デカボラン
別称
decaborane decaboron tetradecahydride
識別情報
CAS登録番号
17702-41-9
PubChem
6328162
ChemSpider
21241886
UNII
4O04290A2J
EC番号
241-711-8
[H]1[BH]234[BH]156[BH]278[BH]39([H]4)[BH]712[BH]853[BH]645[BH]311[BH]922[BH]14([H]5)[H]2
InChI=1S/B10H14/c11-5-1-2-3(1,5)7(2,9(3,5,11)13-7)8(2)4(1,2)6(1,5)10(4,8,12-6)14-8/h1-10H
Key: XAMMYYSPUSIWAS-UHFFFAOYSA-N
InChI=1/B10H14/c11-5-1-2-3(1,5)7(2,9(3,5,11)13-7)8(2)4(1,2)6(1,5)10(4,8,12-6)14-8/h1-10H
Key: XAMMYYSPUSIWAS-UHFFFAOYAD
特性
化学式
H14 B10
モル質量
122.22 g mol−1
外観
白色結晶
匂い
苦い、チョコレート様[ 1]
密度
0.94 g/cm3 [ 1]
融点
97-98 °C , 272 K, -47 °F
沸点
213 °C , 486 K, 415 °F
他の溶媒への溶解度
冷水に少し溶ける [1]
蒸気圧
0.2 mmHg[ 1]
危険性
GHSピクトグラム
GHSシグナルワード
危険(DANGER)
Hフレーズ
H228 , H301 , H310 , H316 , H320 , H330 , H335 , H336 , H370 , H372
Pフレーズ
P210 , P240 , P241 , P260 , P261 , P262 , P264 , P270 , P271 , P280 , P284 , P301+310 , P302+350 , P304+340
主な危険性
空気に晒されると自発的に点火しうる[ 1]
NFPA 704
発火点
149 °C (300 °F; 422 K)
許容曝露限界
TWA 0.3 mg/m3 (0.05 ppm) [皮膚][ 1]
半数致死濃度 LC50
276 mg/m3 (ラット, 4時間) 72 mg/m3 (マウス, 4時間) 144 mg/m3 (マウス, 4時間)[ 2]
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
デカボラン (Decaborane)またはデカボラン(14) (Decaborane(14))は、化学式B10 H14 のボラン である。白色の結晶で、構造的に、また他のホウ素 -水素 化合物の前駆体として、ホウ素-水素クラスター化合物 の中で主要なものの一つである。毒性があり、揮発性で、不快な匂いを持つ[ 3] 。
取り扱い、性質、構造
デカボラン(14)の物理的性質はナフタレン 及びアントラセン と似ている。これら3つは全てが揮発性の無色の固体である。精製は、一般的に昇華 により行われる。燃焼性が高いが、他のボランと同様に明るい緑色の炎を出して燃える。湿った空気に対してはあまり反応しないが、沸騰水中で加水分解 され、水素を放出してホウ酸 の水溶液となる。冷水の他、様々な非極性溶媒や穏やかな極性の溶媒に溶解する[ 3] 。
デカボラン中での10個のホウ素からなる枠組みは、不完全な十八面体 に似ている。各々のホウ素原子は、1つのラジカル 状水素化物 を持ち、クラスターの開放部付近にある4つのホウ素原子はさらに余分な水素化物を持つ。クラスター化学 の用語では、この構造は、"nido"に分類される。
合成と反応
より小さな水素化ホウ素クラスターの熱分解 により合成される。例えば、ジボラン やペンタボラン(9) の熱分解により、水素分子が失われ、デカボランが合成される[ 4] 。研究室スケールでは、水素化ホウ素ナトリウム を三フッ化ホウ素 で処理してNaB11 H14 とし、これを酸化してボランと水素ガスを遊離させる[ 3] 。
これをアセトニトリル やジエチルスルフィド 等のルイス塩基 と反応させて付加物 を形成する[ 5] [ 6] 。
B10 H14 + 2 L → B10 H12 L2 + H2
これらの分子種は"arachno"クラスターに分類される。これをアセチレン と反応させると、"closo"型のo-カルボラン となる。
B10 H12 ·2L + C2 H2 → C2 B10 H12 + 2 L + H2
デカボラン(14)は弱いブレンステッド酸 で、脱水素化 で生じるアニオン [B10 H13 ]- は再びnido型となる。
ベレロシュ反応 では、デカボランは、arachno-CB9 H14 - に変換される。
B10 H14 + CH2 O + 2 OH− + H2 O → CB9 H14 − + B(OH)4 − + H2
利用
現状、特段の用途はないが、研究は行われている。
