キイロハギ

キイロハギ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: スズキ目 Perciformes
: ニザダイ科 Acanthuridae
: ヒレナガハギ属 Zebrasoma
: キイロハギ Z. flavescens
学名
Zebrasoma flavescens
(E. T. Bennett, 1828)
シノニム
  • Acanthurus flavescens Bennett, 1828
英名
Yellow tang
lemon sailfin
yellow sailfin tang
somber surgeonfish

キイロハギ (学名:Zebrasoma flavescens) は、ニザダイ科に分類される海水魚の一種。体色は明るい黄色で、観賞魚として人気の種である。太平洋サンゴ礁に生息する。満月の頃に産卵し、藻類を食べ、尾柄には身を守るための白い棘を持つ[2]

分類と名称

1828年にイギリス博物学者であるエドワード・ターナー・ベネット英語版によって、ハワイ諸島から得られた標本を基に Acanthurus flavescens として記載された[3]。属名はタイプ種であるヒレナガハギの体にあるシマウマのような縞模様を指す。種小名はラテン語で「黄色い」を意味する[4]

シトクロムcオキシダーゼ1(CO1)遺伝子に基づき、ミトコンドリアDNAのバーコード配列を用いてヒレナガハギ属の系統樹が再構築された[5]。ヒレナガハギ属の中では、ゴマハギが最も近縁な種である[6]。ヒレナガハギ属はニザダイ科に分類され、従来のスズキ目ではなく、ニザダイ目英語版に分類する場合もある[7]

形態

全長20cm、体幅1-2cmに成長する。雄は雌よりも大きい傾向がある。体色は明るい黄色で、夜になるとわずかに薄くなり、中央に水平な白い帯のある目立つ茶色がかった斑点が現れる。日中は急速に明るい黄色に戻る。雌雄は非常によく似ているが、交尾の際に雄は体色を変える[8]。背鰭は5棘と23-26軟条から、臀鰭は3棘と19-22軟条から成る。尾柄には防御のための白い棘がある。吻は適度に突き出ている。口は小さく、へら状の歯が比較的近い位置に並んでいる。幼魚では上歯が12本、下歯が14本ある。成魚では上歯が18本、下歯が22本ある[2]

分布と生息地

琉球諸島マリアナ諸島マーシャル諸島南鳥島ウェーク島ハワイ諸島と、日本からハワイまでの太平洋に分布し、水深2-46mの浅いサンゴ礁でよく見られる。水温24-28℃の熱帯海域を好む[2]フロリダ州沖から発見されたという報告もある[9]。2008年に地中海スペイン領海で1匹のキイロハギが撮影されたが、これは飼育個体が放流された可能性が高い[10]メキシコのリビエラマヤの浅いサンゴ礁で数回目撃されている。日本では南日本の太平洋岸と琉球列島小笠原諸島から記録がある[11]

生態

通常は単独または小さな群れで見られる。主に草食性であり、糸状藻類を食べる[2]。底生の藻類やその他の海洋植物を食べるほか、ウミガメの甲羅に生えた藻類を取り除く掃除魚としての役割も果たしている[12]。大型魚、サメカニタコなど多くの天敵が知られる[13][14]

産卵は年間を通じて行われ、ハワイでは満月の頃にピークを迎えるため、何らかの周期性があると考えられている。産卵はペアまたは群れで行われ、受精は体外で行われる。卵は水中に放出され、サンゴ礁に着底した幼魚は親の世話を受けずに成長する[2]。その後雌は全長13cm、雄は15cmに成長すると藻場に移動する。雄は成長が早く、5歳で全長14cm、10歳で17cmに達し、雌は5歳で13cm、10歳で15cmに達する。10歳ごろに成長は停止し、寿命は40年を超える[11]

人との関わり

脅威と保全

国際自然保護連合レッドリストでは低危険種とされている[1]。輸出禁止措置以前は、ハワイが飼育個体を採取する最も一般的な場所であり、アクアリウム産業向けの個体のうち、最大70%がハワイから供給されていた[15]。分布域の70%以上は、採取や漁獲から保護されている[16]。生息地の破壊の影響も受けており、人間活動による水質汚染、有害な漁業による物理的な損傷や破壊、乱獲、サンゴの採取[17]、シュノーケリングなどがサンゴ礁に損傷を与える可能性がある[16]。飼育下繁殖の成功により、野生個体の採取量が激減した。これにより乱獲が防がれ、生存可能性が高まった[18]

2010年の研究では、キイロハギの幼魚は海流に乗って漂い、遠く離れた場所で資源を再生させる可能性があることが判明した。この発見により、個体群が幼魚の漂流を通じて遠く離れた場所と繋がる可能性があることが実証された[19]。キイロハギの幼魚は最初に定着したサンゴ礁に留まる。アクアリウムで飼育するために大量に漁獲された結果、1990年代後半までにその資源は崩壊していた。保護のためにハワイ沖に9つの海洋保護区が設立された。幼魚の漂流によりさまざまな場所に定着し、資源は回復しつつある。海洋保護区内で産卵された幼魚が海流に乗って漂い、遠く離れた場所の資源を補充することが明らかとなった[20]

飼育

飼育される海水魚の中では非常に一般的である。2015年には研究者が飼育下での繁殖に成功した[21]。現在は飼育下繁殖個体が日常的に購入できる。野生では最大20cmに達するが、販売される個体は5.1-10.2cmの範囲が大半であり、時折15cmほどの大きさの個体も販売される。野生での寿命は30年を超える[22]

2021年1月以前、アメリカでは一般的に65ドルから70ドル程度で販売されていた。ハワイでの採取が禁止された後、価格は4倍以上の400ドル以上に値上がりした[15][23]

