ふたつの元 a と b を生成元とする自由群F2 の生成集合 S = {a, a−1, b, b−1} に対応するケイリーグラフは本記事の冒頭に掲げられている。ここで e は単位元を表す。辺に沿った右への移動は a の右からの乗算で表され、辺に沿った上への移動は b の右からの乗算で表される。自由群は関係式を持たないので、ケイリーグラフは閉路を持たない。このケイリーグラフはバナッハ・タルスキーのパラドックスの証明における主要な要素である。
のケイリーグラフは右のように表される。生成元は成分 x, y, z における 1, 0, 0 の置換から与えられる三つの行列 X, Y, Z である。これらの生成元は図から読み取れる関係式 Z = XYX−1Y−1, XZ = ZX, YZ = ZY を満たす。この群は非可換無限群で三次元空間で表すことができ、ケイリーグラフは四次元の volume growth を持つ。
特徴づけ
群 G は自分自身に左からの乗算で作用する(ケイリーの定理を参照)。これは群 G がそのケイリーグラフに作用しているとみることができる。明示的には、元 h ∈ G は頂点 g ∈ V(Γ) を hg ∈ V(Γ) へ移す。ケイリーグラフの辺集合この作用で保たれる:辺 (g, gs) は辺 (hg, hgs) へ移される。群の左からの乗算による作用は単純推移的であり、とくにケイリーグラフは頂点推移的である。これは以下のケイリーグラフの特徴づけに繋がる:
Sabidussiの定理:グラフ Γ が群 G のケイリーグラフである必要十分条件はグラフがグラフ自己同型として群 G の単純推移的な作用を持つことである[3]。
ケイリーグラフ Γ = Γ(G, S) から群 G と生成集合 S を復元するには、まず頂点 v1 ∈ V(Γ) を選び、群の単位元でラベルづける。そしてグラフ Γ の各頂点 v に対し、v1 を v へ移す群 G のただひとつの元でラベルづける。生成集合が有限である必要十分条件はグラフが局所有限であることである。
基本的な性質
もし生成集合の元 s が対合ならば対応する辺は無向辺で表されることが多い。
ケイリーグラフ Γ(G, S) は生成集合 S の選び方に本質的に依存する。たとえば生成集合 S が k 個の元を持つならば、ケイリーグラフの各頂点は入次数 k かつ出次数 k である。生成集合 S が対称のとき、ケイリーグラフは次数 k の正則有向グラフである。
もし f : G′ → G が群の全射準同型で生成集合 S の像 S′ が互いに相異なるならば、グラフの被覆 f : Γ(G, S) → Γ(G′, S′) を誘導する。とくに群 G が k 個の生成元をもち、すべての位数が 2 と異なり、集合 S がそれらの生成元とその逆元から成るならば、ケイリーグラフ Γ(G, S) は同じ生成元を持つ自由群に対応する次数 2k の無限正則木によって被覆される。
グラフ Γ(G, S) はたとえ集合 S が群 G を生成していないときでさえ構成することができる。けれども、グラフは非連結となり、ケイリーグラフとして考えることはできない。このときグラフの各連結成分は S によって生成される部分群の剰余類を表す。
ベーテ格子あるいはケイリー木は n 個の生成元をもつ自由群のケイリーグラフである。n 個の生成元をもつ群 G の表示は n 個の生成元をもつ自由群から群 G への全射準同型と対応し、ケイリーグラフの観点からはケイリー木からケイリーグラフへの射に対応する。これは(代数的トポロジーでは)ケイリーグラフの一般には単連結とは限らない普遍被覆と解釈することもできる。
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Theron, Daniel Peter (1988), An extension of the concept of graphically regular representations, Ph.D. thesis, University of Wisconsin, Madison, p. 46, MR2636729
^Dehn, Max (2012) [1987]. Papers on Group Theory and Topology. Springer-Verlag. ISBN1461291070 Translated from the German and with introductions and an appendix by John Stillwell, and with an appendix by Otto Schreier.