クエチアピン

クエチアピン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  • US: C
法的規制
薬物動態データ
生物学的利用能9%
代謝肝臓- CYP3A4
半減期6時間 (parent compound); 9-12時間 (活性代謝物)
排泄Renal
データベースID
CAS番号
111974-69-7
ATCコード N05AH04 (WHO)
PubChem CID: 5002
DrugBank APRD00675
ChemSpider 4827
KEGG D08456
化学的データ
化学式C21H25N3O2S
分子量383.5099 g/mol
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クエチアピン英語: Quetiapine)は、ジベンザゼピン(ジベンゾチアゼピン)系の非定型抗精神病薬の一つである。国内外で商品名セロクエル (Seroquel) として販売される。日本での適応は統合失調症である。アメリカ合衆国では双極性障害にも適応があり気分安定薬として用いられる。

徐放錠タイプのクエチアピンフマル酸塩(商品名セロクエルXR、日本名:ビプレッソ徐放錠)が販売され、2017年に適応は「双極性障害におけるうつ症状の改善」として承認を得た[1]

薬事法における劇薬糖尿病には禁忌である。

開発と販売

クエチアピンはゼネカ(現:アストラゼネカ)が開発した。日本ではアステラス製薬(2005年3月末までは藤沢薬品工業)がアストラゼネカからのライセンスを元で製造販売されている。

セロクエル錠は2000年12月に承認され、2001年2月に発売、2009年11月に200mg錠が発売された。2012年12月に後発医薬品が発売された。

ビプレッソ徐放錠は2017年7月に承認され、同年10月に発売。ただし発売元はジェネリック医薬品メーカーの共和薬品工業が担当する[1]。また2023年4月1日をもってアステラスから共和へ製造継承される事となった。

適応

日本における適応は統合失調症に限られていたが、2017年には双極性障害におけるうつ状態の改善に対する効果も認められた[1][2]

アメリカ合衆国では、統合失調症に加え、双極性障害の躁病相とうつ病相と、それらの相を予防する維持期においても承認されている。

認知症ガイドライン

2013年の厚生労働省による認知症の周辺症状へのガイドラインでは、第一選択は非薬物介入が原則であり、処方時には患者・保護者に承諾を取るべきであるとしている[3]。日本医師会、日本老年医学会による高齢者向けガイドラインでは、必要最小限の使用が推奨される[4]

種類

  • セロクエル - 錠剤:25mg, 100mg, 200mg
  • クエチアピン(ジェネリック) - 錠剤:12.5mg, 25mg, 50mg, 100mg, 200mg
  • ビプレッソ徐放錠 - 錠剤:50mg, 150mg

他、50%細粒 あり

日本での包装例

薬理

クエチアピンは、ジベンゾチアゼピン系に分類される非定型抗精神病薬であり、ドーパミンD2受容体に比較して、セロトニン5-HT2受容体拮抗作用が強いのが特徴である。クエチアピンは、それら2つの受容体に対し高い親和性を有している。ヒスタミンH1受容体・アドレナリンα1、α2・セロトニン5-HT1A・ドーパミンD1受容体に対しても、低い親和性を有している。ムスカリン受容体・ベンゾジアゼピン受容体には、ほとんど親和性がない。クエチアピンの抗精神病薬作用は、ドーパミンD2受容体への拮抗作用によるものと考えられている。セロトニン5HT2受容体拮抗作用もまた、クエチアピンの有効性に影響している可能性がある。

代謝

主に肝臓のCYP3A4で代謝される。

副作用

糖尿病患者、糖尿病既往歴のある患者には禁忌である。添付文書の警告表示枠に、投与中に糖尿病性の副作用から死亡する場合があるため、血糖値測定等の十分な観察を行うよう記載されている。血縁者に糖尿病患者がいる場合にも慎重投与とする。

【警告】

1)著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。

2)投与にあたっては、あらかじめ上記副作用が発現する場合があることを、患者及びその家族に十分に説明し、口渇、多飲、多尿、頻尿等の異常に注意し、このような症状があらわれた場合には、直ちに投与を中断し、医師の診察を受けるよう、指導すること。(「重要な基本的注意」の項参照) — 沢井製薬株式会社 、クエチアピン添付文書

なお、血糖値上昇のみでなく、癌患者への投与時において低血糖を発症する場合があることが示唆されている[5]

その他の主な副作用は、錐体外路症状(薬剤性パーキンソン症候群)。アカシジア、不眠、神経過敏、眠気、倦怠感、不安、めまい、体重増加、体重激減、起立性低血圧など。長期間の服用により、糖尿病、遅発性ジスキネジアが起きる可能性もある。

重大な副作用

2019年4月の、厚生労働省医療・生活衛生局発行の「医薬品・医療機器等安全性情報 No.362」により、クエチアピンフマル酸塩について、下記の重大な副作用の項目が追加改訂された[6]

  • セロクエル25mg錠、同100mg錠、同200mg錠、同細粒50%(アステラス製薬株式会社) 他
  • ビプレッソ徐放錠50mg、同徐放錠150mg(アステラス製薬株式会社)
中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑:中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し適切な処置を行うこと。 — 厚生労働省医薬・生活衛生局、医薬品・医療機器等安全性情報 No.362 2.クエチアピンフマル酸塩

禁忌

  • 昏睡状態の患者
  • 中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者
  • バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者 - 中枢神経抑制作用が増強される。
  • アドレナリンを投与中の患者
  • 糖尿病の患者、あるいは糖尿病の既往歴のある患者

訴訟

アストラゼネカは、アメリカ合衆国で、セロクエルを高齢者や、死亡リスクを高める小児への適応外使用を勧める違法なマーケティングを行い、2010年、5.2億ドルの罰金が科された。適応外とされた疾患は以下のとおりである。攻撃性、アルツハイマー病、アンガーマネイジメント(怒りの制御)、不安、注意欠陥多動性障害、双極性障害の寛解維持、認知症、うつ状態、気分障害、外傷後神経症、不眠[7][8]

脚注

出典

  1. ^ a b c 1日1回投与の双極性障害うつ病症状治療薬”. 日経メディカル. 日経BP (2017年9月1日). 2020年12月14日閲覧。
  2. ^ 共和薬品 http://www.amel-di.com/medical/di/productDetail?productId=1423
  3. ^ かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン』(レポート)厚生労働省、2013年7月https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000036k0c.html 
  4. ^ 日本医師会、日本老年医学会『超高齢化社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き』(pdf)日本医師会、2017年9月http://dl.med.or.jp/dl-med/chiiki/tebiki/H2909_shohou_tebiki.pdf 
  5. ^ 木村好江, 池垣淳一, 駒澤伸泰「クエチアピン投与中に低血糖を生じたがん患者の2症例」『Palliative Care Research』第8巻第2号、日本緩和医療学会、2013年、566-569頁。 
  6. ^ 医薬品・医療機器等安全性情報 No.362 2.クエチアピンフマル酸塩” (PDF). 厚生労働省. 2019年4月17日閲覧。
  7. ^ Maia Szalavitz Sept (September 17, 2012). “Top 10 Drug Company Settlements”. TIME.com. http://healthland.time.com/2012/09/17/pharma-behaving-badly-top-10-drug-company-settlements/ 2013年2月23日閲覧。 
  8. ^ Pharmaceutical Giant AstraZeneca to Pay $520 Million for Off-label Drug Marketing”. Justice.gov (2010年4月27日). 2012年11月30日閲覧。

参考文献

外部リンク