タニワタリノキ (谷渡りの木; 学名 : Adina pilulifera )とは、アカネ科 タニワタリノキ属 の樹木 である。日本 の九州 南部、中華人民共和国 、インドシナ にかけて分布する。特徴の一つは頭状花序 であるが、これはインド から東南アジア にかけて分布する同属のハルドゥ (Adina cordifolia )のみならずタニワタリノキ連 (Naucleeae )の植物全体に共通して見られ[ 3] 、葉は披針形である(参照: #特徴 )。
和名の由来は谷沿いに生えることによる[ 4] 。また、タニワタリノキという呼称は鹿児島県 垂水市 ではバラ科 のカマツカ (別名: ウシコロシ)を指す[ 5] 。
中国語 では水團花 (水团花 ) と呼ぶ[ 6] 。
分類
タニワタリノキの花。花冠は5裂。
参考: 別種のアメリカヤマタマガサ。こちらの花冠は4裂である。
タニワタリノキの史上初めての記載 は1785年のラマルク による『植物百科事典』(Encyclopédie ) 第1巻、 p. 678 における Cephalanthus pilulifer としてのもので、その後アドリアン・ルネ・フランシェ の見直しによりAdina 属とされたものが1895年にエマヌエル・ドレーク・デル・カスティリョ を介して発表され[ 7] 、これが正名として受容されるようになった[ 2] 。
牧野 (1940) はタニワタリノキの正名を Nauclea orientalis L. とし、そのシノニムとして Adina globiflora Salisb. を添えているが、Govaerts et al. (2022) は両者は互いに無関係としている。中井猛之進 は中井 & 小泉 (1927 :511) で N. orientalis の変種 として macrophylla を記載しているが Ridsdale (1978 :357) が Adina pilulifera のシノニムとし、Govaerts も同じ判断を下している。熱帯植物研究会 (1996) はインドシナ 、フィリピン 、インドネシア 、ニューギニア に分布する Nauclea orientalis に「バンカル 」(フィリピン: bangkal)、後に Govaerts et al. (2022) により N. orientalis のシノニムとして扱われるようになるモルッカス(モルッカ諸島 )原産の Nauclea undulata Roxb. に「チーズウッド 」(パプアニューギニア やオーストラリア の英語 : cheese wood )や「ヤエヤマアオキ 」という呼称をあてているが、ヤエヤマアオキというと今度はアカネ科の別種 Morinda citrifolia の標準和名となってしまう[ 8] 。
また、同じアカネ科タニワタリノキ連に属し園芸植物 として知られるアメリカヤマタマガサ (Cephalanthus occidentalis ; 通称: セファランサス )[ 9] も「タニワタリノキ」の名で流通し混同されていることがあるが、北アメリカ 原産で Adina pilulifera と異なり耐寒性 を有しており、また形態的にもタニワタリノキの花が5裂であるのに対しアメリカヤマタマガサは4裂であるなど全くの別物である[ 10] 。
分布
日本 の九州 南部、中華人民共和国 南部、インドシナ に分布する[ 4] 。
生態
日本では谷沿いのやや湿った岩礫地に見られ、花期は8月である[ 4] 。
特徴
常緑 低木 あるいは小高木 で、大きなものは高さ4-5メートルとなる[ 4] 。
葉は対生 し倒披針形あるいは狭長楕円形で全縁 、先端が短く尖り、両面ともに無毛、長さ5-11センチメートル、幅1.5-3センチメートル[ 4] 。
花は上部の葉腋 から長さ3-4.5センチメートルの花梗 が伸び、1個の頭状花序 がつく[ 4] 。この頭状花序は花が咲いている時は径約1センチメートルである[ 4] 。萼筒 は短い円筒形で角張り、倒披針形で5裂し、先は丸くなる[ 4] 。花冠 は淡黄色、高杯形で長さ約4ミリメートル、筒は細長く外面は無毛、先が5裂し、裂片は3角状卵形で先は丸いか短く尖り長さ約1ミリメートル、蕾 のときはすり合わせ状にたたまる[ 4] 。花柱 の先は棍棒 状に膨らむ[ 4] 。子房 は2室で各室に4個の胚珠 がある[ 4] 。
果実は蒴果 で倒披針形、先に萼片が残り、長さ3-4ミリメートル[ 4] 。種子は長さ約2ミリメートルで広線形、両端に翼がある[ 4] 。
利用
中華人民共和国 では葉や果実が下痢 や腸炎 、腫れ物 や湿疹 、打ち身 、外傷 の出血 などに対して用いられる[ 6] 。
タニワタリノキ属
ハルドゥ
シマタニワタリノキ
Govaerts & et al. (2022) によればタニワタリノキ属 (Adina )は12種が認められ、日本にはタニワタリノキとヘツカニガキ が自生する。タニワタリノキを除く11種は以下の通りである。
2014年に行われたタニワタリノキ連 の見直しでは Metadina [ 注 1] ・Adinauclea ・Haldina ・Pertusadina ・ヘツカニガキ属(Sinoadina )[ 注 2] の5属はタニワタリノキ属のシノニムとして含むのが妥当という結果が得られた[ 13] 。