2018年、LPP Fusionは、核融合 実験の次の段階でデカボランを用い計画を発表した[ 7] 。デカボランは、半導体 製造においてホウ素のイオン注入 を低エネルギーで可能であると評価されている。また、ホウ素を含む薄膜 製造のためのプラズマCVD にも用いられる。核融合実験では、ホウ素が中性子 を吸収する性質を用い、これらのホウ素を豊富に含む薄膜は、トカマク型 の真空室を「ホウ素化」し、プラズマ に粒子や不純物が再び持ち込まれるのを削減して全体の性能を向上させるのに用いられる[ 8] 。
また、デカボランは、高性能のロケット燃料 の添加物としても用いられる。エチルデカボラン等、誘導体も研究されている。
ケトン 及びアルデヒド の還元的アミノ化 の効率的な試薬として用いられる[ 9] 。
安全性
ペンタボランよりは弱いが、ペンタボランと同様に中枢神経系 に作用する強力な毒である。皮膚から吸収されうる。
昇華による精製のためには、発生するガスを除去するために継続的な排気が必要である。粗サンプルは、100℃近くで爆発する[ 6] 。
四塩化炭素 と混合すると爆発物となり、製造工場で頻繁に言及される爆発原因となる[ 10] 。
出典
^ a b c d e NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards 0175
^ “Decaborane ”. 生活や健康に直接的な危険性がある . アメリカ国立労働安全衛生研究所 (英語版 ) (NIOSH). 2025年1月9日 閲覧。
^ a b c Gary B. Dunks, Kathy Palmer-Ordonez, Eddie Hedaya "Decaborane(14)" Inorg. Synth. 1983, vol. 22, pp. 202–207. doi :10.1002/9780470132531.ch46
^ グリーンウッド, ノーマン ; アーンショウ, アラン (1997). Chemistry of the Elements (英語) (2nd ed.). バターワース=ハイネマン (英語版 ) . ISBN 978-0-08-037941-8 。
^ Charles R. Kutal David A. Owen Lee J. Todd (1968). closo‐1,2‐Dicarbadodecaborane(12) . Inorganic Syntheses. 11 . pp. 19–24. doi :10.1002/9780470132425.ch5
^ a b M. Frederick Hawthorne, Timothy D. Andrews, Philip M. Garrett, Fred P. Olsen, Marten Reintjes, Fred N. Tebbe, Les F. Warren, Patrick A. Wegner, Donald C. Young (1967). “Icosahedral Carboranes and Intermediates Leading to the Preparation of Carbametallic Boron Hydride Derivatives”. Inorganic Syntheses . Inorganic Syntheses. 10 . pp. 91–118. doi :10.1002/9780470132418.ch17 . ISBN 9780470132418
^ Wang, Brian (2018年3月27日). “LPP Fusion has funds try to reach nuclear fusion net gain milestone | NextBigFuture.com” (英語). NextBigFuture.com . https://www.nextbigfuture.com/2018/03/lpp-fusion-has-funds-try-to-reach-nuclear-fusion-net-gain-milestone.html 2018年3月27日 閲覧。
^ “Boronization effects using deuterated-decaborane (B10 D14 ) in JT-60U ”. 15th PSI Gifu, P1-05 . Sokendai, Japan: National Institute for Fusion Science. 2004年5月30日時点のオリジナル よりアーカイブ。2022年1月28日 閲覧。
^ Jong Woo Bae; Seung Hwan Lee; Young Jin Cho; Cheol Min Yoon (2000). “A reductive amination of carbonyls with amines using decaborane in methanol”. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1 (2): 145–146. doi :10.1039/A909506C .
^ “Condensed version of the 79th Faculty Research Lecture Presented by Professor M. Frederick Hawthorne ”. UCLA. 2022年1月28日 閲覧。
関連文献