トヨタIMVプロジェクトトヨタIMVプロジェクト(トヨタアイエムブイプロジェクト)とは、2002年に発表された新興国市場をターゲットにしたトヨタ自動車の世界戦略車プロジェクトである。生産供給して販売する体制を全世界で最適に構築して需要変動や為替損益による影響を排し、2010年までにトヨタが世界市場の15パーセントを獲得するコミットメントである「グローバル15」、の主要プロジェクトの一つである。本施策から生み出された車はIMVシリーズとよばれ、1種のプラットフォームからボディタイプは3種で5車種が生産販売される。 概要IMV (アイエムブイ) は「 Innovative International Multi-purpose Vehicle 」の略である。IMVプロジェクトは、一つのプラットフォームから世界の新興国の多様なニーズにあわせて生産する新興国専用の世界戦略車である。 この生産供給体制を構築するために、日本国内の主要な関連企業(サプライヤー)とともにトヨタ生産方式を世界中で現地に定着させた。従来の海外展開は、元となる完成車や生産技術がすでに日本にあり、部品の多くも日本から供給していた。本施策では、当初の商品企画と設計は日本でおこなうが、それ以降の生産、部品の供給、組立などは日本以外で融通し合い、生産以降に関して日本が手本とならない初の試みとなった。 IMVプロジェクトで生産される車は1つの共有プラットフォームから、ピックアップトラック、ミニバン(MPV)、スポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)とボディタイプ別で3種、さらにピックアップトラックには3種のバリエーションがあり、計5車種が生産販売されている。これらの生産のために、日本国外を車両および部品のグローバルな生産・供給の拠点とすること、さらには、主要輸出拠点4カ国でほぼ同時期に生産することという2点において、トヨタにとって初の取り組みとなった。「トヨタが本当のグローバル企業になれるかの試金石」としていたが、2006年(平成18年)には、世界で100万台程度を販売するカローラ、ヴィッツ/ヤリス、カムリにIMVを含め、四天王とよばれるまでになった[1]。齋藤明彦は「トヨタがひと皮むけるキーとなったクルマ」[2]であり、トヨタの歴史として記録にとどめるべきプロジェクトとしている。2005年(平成17年)社長メッセージでは、「高い品質と快適性を求めやすい価格で実現したIMVシリーズの生産が、タイなど世界7カ国でスタートし、好調な販売を持続している」と報告された[3]。 背景1997年7月よりタイを中心に始まったアジア通貨危機により、通貨の不安定化、国内金利の上昇、景気後退などの打撃によりタイ国内市場は急速に収縮し、アジア戦略車の販売は激減した。タイへ進出しアジアの地域内輸出を前提としていた部品関連業者の設備稼働率も低下した[4]。すべての企業が一律に悪影響を受けたわけではなく、その形態により影響が異なった。タイに進出し原材料をタイに輸入することによってまかなっていた企業では販売先がアジア域内の場合収益が悪化した。一方、原材料を現地調達していた企業は影響が少なく、さらに、アジア外への輸出では、反対に相対的な価格競争力が高まって、輸出が増加した。トヨタタイでも生産していたピックアップトラックはアジア域外への輸出は好調だった[4]。 一方、2002年1月にはAFTA(ASEAN自由貿易地域)が6ヵ国で開始され徐々に拡充されつつあり、タイ政府は「アジアのデトロイト化」計画で2010年までに200万台達成を目標とし、GMやフォード・モーターもタイに生産拠点を集中しはじめた。 このため、タイで最大のシェアを持つトヨタは、2003年までに100%ASEAN域内とする計画としてタイでの強化を図っていた[5]。 さらに、トヨタは2002年4月に発表した「2010年グローバルビジョン」のなかで全世界のシェア15%を握る目標「グローバル15」を掲げた。シェア15%の販売台数として年900万台を目標とし、その達成のために日本、北米、欧州以外で100万台の販売増を課題とした。 トヨタは、これらを通じ、為替相場の変動に対応できる世界的視野での共通車種を開発生産できるような生産体制の再構築を目指した。 目的トヨタIMVプロジェクトは、トヨタ自動車が世界規模での最適な生産・供給体制の構築へ向けた取り組み。世界140カ国以上の市場への導入を前提として、21世紀のトヨタ購入層が求める耐久性と快適性を兼ね備えたモデルを開発。 トヨタ自動車での海外生産展開は、日本にすでにあるモデルを元に、日本での経験をベースとして展開していた。