クロモジ
クロモジ(黒文字[2]、学名: Lindera umbellata または Lindera umbellata var. umbellata)は、クスノキ科クロモジ属の落葉低木。低地や山地の雑木林などの林の中によく生える。枝を高級楊枝の材料とし、楊枝自体も黒文字と呼ばれる。枝は箸に加工される場合もあるほか、抗ウイルス作用が知られ、葉を含めて茶外茶(クロモジ茶)にも使われる[3]。また香料の黒文字油がとれる。 名称和名である「黒文字」の名は、若枝の表面に黒い藻類が付着し、黄緑色の地色に黒いまだら模様の斑紋が入るため、これを文字に見立てたものといわれる[4][5]。 中国植物名(漢名)は、大葉釣樟(だいようちょうしょう)[6]。 特徴日本の本州の関東以西、四国、九州北部や、中国に分布し[4][7][8]、低山や疎林の斜面に自生する[9]。雑木林の中にもよく生える[2]。早春の花が少ない時期に花が咲くので、茶園や公園の植栽として植えられることがある[9]。 落葉の低木で、雌雄異株[9]。樹高は高さ2 - 6メートル (m) 程度まで成長する[10]。葉・樹皮・木部とも強い揮発性の芳香を持つ[9]。若枝ははじめ毛があるが次第になくなり、緑色のすべすべした肌に、次第に黒い斑紋がでることが多い[9]。若木の樹皮は暗緑色であるが、成木の樹皮は灰褐色で円い皮目が散在し[11]、古くなると次第にざらついた灰色の樹皮に覆われる。 葉は枝先にまとまってつき、洋紙質の卵状長楕円形で[10]、長さ3 - 10センチメートル (cm) 、幅は1 - 3 cmほどあり[7]、基部は楔型、深緑でつやはない。表面は無毛、葉裏ははじめ絹毛に覆われているが、成葉になると無毛になり、やや白っぽい[4][12]。葉柄の長さは10 - 15 mmあって、やや長い[12]。秋には黄色く紅葉し、派手さはないが澄んだ黄色に色づく[2]。北日本に分布するものは、葉が大型化する傾向がある[2]。 花序は丁芽の基部の芽鱗の脇に単独で生え、総苞片に包まれた開花前の花序は球形で柄があり、秋のうちに出現する[12]。 開花期は早春の3 - 4月[4]、葉の展開と同時に小枝の節に淡い黄緑色の花を咲かせる[4][7]。花は葉腋から出た散形花序をつけ、小さな6弁花を多数開く[7]。雄株の雄花には9個の雄しべ、雌株の雌花には9個の仮雄しべと雌しべ1個(子房)がある[10]。果実は液果で、光沢がある球形をしており[7]、直径5 - 6 mm[10]、2 cmほどの果柄がつき[8]、9 - 10月頃に黒熟する[4]。果実の中に種子が1個入る[8]。種子は偏球形から球形で、長さは5 mm前後、灰褐色で光沢はない[8]。 冬芽の葉芽は紡錘形、花芽は球形で柄は有毛[11]。頂芽の長さは10 - 15ミリメートル (mm) 、芽鱗はやや葉状で細長い[12]。葉痕は半円形で、維管束痕が1個つく[11]。 利用特に生薬名はないが、枝と葉は薬用になり、材から爪楊枝を作る[9]。枝葉を刻んで薬用アルコールに漬け、時々振って1週間ほどしてから濾過した浸出液がクロモジローションである[9]。果実にも油分があり、葉や実から油分を採取するのは伊豆半島で多く行われていた[13]。現在はあまり使われないが、蒸留油は香料として[9]、かつては化粧品、石鹸などに盛んに使われ、輸出もされた。開花期の枝は、生け花の花材に利用される[4]。 爪楊枝爪楊枝の代表格としてよく知られ、「黒文字」の名は爪楊枝の代名詞にもなっている[5]。爪楊枝としてクロモジが使われるのは、よい香りがするためで[11]、日本での風習だと考えられている[5]。クロモジからつくられる爪楊枝は高級品で[4]、根本に黒い皮を少し削ぎ残してある[5]。特に菓子楊枝に添えられていることが多く[5]、和菓子など特に選ばれたところではクロモジの楊枝が使われる。 千葉県の久留里地域ではクロモジの楊枝作りが明治期から副業として行われており[14]、上総楊枝として特産品化されている[15]。 薬用薬効は、保温、芳香性健胃、頭髪の脱毛とフケ防止に役立つと考えられている[9]。 根皮(釣樟根皮)や枝葉(釣樟)を薬用にする[6]。枝葉は布袋に入れ、肩こりや腰痛、関節痛の入浴剤になる[9][6]。薬酒としてホワイトリカーに漬け込み、1日量で盃1 - 2杯が健胃と食欲増進に役立てられる[9]。頭髪脱毛とフケ防止には、クロモジローションを頭皮によくすり込む用法が知られている[9][6]。エキスにはインフルエンザ感染予防作用や[16]、コロナウイルス(ヒトコロナウイルスOC43)の増殖を抑える作用が知られている[17]。 精油(クロモジ油)芳香精油を含むため随時採取されるが、乾燥貯蔵中に揮発し、芳香がなくなる[9]。8 - 10月に枝葉を採取し、水蒸気蒸留することでとれるクロモジ油(黒文字油)は[9]、テルピネオールやリモネン、シネオール、リナロールなどを含有する。1970年代の時点でほとんど採油されることはなくなったが、かつては日本特産の香料として欧州に輸出されていた[18]。 風習東北地方や北越では鳥木と呼ばれ、狩りの獲物をクロモジの木の枝に刺し、神への供物とする風習がある。鷹狩で取った獲物を贈る際にクロモジの枝で結ぶことが多く、鳥柴とも呼ばれる。 近縁種クロモジ属は東南アジアなどの旧世界熱帯から温帯にかけて100種ほど、北アメリカに数種がある。日本にもダンコウバイ、アブラチャン、ヤマコウバシ、シロモジなどが自生する。クロモジは枝の先に葉が集まってつくのが特徴で、アブラチャンやヤマコウバシと違いが見られる[2]。クロモジ属は、鮮やかな黄色に紅葉するものが多く、アオモジ、カナクギノキ、ケクロモジなどの黄色もよく目立つ[2]。テンダイウヤクは漢方薬にされ、ほかにも香料、薬用や食用に用いられたものがある。 クロモジには類似種や変種が多い。北海道と本州の日本海側には、変種のオオバクロモジが自生する[9]。種内の変種としては
よく似た別種としては
出典
参考文献
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