チオリン酸 (チオリンさん、Thiophosphate)は一般式 PS4−x Ox 3- (x=0, 1, 2, 3)で示されるリン化合物 または陰イオン で、一つまたは複数の酸素 および硫黄 が様々な官能基 で修飾されたものを含む。チオホスフェートまたはホスホロチオエート(Phosophorothioate, PS)ともいう。チオリン酸は5価のリン の周囲に硫黄および酸素が配位した四面体構造を取る[ 1] 。
有機チオリン酸化合物
有機チオリン酸化合物は有機リン化合物 の一部であり、構造は無機チオリン酸化合物と同様である。一般式(RO)3-x Rx PSで表され、ROの部分をRSで置換したものも含まれる。殺虫剤 や医薬品、潤滑油添加剤 として利用されているものも多い[ 1] 。
オリゴヌクレオチドホスホロチオエート(OPS)はオリゴヌクレオチド のリン酸部分の酸素を硫黄に置換したものである。アンチセンス医薬 の基礎となっており、ホミビルセン (英語版 ) (Fomivirsen, 商品名:Vitravene)、オブリメルセン (英語版 ) (Oblimersen)、アリカホルセン (英語版 ) (Alicaforsen)、ミポメルセン (英語版 ) (Mipomersen, 商品名:Kynamro)など様々な医薬が開発されている[ 3] 。
無機チオリン酸化合物
チオリン酸イオンは化学式[PS4−x Ox ]3- で表される。3価の陰イオンとしては極めて高いpHにおいてのみ存在し、通常はプロトン付加を受けて[Hn PS4−x Ox ](3-n)- として観測される。
一チオリン酸塩
一チオリン酸の球棒モデル
一チオリン酸は[PO3 S]3− で表される陰イオンで、C3v 対称性を有する。塩としては一チオリン酸ナトリウム(Na3 PO3 S)が知られている。一チオリン酸は生化学においてリン酸のアナログとして利用され、特に一チオリン酸エステル類は転写 [ 4] や置換干渉解析の試薬として用いられる。「一チオリン酸」という言葉が(CH3 O)2 POS− などのエステルを指す場合もある[ 5] 。
二チオリン酸塩
二チオリン酸は[PO2 S2 ]3− で表される陰イオンで、C2v 対称性を有する。五硫化二リン と水酸化ナトリウム を反応させることにより、無色透明の二チオリン酸ナトリウムが得られる[ 6] 。
P2 S5 +6NaOH→2Na3 PO2 S2 +H2 S+2H2 O
二チオリン酸 は二チオリン酸バリウムを硫酸 と反応させることで単離できる。
Ba3 (PO2 S2 )2 +3H2 SO4 →3BaSO4 +2H3 PO2 S2
Na3 PO2 S2 は加水分解して一チオリン酸塩と硫化水素 を生ずる。
Na3 PO2 S2 + 2H2 O → Na3 PO3 S + H2 S
三チオリン酸塩および四チオリン酸塩
三チオリン酸イオンは[POS3 ]3− で表され、C3v 対称性を有する。また、四チオリン酸イオンは[PS4 ]3− で表され、Td 対称性を有する。
参考文献
^ a b J. Svara, N. Weferling, T. Hofmann "Phosphorus Compounds, Organic" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Wiley-VCH, Weinheim, 2006. doi :10.1002/14356007.a19_545.pub2
^ H. Spikes "The history and mechanisms of ZDDP" Tribology Letters, Vol. 17, No. 3, October 2004. doi :10.1023/B:TRIL.0000044495.26882.b5 .
^ Kurreck, J., "Antisense technologies.
^ Lorsch JR (1995). “Reverse transcriptase reads through a 2'–5' linkage and a 2'-thiphosphate in a template” . Nucleic Acids Res. 23 (15): 2811–2814. doi :10.1093/nar/23.15.2811 . PMC 307115 . PMID 7544885 . http://nar.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/23/15/2811 .
^ “A thiophosphate bridged platinum–zinc hetero-bimetallic complex: [(Me2 PhP)2 Pt{OSP(OR)2 }2 ZnCl2 ” . J. Chem. Soc., Chem. Commun. : 1036–1038. (1990). http://www.rsc.org/publishing/journals/article.asp?doi=C39900001036 .
^ R. Klement "Phosphorus" in Handbook of Preparative Inorganic Chemistry, 2nd Ed. Edited by G. Brauer, Academic Press, 1963, NY.
P-O結合のみ
P-C結合
1つのP-C結合
2つのP-C結合
3つのP-C結合
P-N結合
1つのP-N結合
2つのP-N結合
3つのP-N結合
P-C結合とP-N結合
1つのP-C結合と1つのP-N結合
P(V)
ホスホノアミダート (慣用呼称 ホスホノアミデート) (Phosphonamidate)
1つのP-C結合と2つのP-N結合
2つのP-C結合と1つのP-N結合
P-S結合
1つのP-S結合
P(III)
ホスホロチオアイト (Phosphorothioite)
P(V)
2つのP-S結合
P(III)
ホスホロジチオアイト (Phosphorodithioite)
P(V)