しかしIMVプロジェクトでは日本では企画のみで、以降はすべて日本国外でおこなう、日本国外の拠点における車両・部品のグローバル生産・供給とした。さらに車両輸出拠点となる4カ国でほぼ同時期に生産を開始こともはじめての試みであった。これらは従来にない画期的な取り組みであったが、これはグローバル15達成のための必須プロジェクトとされた。 IMVプロジェクトは“どこの国で作っても高い品質を確保する”という意味の「Made by Toyota」をコンセプトとする[6]。 推移2004年8月にタイでIMVシリーズの生産を開始した。生産・販売開始後、販売数は予想以上に伸び、トヨタのアジア地域の連結販売台数は3年で3倍となった。2006年に50万台と見込んでいた予定生産台数は70万台に上方修正された。さらにはタイ新工場建設、インドネシア、アルゼンチン、南アフリカ各国での生産能力増強が発表され、一層の生産体制拡充を進め、トヨタはIMVによる世界の成長市場への商品供給能力をさらに強化している。 IMVシリーズトヨタではIMVプロジェクトから生み出された車種を総称してIMVシリーズとよんでいる。世界140カ国以上で販売する国際戦略車であり、プラットフォームは一つとされ、ピックアップトラック、ミニバン、SUVとボディタイプ別では3種だが、ピックアップトラックが3種のバリエーションがあり計5車種とされた。さらに、多くの人びとに受け入れられるよう、販売する各国での仕様はそれぞれの地域需要に対応しながら確定されるとした。 プラットフォームを共通化し低コストとし、また、新興国に求められているパワーと低価格という条件を満たしながらもトラック風ではなく乗用車風の高級感を併せ持つモデルが目指され、より魅力的な商品をより安く、かつ、トヨタらしく品質・性能・価格がバランスが取れている(トヨタの言葉で「グローバルベスト」である)ことを目指すことがコンセプトとされた。 5種のモデルは、それぞれIMV-IからIMV-Vまで(IMV-1からIMV-5まで)記号が振られた。IMV-IからIIIまではピックアップトラックで、IMV-I(IMV-1とも記する。以下同様)はBキャブ(Cab)、IMV-IIはCキャブ、IMV-IIIはDキャブとネーミングされた。IMV-IVはSUV、ここまではタイでの生産、IMV-Vはキジャンの後継となるより大型のモデルでインドネシアでの生産とされた。メディアなどではRVを多目的レジャー車と紹介するような位置づけでIMVシリーズを国際戦略車(IMV)や世界戦略車(IMV)とも紹介することがある。 IMVモデルラインナップ IMVシリーズは以下の5種がある
IMVシリーズ最初の車種はタイで生産されたピックアップトラック3種でこれはハイラックス・ヴィーゴとして販売された。その後、ミニバンはインドネシアで生産され同国ではキジャン・イノーバとして、その他ではトヨタ・イノーバとして販売された。SUVモデルは、トヨタ・フォーチュナー、ハイラックスSW4として販売された。 これらの車種を世界140カ国以上の市場に導入することを前提に、新規開発し、世界規模の最適生産・供給体制を構築するため、生産の中心拠点をタイ、インドネシア、南アフリカ、アルゼンチンの4か国とし、アジア、欧州、アフリカ、オセアニア、中南米、中近東の新興国市場へ輸出、さらにインド、フィリピン、マレーシアなどでは自国市場向けの車両を生産するなど多国籍の展開をおこない、ある一国でのトラブル発生時には他の生産拠点がバックアップすることによりリスク対応もおこなわれている。トヨタ関連の主要メーカーも共に進出し、生産拠点域内での現地調達率もあげ、主要部品についても、地元や周辺各国で生産し、各車両生産国に供給している。2004年の立ち上げ時には世界で年間55万台生産・販売する計画とされた[7]。 生産体制タイにおいて、当初の生産体制は、電子部品やエンジン制御部品はマレーシアから、ガソリンエンジンはインドネシアから、トランスミッションはフィリピンから輸入し、タイで組立をおこなう生産体制とされた。これはAFTA(ASEAN自由貿易地域)の拡充による関税の引き下げによりメリットを享受することで実現される。 このために、それまで日野自動車羽村工場でおこなっていたハイラックス生産をタイに移管しタイから完成車を輸出する体制とした。さらにタイからノックダウン(CKD)部品を出荷し他の国でアセンブリーをおこなうことも開始した。 トヨタの関連会社も同時に日本から主要生産拠点に出向くことが要求された。 生産拠点IMV関連生産拠点[8] アジア
IMV関連部品 当初の主要部品生産としてはタイでディーゼルエンジン、インドネシアでガソリンエンジン、フィリピンとインドでマニュアルトランスミッションを生産するとされた。
