チェンバロ協奏曲 (バッハ)ヨハン・ゼバスティアン・バッハが作曲したチェンバロ協奏曲は、1台用から4台用まであり、1台用は8曲(うち1曲は断片)、2台用3曲、3台用2曲、4台用1曲の計14曲がある。なお、現在では独奏楽器にチェンバロではなくピアノを用いる場合は「ピアノ協奏曲」と表記される場合もある。 概要バッハは1729年から1741年にかけて、ライプツィヒのコレギウム・ムジクムの指揮をしており、バッハのチェンバロ協奏曲は、その演奏会のために作曲されたものである。しかしその多くは、バッハの旧作、あるいは他の作曲家たちの作品を編曲したものであると考えられている。それらの原曲が失われていることも多いが、今日では原曲を復元し演奏することも盛んに行なわれている。 バッハがコレギウム・ムジクムの仕事を始めた頃、長男のヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ、次男のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハを始めとする息子たちや、弟子のヨハン・ルートヴィヒ・クレープスらが一流のチェンバロ奏者に成長しており、このことが複数のチェンバロのための協奏曲の成立の背景にあると考えられる。 協奏曲の原曲
楽曲の解説と構成この協奏曲集においては、「独奏チェンバロ、弦楽合奏および通奏低音」という楽器編成が全曲を通して基本になっている。 チェンバロ1台用チェンバロ協奏曲第1番 ニ短調 BWV1052原曲は消失したヴァイオリンのための協奏曲であると考えられている。ただし、原曲がバッハ自身の作品であったかどうかについては確証がない。第1楽章、第2楽章はカンタータ第146番『われら多くの苦難を経て』に、第3楽章はカンタータ第188番『われはわが信頼を』の序曲に転用されている。なお、このチェンバロ協奏曲第1番の異稿(BWV1052a)が存在する。 バッハのチェンバロ協奏曲の中で最も完成度が高く、有名な作品となっており、両端楽章で繰り広げられるチェンバロのブリリアントな名人芸は、その華やかな魅力によって聴き手を捉えて離すことがない。1738年から1739年頃にかけて作曲されたと考えられている。 構成は3楽章からなり、演奏時間は約20分。
チェンバロ協奏曲第2番 ホ長調 BWV1053原曲は消失したヴァイオリン協奏曲、あるいはオーボエかフルートのための協奏曲であると考えられているが、判明していない。第1楽章はカンタータ第169番『神ひとりわが心を占めたまわん』のシンフォニアを移調したもので、第2楽章は同じカンタータのアリアを転用し、第3楽章はカンタータ第49番『われは生きて汝をこがれ求む』に転用された。 前曲の第1番に匹敵するほどの規模を誇っているが、ここではチェンバロと弦楽の絡み合いが特色となっている。1738年から1739年頃にかけて作曲されたと考えられている。 構成は3楽章からなり、演奏時間は約18分。
チェンバロ協奏曲第3番 ニ長調 BWV1054原曲は今日でも演奏される有名なヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042である。ヴァイオリン協奏曲第2番として演奏される機会が多く、チェンバロ協奏曲として演奏されることは少ない。 チェンバロの奏法が存分に取り入れられ、独自の魅力を持っている。1738年から1742年頃にかけて作曲されたと考えられている。 構成は3楽章からなり、演奏時間は約17分。
チェンバロ協奏曲第4番 イ長調 BWV1055原曲は消失したオーボエ・ダモーレ協奏曲 イ長調か、ヴァイオリン協奏曲 ハ長調であったとされているが、近年では前者が原曲であったとする説が有力となっている。 1738年から1742年頃にかけて作曲されたと考えられている。 構成は3楽章からなり、演奏時間は約13分。
