2段あるシルトのはしご。線分 A 1 X 1 と A 2 X 2 は、ベクトル A 0 X 0 の曲線に沿った平行移動 の1次の近似。
シルトのはしご (英 : Schild's ladder )は一般相対性理論 や微分幾何学 における、ベクトルの曲線に沿った平行移動 を(1次の近似的に)構成する手法。多様体 上の測地線 とそのアフィン・パラメータ[ 注釈 1] のみを用いる。「シルト」の名はプリンストン大学 の講義においてこの手法を導入したアルフレート・シルト (英語版 ) に由来する。
概要
まず点 A 0 における接ベクトル x と測地線分 A 0 X 0 を同一視する。
そして以下の手順の各サイクルで作られる四角形 A i X i X i +1A i +1 をレヴィ・チヴィタの擬平行四辺形 (英語版 ) の近似として用いる[ 注釈 2] ことで、
n サイクル後に得られる測地線分 An Xn は、ベクトル x を曲線 A 0 An に沿って平行移動させた接ベクトルの近似となる。
手順
M 上の曲線と、A 0 における接ベクトルを測地線分 A 0 X 0 と同一視する。
曲線上で新しい点 A 1 を選び、測地線分 X 0 A 1 の中点として P 1 を得る。
測地線分 A 0 P 1 を同じパラメータ長だけ延長することで、新しい点 X 1 を得る。
リーマン多様体 M 上において、点 A 0 を通る曲線 γ を考え、x を点 A 0 上の接ベクトル とする。指数写像 (英語版 ) により測地線分 A 0 X 0 と接ベクトル x を同一視することが出来る。
以下の手順を繰り返すことで、シルトのはしごは構築される。
曲線 γ 上で点 A 0 に近い新しい点 A 1 を取り、測地線 X 0 A 1 を考える。
測地線 X 0 A 1 上の中点として新しい点 P 1 を考える;
すなわち測地線 X 0 A 1 のアフィン・パラメータ λ について、λ P 1 = 1 / 2 (λ X 0 + λ A 1 ) .
測地線 A 0 P 1 を構築し、この測地線の延長上に新しい点 X 1 を、A 0 X 1 のパラメーター長さが A 0 P 1 の2倍になるように取る;
すなわち測地線 A 0 P 1 のアフィン・パラメータ λ ′ について、λ ′X 1 - λ ′A 0 = 2(λ ′P 1 - λ ′A 0 ) .
最後に新しい測地線 A 1 X 1 を考える。この測地線への接ベクトル x 1 は、A 0 における接ベクトル x を A 1 へと平行移動したものの(少なくとも)1次近似となっている。
なお2点間距離 Ai Xi , Ai A i +1 は十分に小さい必要がある。
近似
これは連続過程である平行移動の離散近似となっている。もし周辺空間が平らであるのなら、これは正確に平行移動と一致し、各サイクルで形成される四辺形(前述の手順における A n X n X n + 1A n + 1 )はレヴィ=チヴィタの擬平行四辺形 (英語版 ) と一致する。
一方曲がった空間においては、三角形 A n X n A n + 1 周りのホロノミー によって誤差が与えられる。これはアンブローズ・シンガーの定理 (英語版 ) により、三角形内部の曲率の積分と等しく、またこれは(閉曲線上の積分と内部の積分を関係させる)グリーンの定理 の1つの形態である。
注意
曲線は測地線である必要は無い。またベクトルの平行移動の結果は、経路である曲線に依存する。
測地線である曲線とその測地線の接ベクトルについてシルトのはしごを構成すると、「測地線は自分自身に沿って自分自身の接線ベクトルを平行移動する」ことが分かる。
シルトのはしごにより構成される平行移動は、捻れ を持たない (torsion-free ) 。
測地線を作るためにリーマン計量 は必須ではない。しかしもしリーマン計量により測地線が作られるのなら、シルトのはしごの極限[ 注釈 3] によって得られる平行移動は、レヴィ・チヴィタ接続 が捻れを持たないため、レヴィ・チヴィタ接続と等しい。
注釈
^ 例えば測地線の固有距離はアフィン・パラメータの1つである。以下においてアフィン・パラメータを「固有距離」とみなして読んでも問題はない。
^
2測地線分 Ai Xi , A i +1X i +1 を平行とみなす。
^
2点間距離 Ai Xi , Ai A i +1 を無限小とする極限
出典
参考文献
Schild, A. (1970), “Tearing geometry to pieces: More on conformal geometry”, unpublished lecture at Jan. 19 relativity seminar. , Princeton University .
Misner, Charles W. ; Thorne, Kip S. ; Wheeler, John A. (1973). “Box 10.2”. Gravitation . W. H. Freeman. pp. 248-251. ISBN 0-7167-0344-0
Kheyfets, Arkady; Miller, Warner A.; Newton, Gregory A. (2000). “Schild's ladder parallel transport procedure for an arbitrary connection”. International Journal of Theoretical Physics 39 (12): 2891-2898. .