中南米
アフリカ
各地区での取り組みタイタイではバンコクの東部約25km程にあるサムットプラーカーン県サムロンにあるトヨタモータータイランド社に日野自動車よりハイラックス生産が移管された。当初より現地調達率は96%を確保した。うち70%は現地に進出した日系企業から調達。また車種により3割程度さらにコスト低減を図る。タイでの生産能力は、2004年時点では25万台だったが、2006年には45万台になり、2007年より55万台となる。これは当初の予想よりも10万台多かった。タイでは、ミニバンの「ウィッシュ」や小型車の「ソルーナヴィオス」も販売しており、これらを含め販売も好調となった。ソルーナヴィオス、ウィッシュ、カローラを生産するゲートウェイ工場を含めタイには2工場があり、サムロンが13万台、ゲートウェイが12万台の生産台数のところ、IMV投入によって当初サムロン工場を約10万台程度増強する予定だったが、それを上回る15万台増とした。 2005年5月2日に、バンコク近郊にピックアップトラックの新工場建設を発表。07年には生産能力を55万台とし、そのうち約30万台を輸出とする。2005年はタイ国内販売でハイラックス・ビーゴ、フォーチュナーの販売好調でトヨタがシェアおよそ4割となった。 日野自動車も2006年6月にトヨタ向けの部品増産を発表している。日野自動車はタイに3工場を稼動させており、第1工場はトヨタ向けのフレームやアクスルを生産。この生産能力を年30万台から36万台に増強する。 インドネシアトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・インドネシアのジャカルタ郊外の西ジャワ地区にあるカラワン工場でIMVシリーズのミニバン(インドネシア名:キジャンイノーバ)を生産。 インドネシアでは、IMVプロジェクトを「グローバル・クオリティ・プロジェクト」と位置付けている。世界の市場で高い競争力とグローバルな品質を持ったミニバンおよびガソリンエンジンを生産・供給し、インドネシア経済に貢献するとしている[9]。当初、ミニバンキジャン・イノーバの生産、その後、SUVとガソリンエンジンが追加された。年間8万台の生産、うち1万台をアジア・中近東等に輸出する[9]。2005年4月には、タイとインドネシアでの生産能力の増強が発表[10]。2006年12月には完成車輸出台数を年間約7000台から約4万台(2007年)への拡大を発表。 アルゼンチン2005年 アルゼンチントヨタ(TASA)が新型ハイラックスをサラテ工場で2月28日から生産を開始。IMVの生産開始5ヵ国目となった。2005年10月からはSUV(ハイラックスSW4)の生産も開始した。トヨタでは、TASAを中南米向けのピックアップトラックおよびSUVの供給中核拠点として位置付け、年間生産6万5000台の7割を中南米約20ヵ国に輸出する。 インドトヨタ キルロスカモーター(Toyota Kirloskar Motor Private Ltd(TKM))のバンガロール工場で2005年2月15日からイノーバが月間4,500台で生産開始された。TKMが99年 12月から生産していたインド専用の多目的車クオリスの後継モデルとなった。また、トヨタのインド部品合弁会社(トヨタ・キルロスカ・オート・パーツ:TKAP)では、トヨタのIMVシリーズに搭載するトランスミッションを製造し全量輸出している。 2007年2月、トヨタ自動車は2010年をめどにインド南部の都市バンガロールにある第一工場の近くに小型車組み立て工場を新設すると発表。生産車種は開発中の「エントリー・ファミリー・カー」。04年から東南アジアなどで販売するIMVシリーズに続く新興国向け戦略車となる。2リッターのIMVに対し、1リッターのコンパクトカーとなる予定。 ベトナムIMVの販売では、ベトナム自動車市場が低迷しているなかで、2006年はイノーバが約1万台販売され、単一車種として過去最高を記録し、トヨタは市場シェアを45.8%に拡大した[11]。 トヨタ関連会社IMVはトヨタの生産体制を日本以外で実現することが求められており、関連企業もそれぞれIMVに対する活動をおこなっている。
年表
その他関連するプロジェクトとして、ダイハツ工業の「U-IMV(アンダーInnovative International Multi-purpose Vehicle)」プラットフォームがある。 脚注
外部リンク
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