『コン・ティキ』(Kon-Tiki)は、2012年のノルウェーの歴史映画である。監督はヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリで、1947年のコンティキ号の航海を描いている。トール・ヘイエルダールを演じるのは、ポール・スヴェーレ・ハーゲン。2012年のノルウェー映画では最大のヒット作であり、同国史上最高の製作費がかけられている[2]。
第85回アカデミー賞では外国語映画賞にノルウェー代表として出品され、ノミネートされた[3]。ノルウェー映画の同賞へのノミネートは、史上5例目である[4]。また、第70回ゴールデングローブ賞外国語映画賞にもノミネートされた[5]。ノルウェー映画がアカデミー賞とゴールデングローブ賞に同時にノミネートされるのは、史上初である[6]。
キャスト
撮影
撮影はノルウェー、マルタ、ブルガリア、タイ、アメリカ合衆国[7]、スウェーデン、モルディブ[8][9]で3か月半にわたって行われた[10]。映画製作者は海洋場面をセットではなく本物の海で撮影し、そして実際に海で撮ることによって発生する「独特の難問」が映画を良くすると主張した[11]。
公開
2012年8月18日にハウゲスンの第40回ノルウェー国際映画祭(英語版)でプレミア上映された[12]。
北米では第37回トロント国際映画祭で上映された[13]後、ワインスタイン・カンパニーが配給権を購入した[14]。
受賞とノミネート
歴史的な正確さ
ストーリーの多くは歴史的に正確だが、脚本家のペター・スカヴランとヨアヒム・ローニングは、2時間の長編映画のストーリーをよりエキサイティングにする必要性を感じて、改変を行っている[18][19]。
映画の中の、架空の場面は批判をされている。映画評論家Andrew Barkerは以下のようにコメントした。「映画Kon-Tikiの最も驚異的で幻想的な場面は、検証が可能で、最も予測可能である「乗組員たちの日々の争い」が、完全にでっちあげられていることである」[20]。
重要な不正確さとして、キャストに先住民のポリネシア人がいないことがあげられる。ヘイエルダールのFatu Hivaに関する経験を描写したシーンは、ネイティブ・ポリネシア人に似ていないタイのエキストラが登場しており、マルケサス諸島では典型的ではない槍を持っている[21]。また、旧フランス領ポリネシアには存在しない、植物や技術を使った藤かごを編んでいる[22]。
この映画は、ポリネシアにペルーから移民がされたという、ヘイエルダールの理論に焦点を当てているが、ノルウェー人による自民族中心主義な思想を無視している。元来のKon-Tikiの航海は、赤い髪で、皮膚が白く、ひげのある人々によって行われたとされる。ヘイエルダールは、アステカやインカのようなアメリカ大陸の高度な文明は、コロンブス以前の初期のヨーロッパからの航海者によってもたらされた、高度な技術知識の助けを借りて生じたものであるとしている。ヘイエルダールは、これらの白人は最終的にペルーから追い出され、筏で西に逃げたと考えた[23]。
この映画には、「ガラパゴス諸島の巨大渦巻」に吸い込まれることを心配している乗組員がいる。この渦巻はエドガー・アラン・ポーの短編小説「メエルシュトレエムに呑まれて」からイメージされている。9マイル離れた場所から聞こえる轟音の場面は、ポーの小説から直接取り上げられている。ヘイエルダールはガラパゴスの近くの「危険な渦」を知ってはいたが、彼の主な心配は「強い海流」が中米に向かって筏を送り込むことだった[24]。
ノルウェーでは、筏の副隊長だったヘルマン・ワッツィンゲルの人物描写が論争を呼んだ[25]。彼の仕事仲間や親族は、この映画のワッツィンゲルは実際のワッツジンゲルと、肉体的にもまた行動においても、異なっていると語った。ワッツィンゲルを演じた俳優のバズモ・クリスチャンセンは、笑顔で肉体的な違いを認め「ワッツィンゲルは背が高く、日焼して、そして100メートル競走のノルウェーでのユース・チャンピオンだった。彼はまったく僕と違う」と語った[19]。
この映画では、ワッツィンゲルはヘイエルダールの命令に反し、ボートの下のジンベイザメに小さな銛を投げるが、それは実際には、Erik Hesselbergが行ったことだった[26]。
映画のワッツィンゲルは、縄のロープがバルサの丸太を結んでいる能力を心配し、泣ぎながらヘイエルダールに、鋼のケーブルを利用するように頼む。この映画でのワッツィンゲルは、自分の荷物の中にケーブルをこっそり持ち込んでいたが、ヘイエルダールの本にはそのような場面はない。ワッツィンゲルの娘は「私の父は信念を持った男でした。そして、彼はバルサの丸太とロープについては、まったく心配しなかったのです」と語った。ワッツィンゲルと仕事をしたことがあるThor Heyerdahl Jr.は、この映画のワッツィンゲルの描写に対する批判に同意した[19]。
ヘイエルダールの原作からの他の小さな変更点として、この映画では、ペットのオウムがサメに食べられている(実際のオウムは、筏への大きな波でさらわれた)[27]。
また、この映画では、ペルーに到着して筏を建造すると、クルーたちは簡単に米軍に接触して資材を手にいれている。ヘイエルダールは実際は、ペルーへの旅の前にペンタゴンを訪問し、装備を手配していた[28]。
出典
- ^ “KON-TIKI – Norges neste Oscarkandidat?”. Inmagasinet.no/ (2012年). 2012年8月22日閲覧。
- ^ Roxborough, Scott (14 September 2012). “Norway Names 'Kon-Tiki' Oscar Entry”. 13 January 2013閲覧。
- ^ “Oscars: Hollywood announces 85th Academy Award nominations”. BBC News. 2013年1月10日閲覧。
