1990年代初頭に芸術家としてデビューしたのち、1993年に奨学金を得てベトナムへ帰郷し、ベトナム人写真家による戦争写真を収集した[7]。当時は北ベトナム軍の従軍写真家ヴォ・アン・カーン(Võ An Khánh)への興味があったという[注釈 1][9]。1997年にはホーチミン市に拠点を移した。ベトナムでは政府による言論統制があるため、活動の継続を懸念する声もあったが、「ベトナム人としての自分がもつ記憶や人生のバックグラウンドを見極めるため」[7]、「あのとき自分の家族のまわりで何が起こっていたのか、そして、どうしてそんなことが自分の国に起きてしまったのか、何とか知りたい」[10]と話している。
ベトナムでは、古美術品や戦争時の絵画、ポストカードを収集した。家族がベトナムを脱出した時に残した写真があるのではないかという期待が動機だった[11]。政府の検閲のため国内での作品公開はできなかったが、収集品をもとに2000年以降から活発に制作・発表をした[12]。2000年代初頭にアメリカで数々の個展を開催し、ニューヨーク近代美術館で『プロジェクト93』(2010年)を開催した[13]。その後、世界各国で作品を展示し、メディアシティ・ソウル2014、ドクメンタ13(英語版)(2012年)、シンガポール・ビエンナーレ(英語版)(2006年、2008年)などに参加した[14]。収集したポストカードを元にしたインスタレーションには、『Crossing the Farther Shore』(2014年)[15][16][17]、『Erasure』(2011年)が挙げられる[18]。
ホーチミン市に拠点を移してからは、ベトナムで芸術家の育成も行っている。1990年代以降のベトナムは、政府によって芸術家の活動が制限されており、芸術協会が地元芸術家の支援と検閲を行う状況にあった[注釈 2]。そこでレは、アメリカの美術館や団体の支援を受けて、非営利団体のベトナム芸術基金を設立した。この団体は、西側諸国で活動する芸術家、歴史家、キュレイターらをベトナムに派遣して、若手芸術家の育成に協力した。2007年には、ホーチミン市にアートスタジオ「サン・アート」をティファニー・チュン(英語版)、トゥアン・アンドリュー・グウェン(Tuan Andrew Nguyen)らと共同設立した[注釈 3][21][22]。サン・アートは、2009年にはキュレイターのゾーイ・バット(Zoe Butt)をディレクターに迎え、さまざまな制約を受けながら活動を続けている[23]。
戦争と芸術家の関係をテーマとした作品として、『光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ』(2012年)や、『闇の中の光景』(2015)がある。『光と信念』はベトナム共産党の従軍画家、『闇の中の光景』はベトナム独立運動への参加後に共産党の信奉を捨てて表現主義絵画を描いたトラン・トゥルン・ティン(Tran Trung Tin)を撮影している。当初は1つの作品として予定されていたが、撮影を通して2つの別個の作品となった。レはいずれかを否定するのではなく、それぞれが完結した議論として完成させた[14]。