チェンバロ協奏曲第5番 ヘ短調 BWV1056原曲は消失したヴァイオリン協奏曲 ト短調であるとされているが、この原曲がバッハ自身の作品か、他の作曲家の作品であるかどうか不明である。第2楽章はカンタータ第156番『わが片足すでに墓穴に入りぬ』のシンフォニアと同一の音楽で、「バッハのアリオーソ」として親しまれており、映画「恋するガリア」の中でも使われた。 バッハとしては、初期のシンプルで古風な様式を示しているが、素材の有機的な展開といった点では、かなり巧みな書法が駆使されている。1738年から1742年頃にかけて作曲されたと考えられている。 構成は3楽章からなり、演奏時間は約9分ないし10分。
チェンバロ協奏曲第6番 ヘ長調 BWV1057ブランデンブルク協奏曲第4番 ト長調を原曲としている。原曲の2本のリコーダーのパートは、ほぼそのまま移調して用いられ、ヴァイオリンのパートは、チェンバロでの演奏効果を考慮したうえで改変が施されている。1738年から1742年頃にかけて作曲されたと考えられている。 構成は3楽章からなり、演奏時間は約16分。
チェンバロ協奏曲第7番 ト短調 BWV1058原曲はヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 BWV1041である。1727年から1742年頃に作曲されたと考えられている。 構成は3楽章からなり、演奏時間は約13分。
チェンバロ協奏曲第8番 ニ短調 BWV10591726年以降に作曲されたと考えられており、原曲は消失したオーボエ協奏曲である。現在は冒頭9小節の断片のみが残されているが、カンタータ第35番『霊と魂は驚き惑う』から復元が可能である。なお演奏する際は、第1楽章(「アレグロ」)は第1部のシンフォニア、第3楽章(プレスト)は第2部のシンフォニアから転用して演奏するのが一般的で、独奏チェンバロと弦合奏の他に、オーボエが加わる。第2楽章(アダージョ)は第2曲のアリアのオルガンパートをチェンバロに置き換えることで転用が可能である。Martin Straetenによる校訂版の楽譜がimslpにアップロードされている。第1楽章は現存する断片が反映されておらず、第2楽章にはカンタータ第156番のシンフォニアが転用されている。 チェンバロ協奏曲としての録音は、グスタフ・レオンハルトや、鈴木優人とバッハ・コレギウム・ジャパンなどがある。トン・コープマンによるエラートからの音源が存在するが、オルガン独奏による演奏であり、現存する断片は反映されていない。 3楽章版の演奏時間は約11分。 2台のチェンバロのための協奏曲第1番 ハ短調 BWV1060散逸したオーボエとヴァイオリンのための協奏曲が原曲だと思われるが、その曲がバッハの作かどうかは分かっていない。 作曲地:ライプツィヒ、作曲年代:1736年、演奏時間:約15分。
第2番 ハ長調 BWV1061初めからチェンバロ協奏曲として作曲されたものと考えられている。この曲では弦合奏が控えめで、殊に第2楽章においては、弦を一切欠いている。 作曲地:ライプツィヒ、作曲年代:1736年、演奏時間:約19分。
第3番 ハ短調 BWV10622つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043が原曲になっている。
3台のチェンバロのための協奏曲第1番 ニ短調 BWV1063作曲地:ライプツィヒ、作曲年代:1733年、演奏時間:約14分。
第2番 ハ長調 BWV1064原曲は3つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ長調。ただし、作曲者がバッハかは不明とされている。 作曲地:ライプツィヒ、作曲年代:1733年、演奏時間:約17分。
4台のチェンバロのための協奏曲イ短調 BWV1065バッハのチェンバロ協奏曲では唯一のチェンバロ4台用の曲で、原曲はヴィヴァルディの「4つのヴァイオリンとチェロ、弦楽合奏と通奏低音のための協奏曲」(ヴァイオリン協奏曲集『調和の霊感』作品3の第10番)である。 作曲地:ライプツィヒ、作曲年代:1731年、演奏時間:約10分。
参考資料
外部リンク
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