脚注
注釈
^ 1970年に Reinier Cornelis Bakhuizen van den Brink (1911年生) により新設。
^ 以上の4属は1978年にコリン・リズデイル (スペイン語版 ) によりタニワタリノキ属と比較した際の頂生生長する芽・托葉・花冠裂片・花序につく頭状花の数・室ごとの胚珠の数といった形態の違いを根拠に新設されていた[ 12] 。
出典
^ Yan, l., Botanic Gardens Conservation International (BGCI) & IUCN SSC Global Tree Specialist Group. (2019). Adina pilulifera. The IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T147627719A147627721. doi :10.2305/IUCN.UK.2019-2.RLTS.T147627719A147627721.en . Downloaded on 9 December 2021.
^ a b c d e f g h i j k l m n o Govaerts & et al. (2022) .
^ Stevens (2001-).
^ a b c d e f g h i j k l m 山崎 (1999:192).
^ 八坂書房 (2001) .
^ a b 堀田 (1989) .
^ Drake del Castillo, E. (1895). “Contribution a la flore du Tonkin: Énumération des Rubiacées trouvées au Tonkin par M. Balansa en 1885–89” (フランス語). Journal de Botanique [Morot] 9 (11): 207. https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k6288425k/f15.item .
^ a b 米倉・梶田 (2003-).
^ ブリッケル (2003).
^ Cephalanthus occidentalus セファランサス『ムーンライトファンタジー』 (Junk sweet Garden tef*tef*). 2019年6月6日 閲覧。
^ Matthew (1995) .
^ Ridsdale, C.E. (1978). “A revision of the tribe Naucleeae s.l. (Rubiaceae)” . Blumea 24 (2): 307–366. https://repository.naturalis.nl/pub/524828 .
^ Löfstrand, Stefan. D. ; Krüger, Åsa ; Razafimandimbison, Sylvain G. ; Bremer, Birgitta (2014). “Phylogeny and Generic Delimitations in the Sister Tribes Hymenodictyeae and Naucleeae (Rubiaceae)”. Systematic Botany 39 (1): 304–315. doi :10.1600/036364414X678116 .
参考文献
英語:
Matthew, K.M. (1995). An Excursion Flora of Central Tamilnadu, India . Rotterdam: A.A. Balkema. p. 235. ISBN 90 5410 286 1 . https://books.google.co.jp/books?id=umMFT6tKtrkC&pg=PA230&dq=Haldina+axillary&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwiR57iIiqziAhUHEqYKHZf6AeoQ6AEISDAE#v=onepage&q=Haldina%20axillary&f=false
Stevens, P. F. (2001 onwards). Angiosperm Phylogeny Website . Version 14, July 2017 [and more or less continuously updated since]. 2019年6月6日 閲覧。
Govaerts, R. , Ruhsam, M. , Andersson, L., Robbrecht, E. , Bridson, D. , Davis, A., Schanzer, I., Sonké, B. (2021). World Checklist of Rubiaceae. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; https://wcsp.science.kew.org/home.do Retrieved 19 January 2022
日本語:
ウィキメディア・コモンズには、
タニワタリノキ に関連するカテゴリがあります。