールである「オックスフォード・ミュージック・オンライン」の基礎として機能している[ 18] 。個人や教育目的で購入できるほか、世界中の多くの提携図書館で利用可能である[ 19] 。
現状
この事典は英語を理解できる者が音楽のトピックに関して研究を始めたり情報を探したりする場合に、大抵の場合音楽学 の最初の参考文献となり得るものである。事典がカヴァーする範囲と膨大な伝記の数々は、あらゆる学者にとって大きな価値を有するものである[ 20] 。
紙媒体のものは1,100ドルから1,500ドルであるが[ 21] 、グローヴ・ミュージック・オンラインの年間購読料は、2009年 10月23日 時点では285ドルである[ 22] 。
内容
2001年版の収録内容は以下の通りである。
記事数 全29,499本
作曲家、演奏家、音楽に関する作家の伝記 20,374本
形式、用語、ジャンルに関する記事 1,465本
地域、国、都市に関する記事 805本
580本が古楽、教会音楽に関する内容
1,327本が世界の音楽に関する内容
1,221本がポピュラー音楽、軽音楽、ジャズに関する内容
楽器、楽器メーカー、演奏法に関する記事 2,261本
印刷、出版に関する記事 693本
174本が記譜法に関する内容
131本が楽譜に関する内容
ユーモア
この事典には実在しない人物が登場する。
ダグ・ヘンリク・エスルム=ヘレルプ (Dag Henrik Esrum-Hellerup )1980年版に悪ふざけとして登場した。エスルム=ヘレルプの姓はデンマーク 、コペンハーゲン の郊外に位置する村の名前に由来する[ 23] 。この記事を執筆したのはロバート・レイトン(Robert Layton)である。うまく百科事典に潜り込むことができたものの、エスルム=ヘレルプが登場するのは初版だけとなった。すぐにいたずらだとバレてしまい、記事は除去されて余ったスペースには図表が挿入された[ 12] [ 24] 。1983年にデンマークのオルガニスト であるヘンリー・パルスマー(Henry Palsmar)が、コペンハーゲンの歌唱学校である聖アンネ高校の教え子を集めてアマチュア の合唱団 を立ち上げ、エスルム=ヘレルプ合唱団を名づけた[ 25] 。
グリエルモ・バルディーニ (Guglielmo Baldini )は、1980年版にいたずらで登場した作曲家の名前である。エスルム=ヘレルプとは異なり、バルディーニはその時に創られた人物ではない。彼の名前と伝記は、約100年前に著名なドイツの音楽学者であるフーゴー・リーマン が創作したものである。「ニューグローヴ事典」でのバルディーニの記事は、「フライブルク教区の歴史アーカイブ Archiv fur Freiburger Diozesan geschichte 」と思われるような形式の論文が架空の出典となって示されている。うまく百科事典に入り込めたが、バルディーニが登場するのは初版だけとなった。すぐにいたずらだとバレてしまい、記事は除去された[ 12] 。
共同執筆者によって、1980年版用に書かれた音楽のごろ合わせ と辞書的ユーモアに溢れた7つのパロディ 記事が、1981年 2月のミュージカル・タイムズ 紙に掲載されている。ここでもスタンリー・セイディが編集者を務めていた[ 26] 。これらの記事は実際に事典に載ることはなかった。
Brown, 'Mother' (Mary) (b 1550; d Wapping 3 Jan 1611)
Ear-flute
Hameln [Hamelin]
Khan't, Genghis (Tamburlaine ) (b Ulan Bator, c1880; d New York, 22 Nov 1980)
Stainglit (Nevers), Sait d'Ail (fl Middle Ages) – i.e. 'Stanley Sadie', following the example of Luis van Rooten
Toblerone
Verdi, Lasagne ['Il Bolognese'] (b Bologna, 10 Oct 1813; d Naples, 15 March 1867)
脚注
注釈
^ 訳注:1856年生まれ、イギリス の批評家 、学者 。イングランド音楽のルネッサンス(English Musical Renaissance )を提唱した学者の一人。
^ 訳注:1879年 生まれ、イギリスの音楽批評家、辞書編集者。32年間タイムズ紙 の音楽批評の主筆を務めた。
^ 訳注:1888年 生まれ、スイス 生まれでイギリスの辞書編集者、音楽学者、音楽批評家。
^ 訳注:1922年 生まれ、イギリスの音楽学者、指揮者 。学者としては古楽 を専門にしていた。
^ 訳注:1930年 生まれ、イギリスの音楽学者、音楽批評家、編集者。タイムズ紙で音楽批評を行った。
^ 訳注:1924年 生まれ、イギリスの音楽学者、政治活動家。
^ 訳注:1942年生まれ、レオシュ・ヤナーチェク に関する著作がある。(John Tyrrell )
^ 訳注:1950年 生まれ、アメリカの音楽学者、ジャズ のサックス 奏者。
出典
^ The volumes of the first edition were published as follows:
Vol. 1 (1879) A - Impromptu
Vol. 2 (1880) Improperia – Plain Song
Vol. 3 (1883) Planché – Sumer is icumen in
Vol. 4 (1889) Sumer is icumen in – Z, Appendix, Supplement
Index (1890)
文字検索可能なファイルはGoogle ブックス で入手できる。 第1巻 、第2巻 、第3巻 、第4巻 、索引 .