- ^ ABC. “Foreign Language Film - KON-TIKI”. 13 January 2013閲覧。
- ^ http://www.deadline.com/2012/12/golden-globe-awards-nominations-2013/
- ^ Ryland, Julie (11 January 2013). “Norwegian film "Kon Tiki" nominated for Oscar”. The Norway Post. 11 January 2013閲覧。
- ^ “Screen reports Kon-Tiki shoot underway in Norway” (24 May 2011). 11 January 2013閲覧。
- ^ “Ovations greet new ‘Kon-Tiki’ film”. Views and News from Norway (19 August 2012). 11 January 2013閲覧。
- ^ “IMDB Filming Locations”. 2013年4月4日閲覧。
- ^ Cooper, Sarah. “It will be the world premiere of the Norwegian film about the real life Pacific expedition of 1947, directed by Joachim Rønning and Espen Sandberg.”. 13 January 2013閲覧。
- ^ “Trailer & Klipp - Blog 2”. Nordisk Film. 13 January 2013閲覧。
- ^ “Magnificent festival opening with Kon-Tiki”. 13 January 2013閲覧。
- ^ Enk, Bryan. “Golden Globes: ‘Kon-Tiki’ emerges as this year’s unknown nominee … and dark horse contender”. Yahoo! Movies. 13 January 2013閲覧。
- ^ “Weinstein Company Acquires Rights To ‘Kon-Tiki’”. Deadline.com (7 November 2012). 11 January 2013閲覧。
- ^ “The Nominees”. 13 January 2013閲覧。
- ^ “News”. The Norwegian International Film Festival. 13 January 2013閲覧。
- ^ International Press Academy. “2012 Winners”. 13 January 2013閲覧。
- ^ “Filmen er en krenkelse av enkeltpersoner”. VG. (21 August 2012). http://www.vg.no/rampelys/artikkel.php?artid=10052525 18 June 2013閲覧。
- ^ a b c Furuly, Jan Gunnar (19 August 2012). “Kon-Tiki gir et grovt uriktig bilde av min far”. Aftenposten. http://www.aftenposten.no/kultur/--Kon-Tiki-gir-et-grovt-uriktig-bilde-av-min-far-6969019.html 18 June 2013閲覧。
- ^ Barker, Andrew (8 September 2012). “Review: "Kon-Tiki"”. Variety. https://variety.com/2012/scene/reviews/kon-tiki-1117948251/ 19 June 2013閲覧。
- ^ Linton, Ralph (1923年). “Material Culture of the Marquesas Islands”. Bishop Museum Press
- ^ Arbeit, Wendy (1990年). “Baskets in Polynesia”. University of Hawaiʻi Press
- ^ Heyerdahl, Thor (1950). Kon-Tiki. Chicago: Rand McNally. pp. 120–127
- ^ Heyerdahl, Thor (1950) (English). Kon-Tiki. Chicago: Rand McNally. p. 73
- ^ Oftestad, Eldrid (20 August 2012). “Filmeksperter: Fritt frem for å ta seg friheter” (Norwegian). Aftenposten. http://www.aftenposten.no/kultur/Filmeksperter-Fritt-frem-for-a-ta-seg-friheter-6969640.html 19 June 2013閲覧。
- ^ Heyerdahl, Thor (1950). Kon-Tiki. Chicago: Rand McNally. p. 82
- ^ Heyerdahl, Thor (1950) (English). Kon-Tiki. Chicago: Rand McNally. p. 133
- ^ Heyerdahl, Thor (1950) (English). Kon-Tiki. Chicago: Rand McNally. pp. 27–30
関連項目
外部リンク