攻撃的になることがあり、白点病にかかりやすく、水槽内のサンゴを損傷する可能性がある。飼育下では肉や魚を主原料とした餌が与えられるが、この食事が健康に及ぼす長期的な影響は疑問視されている。しかし動物が提供するアミノ酸などを必要とするため、草食魚であるキイロハギであっても悪影響はないと考えられる。

出典

  1. ^ a b Abesamis, R.; Choat, J.H.; McIlwain, J. et al. (2012). Zebrasoma flavescens. IUCN Red List of Threatened Species 2012: e.T178015A1521949. doi:10.2305/IUCN.UK.2012.RLTS.T178015A1521949.en. https://www.iucnredlist.org/species/178015/1521949 2025年1月25日閲覧。. 
  2. ^ a b c d e Zebrasoma flavescens, Yellow tang : aquarium”. www.fishbase.de. 2021年4月22日閲覧。
  3. ^ CAS - Eschmeyer's Catalog of Fishes Zebrasoma”. researcharchive.calacademy.org. 2025年1月25日閲覧。
  4. ^ Order ACANTHURIFORMES (part 2): Families EPHIPPIDAE, LEIOGNATHIDAE, SCATOPHAGIDAE, ANTIGONIIDAE, SIGANIDAE, CAPROIDAE, LUVARIDAE, ZANCLIDAE and ACANTHURIDAE” (英語). The ETYFish Project (2024年11月20日). 2025年1月25日閲覧。
  5. ^ “Genomic islands of divergence in the Yellow Tang and the Brushtail Tang Surgeonfishes”. Ecology and Evolution 8 (17): 8676–8685. (September 2018). Bibcode2018EcoEv...8.8676B. doi:10.1002/ece3.4417. PMC 6157655. PMID 30271536. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6157655/. 
  6. ^ Radu C. Guiasu; Richard Winterbottom (1993). “Osteological Evidence for the Phylogeny of Recent Genera of Surgeonfishes (Percomorpha, Acanthuridae)”. Copeia 1993 (2): 300–312. doi:10.2307/1447130. JSTOR 1447130. 
  7. ^ J. S. Nelson; T. C. Grande; M. V. H. Wilson (2016). Fishes of the World (5th ed.). Wiley. pp. 497–502. ISBN 978-1-118-34233-6 
  8. ^ Learn All About the Yellow Tang Fish” (英語). The Spruce Pets. 2021年4月22日閲覧。
  9. ^ Field Guide to the Nonindigenous Marine Fishes of Florida. Maroon Ebooks. (28 January 2015). pp. 6–. https://books.google.co.jp/books?id=2eFqBgAAQBAJ&pg=PP6 
  10. ^ Atlas of Exotic Fishes in the Mediterranean Sea (Zebrasoma flavescens). 2nd Edition. 2021. 366p. CIESM Publishers, Paris, Monaco.https://ciesm.org/atlas/fishes_2nd_edition/Zebrasoma_flavescens.pdf
  11. ^ a b 下瀬環 (2018)「キイロハギ」中坊徹次(編/監修)『小学館の図鑑Z 日本魚類館』p.436-437、小学館、ISBN 978-4-09-208311-0
  12. ^ Boumis, Robert. “Symbiosis of Sea Turtles & Yellow Tang” (英語). Pets on Mom.com. 2025年1月24日閲覧。
  13. ^ National Aquarium in Baltimore, Maryland”. 2025年1月25日閲覧。
  14. ^ Zebrasoma flavescens (Lemon sailfin)” (英語). Animal Diversity Web. 2025年1月25日閲覧。
  15. ^ a b Daub, Eileen (2021年2月3日). “Yellow Tangs and other popular aquarium fish affected by Hawaii Fish Collection Ban” (英語). That Fish Blog. 2023年1月1日閲覧。
  16. ^ a b The Truth About Yellow Tang Collecting in Hawaii”. Ref Builders The Reef and Saltwater Aquarium Blog (14 November 2016). 2025年1月25日閲覧。
  17. ^ US EPA, OW (2017年1月30日). “Threats to Coral Reefs” (英語). US EPA. 2021年4月22日閲覧。
  18. ^ YELLOW TANG Zebrasoma flavescens – Rising Tide Conservation” (英語) (24 November 2011). 2021年4月22日閲覧。
  19. ^ Christie, MR; Tissot, BN; Albins, MA; Beets, JP; Jia, Y; Ortiz, DL; Thompson, SE; Hixon, MA (2010). “Larval Connectivity in an Effective Network of Marine Protected Areas”. PLOS ONE 5 (12): e15715. Bibcode2010PLoSO...515715C. doi:10.1371/journal.pone.0015715. PMC 3006342. PMID 21203576. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3006342/. 
  20. ^ Drifting fish larvae allow marine reserves to rebuild fisheries” (英語). ScienceDaily. 2025年1月24日閲覧。
  21. ^ Yellow tangs finally captive bred by the Oceanic Institute Captive bred, Hawaii, News, Places, Saltwater Fish, Surgeonfish, United States, yellow tang Reef Builders”. Reef Builders The Reef and Marine Aquarium Blog (2015年10月20日). 2025年1月25日閲覧。
  22. ^ “Effects of age, size, and density on natural survival for an important coral reef fishery species, yellow tang, Zebrasoma flavescens.”. Coral Reefs 28 (1): 95–105. (March 2009). Bibcode2009CorRe..28...95C. doi:10.1007/s00338-008-0447-7. 
  23. ^ Gay, Jeremy (2022年10月16日). “Hawaii harvesting of tropical fish for aquariums approved” (英語). Reef Builders | The Reef and Saltwater Aquarium Blog. 2023年1月1日閲覧。

関連項目

 

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