テンジクネズミ形類 またはテンジクネズミ型類 (テンジクネズミがたるい・テンジクネズミけいるい、Caviomorpha )は齧歯目 ヤマアラシ形亜目 の一系統群。新世界 のヤマアラシ顎類 の全てが含まれる。化石 記録と分子系統解析の両方から支持されるクレード である。かつては齧歯目 からは独立した分類群とされていたが、現在は齧歯目の一系統群であるとコンセンサスが得られている。絶滅したオオフチア科 (英語版 ) や現生のチンチラネズミ 、フチア 、モルモット 、カピバラ 、ビスカーチャ 、ツコツコ 、アグーチ 、パカ 、パラカナ (英語版 ) 、アメリカトゲネズミ 、アメリカヤマアラシ 、デグー などが含まれる。
起源
Neoreomys
南アメリカ 最初の齧歯類の化石は、Cachiyacuy contamanensis 、C. kummeli 、Canaanimys maquiensis 3つの分類群が知られる。またEobranisamys sp. (Dasyproctidae) と Eospina sp.の歯の化石が見つかっており、これは始新世 と漸新世 のSanta Rosa 動物相でも見つかっている。漸新世後期までに、全ての上科とほとんどの科の化石記録が現れる。
この時は既に南アメリカ大陸は全ての大陸から孤立していたが、孤立した南アメリカ大陸にどのように齧歯類が到達したかについては様々な説が提唱されてきた、ほとんどの説で、齧歯類の小さなグループが、マングローブ または流木の上に乗り、海域を横切って移動したことが想定されている。
最も一般的な説では、テンジクネズミ形類全ての祖先が、当時は現在よりも狭かった大西洋 を渡りアフリカ からやってきたとされる。これは分子系統解析からも裏付けられており、フィオミス形類 (Phiomorpha )(厳密にはデバネズミ科 (Bathyergidae )、アフリカイワネズミ科 (Petromuridae )、ヨシネズミ科 (Thryonomyidae ))はテンジクネズミ形類の姉妹群とされる。実際、ラオスイワネズミ が発見されるまで、現生のヤマアラシ顎下目 の科は南アメリカとアフリカまたはアフリカを含む分布範囲(ヤマアラシ科 )に限定されている。新世界ザル も同じ時期にアフリカから南アメリアに渡ったと考えられる[ 8] 。
テンジクネズミ形類は漸新世初期にカリブ海諸島 のバハマ や大アンティル島に分布を広げた[ 9] 。
これはまた別の渡航拡散と考えられるが[ 10] [ 11] 、陸橋の形成によるとする説もある[ 9] 。
多様性
テンジクネズミ形類は南アメリカに到達後に爆発的に多様化した。アメリカ有袋類 など齧歯類 に似たニッチ にいる他の種に生存競争で勝っていった。主として植物食 という特徴は保持したまま、サイズはラット 大のアメリカトゲネズミ (Echimyidae )からバイソン 大のPhoberomys まで多様した。
生態型としては、ツコツコ などの穴を掘るホリネズミ のような型、アメリカヤマアラシ や一部のアメリカトゲネズミ などの樹上型、マーラ などの走行型、カピバラ やヌートリア などの水生型がある。 生息地は、草原 (マーラ )、高山 (チンチラ とチンチラネズミ )、森端 (オマキヤマアラシ (英語版 ) )、密な熱帯林 (パカ とアクシ (英語版 ) ) などである。
多くのテンジクネズミ形類の種はアメリカ大陸間大交差 以降に中央アメリカ に渡ったが、メキシコ北部以北に自然定着できたのはカナダヤマアラシ のみである。(他、絶滅したカピバラ Neochoerus pinckneyi もこの「偉業」を成し遂げた)。 ヌートリア は北米に導入された外来種 であることが証明されている。
科
科の和名は川田ほか (2018) [ 12] による。
分子系統解析により分類にいくらかの変更が提案されていることに留意。パカラナ科 (Dinomyidae )は現在はテンジクネズミ上科 (Chinchilloidea )ではなくチンチラ上科 (Chinchilloidea )に属すと考えられている。チンチラネズミ科 (Abrocomidae )はデグー上科 (Octodontoidea )に属す可能性がある。カピバラ はテンジクネズミ科 に含まれる。
脚注
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