オルペウス

オルペウス古希: Ὀρφεύς, Orpheus, フランス語: Orphéeオルフェ))は、ギリシア神話に登場する吟遊詩人であり、古代に隆盛した密儀宗教であるオルペウス教の始祖とされる。ラテン語でもギリシア語にならってオルペウスと発音される。日本語ではフランス語読みも通用している。

ジャン=バティスト・カミーユ・コローの『エウリュディケを冥界から連れ戻すオルフェウス』。冥府のオルペウスを描いている。

概説

アポロドーロスによれば、ムーサイのひとりカリオペーオイアグロスの子として、ただし名義上の父親はアポローン神として、オルペウスは生まれたとされる[1]。またオルペウスの父はトラーキア王であったともされ、グレーヴスはオイアグロスをトラーキア王としている[2]。10世紀頃の『スーダ』はオルペウスをアトラースの娘の1人アルキュオネーの子孫と伝えている[3]。竪琴の技はアポローンより伝授されたともいう。その技は非常に巧みで、彼が竪琴を弾くと、森の動物たちばかりでなく木々や岩までもが彼の周りに集まって耳を傾けたと言われる。

冥府下り

フェデリコ・セルベーリの絵画『オルフェウスとエウリュディケ』。
エミール・ビンの絵画『オルフェウスの死』。
オルペウスの頭部を描いたギュスターヴ・モローの『オルフェウス』。

オルペウスの妻エウリュディケーが毒蛇にかまれて死んだとき、オルペウスは妻を取り戻すために冥府に入った。彼の弾く竪琴の哀切な音色の前に、ステュクスの渡し守カローンも、冥界の番犬ケルベロスもおとなしくなり、冥界の人々は魅了され、みな涙を流して聴き入った。ついにオルペウスは冥界の王ハーデースとその妃ペルセポネーの王座の前に立ち、竪琴を奏でてエウリュディケーの返還を求めた。オルペウスの悲しい琴の音に涙を流すペルセポネーに説得され、ハーデースは、「冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件を付け、エウリュディケーをオルペウスの後ろに従わせて送った。目の前に光が見え、冥界からあと少しで抜け出すというところで、不安に駆られたオルペウスは後ろを振り向き、妻の姿を見たが、それが最後の別れとなった[4]

アルゴー探検隊

オルペウスは、イアーソーン率いるアルゴー船探検隊(アルゴナウタイ)にもヘーラクレースらとともに加わった。人間を歌で誘惑し殺害する女魔物セイレーンに歌合戦を挑み一座を鼓舞、無事に海峡を渡った。このとき、ただ1人テレオーンの子ブーテースのみが誘惑に負けて命の危機に陥ったが、アプロディーテーが彼を奪ってリリュバイオンに住ませた[5] [6]

生活

オルペウスの死

妻を失ったオルペウスは女性との愛を絶ち、オルペウス教を広め始めた。ディオニューソストラーキアに訪れたとき、オルペウスは新しい神を敬わず、ただヘーリオスの神(オルペウスは、この神をアポローンと呼んでいた)がもっとも偉大な神だと述べていた。これに怒ったディオニューソスは、マケドニアのデーイオンで、マイナス(狂乱する女)たちにオルペウスを襲わせ、マイナスたちはオルペウスを八つ裂きにして殺した[7]

マイナスたちはオルペウスの首をヘブロス河に投げ込んだ。しかし首は、歌を歌いながら河を流れくだって海に出、レスボス島まで流れ着いた。オルペウスの竪琴も、レスボス島に流れ着いた[8]。島人はオルペウスの死を深く悼み、墓を築いて詩人を葬った。以来、レスボス島はオルペウスの加護によって多くの文人を輩出することとなった。また、彼の竪琴はその死を偲んだアポローン(一説にはアポローンの懇願を受けたゼウス)によって天に挙げられ、琴座となった。

脚注

  1. ^ アポロドーロス 『ギリシア神話』 一巻 III 2
  2. ^ グレーヴス『ギリシア神話』 28章a
  3. ^ 『ソクラテス以前哲学者断片集 第1分冊』p.4。
  4. ^ グレーヴス『ギリシア神話』 28章c
  5. ^ アポロドーロス 『ギリシア神話』 一巻 IX 16
  6. ^ アポロドーロス 『ギリシア神話』 IX 25
  7. ^ グレーヴス『ギリシア神話』 28章d
  8. ^ グレーヴス『ギリシア神話』 28章d, g

参考書籍

関連項目

外部リンク