他のPDF ファイル(文字検索付加)も入手可能である。 IMSLP .
^ 1900年の再版は文字検索可能なファイルがインターネットアーカイブ で手に入れることができる。第1巻 、第2巻 、第3巻 、第4巻 (第4巻は 付録 、索引 、と著者一覧 を含む)
^ Grove II, vol. 1, p. vii
^ 第2版の各巻は以下のように出版されている。
文字検索可能なファイルの入手先
文字検索不可のファイルの入手先 IMSLP
^ 1920年の「アメリカ人補遺」に関しては以下の通り。
^ Blom 1954 (1970 reprint), p. iv.
^ 第4巻の「アメリカ人補遺」はニューヨークで出版された。OCLC 74811413
^ ニューヨークで出版された第4版「補巻」については右記。OCLC 248932279
^ ロンドンで出版された第4巻「補巻」については右記。OCLC 493270221
^ Blom 1954.
^ Scott Kennedy, Reference Sources for Small and Medium-sized Libraries (1999) p. 216.
^ a b c Oestreich, James R. (2001年1月21日). “Words on Music, 25 Million of Them” . The New York Times . https://www.nytimes.com/2001/01/21/books/words-on-music-25-million-of-them.html 2009年10月23日閲覧。
^ The New Grove Dictionary of American Music , 1984. ISBN 978-0-333-37879-3 .
^ The New Grove Dictionary of Musical Instruments , 1984. ISBN 978-0-333-37878-6 .
^ The New Grove Dictionary of Opera , 1992. ISBN 978-0-333-48552-1 .
^ Grove Music Online – 2001年版のオンラインバージョン
^ “About Grove Music Online ”. 2012年1月26日閲覧。
^ “About Oxford Music Online ”. 2008年7月12日閲覧。
^ Oxford Music Online: listing at WorldCat .
^ Article by Kathleen McMorrow, University of Toronto, in CAML Review, 7 February 2010, accessed 30 January 2011
^ Amazon.com – Product page ISBN 978-0-19-517067-2 . Retrieved 8 March 2010.
^ “Grove Music Online Subscription Order Form ”. 2009年10月23日閲覧。
^ Foreign-language webpage showing the original dictionary entry Archived 2011年7月19日, at the Wayback Machine .[信頼性要検証 ]
^ Levison, Brian; Farrer, Frances (2007). “How the Danes Discovered a New Composer” . Classical Music's Strangest Concerts: Extraordinary But True Stories From Over Five Centuries of Harmony and Discord . London: Robson Books. pp. 40–43. ISBN 978-1-86105-938-3 . https://books.google.co.jp/books?id=mjsulsePxWUC&pg=PA40&redir_esc=y&hl=ja
^ Foreign-language webpage for the Choir Archived 2013年8月25日, at the Wayback Machine .
^ [Stanley Sadie and others] 'The New Grove' , in The Musical Times , Vol. 122, no. 1656 (February 1981), pp. 89–91
参考文献
Blom, Eric, editor (1954). Grove's Dictionary of Music and Musicians (fifth edition). New York: St. Martin's Press (OCLC 13586086 ) and London: Macmillan (OCLC 492124281 ).
外部リンク
Worldcat listings for Grove Dictionaries
'About the New Grove Dictionary' , San Francisco Symphony Orchestra
'Oxford Music Online (contains Grove Music Online)' , Rutgers University Libraries
'Grove sees trees but not forest' , Greg Sandow and Anne Midgette , The Wall Street Journal , July 3, 2001
'You could look it up: The New Grove Dictionary of Music & Musicians' (Review) , *Benjamin Ivry , Commonweal , March 9, 2001
Allen P. Britton, 'Review: The New Grove Dictionary of American Music', American Music , Vol. 5, No. 2 (Summer, 1987), pp. 194–203 at JSTOR
Fairtile, Linda B. (Fall 2003). “Reviewed work(s): The New Grove Dictionary of Music Online by Laura Macy”. Journal of the American Musicological Society 56 (3): 748–754. doi :10.1525/jams.2003.56.3.748 . JSTOR 3128793 .
Phillip D. Crabtree, Donald H. Foster, 1993, Sourcebook for Research in Music , Bloomington: Indiana University Press , ISBN 0-253-21323-1 at Google Books
Interview with Stanley Sadie , by Bruce Duffie October 29, 1992
スタンリー・セイディ、上記インタビューの日本語訳 , 1992年10月29日
Dictionary of Music and Musicians の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト (1904 edition, 1920 supplement)