数学 におけるグロタンディーク宇宙 (グロタンディークうちゅう、英 : Grothendieck universe 、仏 : Univers de Grothendieck )は次の性質をもった集合 U である:
x ∈ U , y ∈ x ⇒ y ∈ U ( U は推移的集合 )
x , y ∈ U ⇒ {x , y } ∈ U
x ∈ U ⇒ x のベキ集合 P (x ) ∈ U
{
x
α
}
α
∈
I
{\displaystyle \{x_{\alpha }\}_{\alpha \in I}}
が U の元の族で I ∈ U ⇒
⋃
α
∈
I
x
α
{\displaystyle \bigcup _{\alpha \in I}x_{\alpha }}
∈ U
宇宙のアイデアは、アレクサンドル・グロタンディーク が代数幾何 において真のクラス を回避する方法として導入したことに起因する。
グロタンディーク宇宙は、すべての数学が実行可能な集合を与える(実際には、集合論のためのモデルを与える)。
性質
例として、簡単な命題を証明する。
命題.
もし
x
∈
U
{\displaystyle x\in U}
かつ
y
⊆
x
{\displaystyle y\subseteq x}
ならば
y
∈
U
{\displaystyle y\in U}
.
証明.
y
∈
P
(
x
)
{\displaystyle y\in P(x)}
なぜなら
y
⊆
x
{\displaystyle y\subseteq x}
.
P
(
x
)
∈
U
{\displaystyle P(x)\in U}
なぜなら
x
∈
U
{\displaystyle x\in U}
, よって
y
∈
U
{\displaystyle y\in U}
.
同様に、グロタンディーク宇宙 U が以下のようなものを含むことが容易に証明される:
U の各元のすべてのシングルトン。
U の元によって添え字付られた U の元のすべての族のすべての積。
U の元によって添え字付られたU の元のすべての族のすべての直和。
U の元によって添え字付られたU の元のすべての族のすべての共通集合。
U の2つの元の間のすべての関数。
濃度 が U の元となる U のすべての部分集合。
グロタンディーク宇宙と到達不能基数
グロタンディーク宇宙の2つの簡単な例がある:
空集合
すべての遺伝的有限集合 の集合
V
ω
{\displaystyle V_{\omega }}
。
他の例は構成がより困難である。大まかに言うと、これはグロタンディーク宇宙が到達不能基数 と同値なためである。より形式的に言えば、次の2つの公理が同値である:
(U) すべての集合 x に対して、x
∈
{\displaystyle \in }
U となるグロタンディーク宇宙 U が存在する。
(C) すべての基数 κ に対して、κ よりも巨大な強到達不能基数 λ が存在する。
この事実を証明するために、関数 c (U ) を以下のように定義する:
c
(
U
)
=
sup
x
∈
U
|
x
|
{\displaystyle \mathbf {c} (U)=\sup _{x\in U}|x|}
ここで |x | は x の濃度を意味している。すると任意の宇宙 U に対して、c (U ) は強到達不能となる:U の任意の元の冪集合は U の元で、U のすべての元は U の部分集合であるため、これは強極限基数 である。厳密に言えば、c λ が I によって添え字付られた濃度の集まりとすれば、各 c λ の濃度と I の濃度は c (U ) よりも小さい。そして、c (U ) の定義によって、U の元の中にI および各 c λ と同じ濃度の元がある。U の元によって添え字付られた U の元の和集合は U の元となる、ゆえに c λ の和(合併)は U の元の濃度となる。それゆえに c (U ) よりも小さい。基礎の公理によって、それ自身を含む集合は存在しないので、c (U ) が |U | と等しいことを示すことができる。(この公理を仮定しない場合の反例はブルバキ の論文を参照。)
強到達不能基数 κ が存在するとする。集合 S は任意の列 sn
∈
{\displaystyle \in }
...
∈
{\displaystyle \in }
s0
∈
{\displaystyle \in }
S に対し |sn | < κ となるとき、型 κ であると呼ぶことにしよう。(S 自身は空列に対応している。) すると、型 κ である集合全体の集合 u (κ) は濃度 κ のグロタンディーク宇宙となる。(この証明は長くなるため、詳細は参考文献のブルバキの論文を参照。)
巨大基数の公理 (C) から宇宙の公理 (U) が導かれることを示すため集合 x を選ぶ。x0 = x かつすべての n に対して xn+1 =
⋃
{\displaystyle \bigcup }
xn を xn の元の和集合とする。y =
⋃
n
{\displaystyle \bigcup _{n}}
xn とおく。(C) によって、|y| < κ となるような強到達不能基数 κ が存在する。u (κ) を前項の宇宙とする。x は型 κ であり、x
∈
{\displaystyle \in }
u (κ)。宇宙の公理 (U) から巨大基数の公理 (C) が導かれることを示すために κ を基数とする。κ は集合なのでグロタンディーク宇宙 U の元である。U の濃度は κ より大きな強到達不能基数となる。
実際、任意のグロタンディーク宇宙はある κ に対し u (κ) の形となる。これはグロタンディーク宇宙と強到達不能基数の間の別の同値性を与えるものである:
グロタンディーク宇宙 U に対して、|U | は零、
ℵ
0
{\displaystyle \aleph _{0}}
、もしくは強到達不能基数のいずれかとなる。また、κ が零、
ℵ
0
{\displaystyle \aleph _{0}}
、もしくは強到達不能基数ならば、グロタンディーク宇宙 u(κ) が存在する。さらに、u(|U |) = U かつ |u (κ)| = κ となる。
強到達不能基数の存在は ZFC からは証明できないため、空集合と
V
ω
{\displaystyle V_{\omega }}
以外の宇宙の存在はどれも ZFC から証明することができない。
脚注
参考文献
Bourbaki, Nicolas (1972), “Univers” , in Michael Artin , Alexandre Grothendieck , Jean-Louis Verdier (French), Séminaire de Géométrie Algébrique du Bois Marie - 1963-64 - Théorie des topos et cohomologie étale des schémas - (SGA 4) - vol. 1 , Lecture Notes in Mathematics, 269 , Berlin; New York: Springer-Verlag , pp. 185–217, MR 0354652 , Zbl 0234.00007 , http://library.msri.org/books/sga/sga/4-1/4-1t_185.html
関連項目