エロ本
エロ本(エロほん)とは、成人向けの雑誌の中でも、特に性的興奮のための娯楽要素を扱う分野の書籍および雑誌の俗称である。成人向け雑誌、H本(エッチぼん)、アダルト本、18禁本とも呼ばれる。18禁本とは、エロ本のうち、18歳未満(17歳以下)の購入が禁止される書籍の呼称である。必ずしもエロ本のすべてが、18歳未満が購入禁止とは限らない。 性的な娯楽要素としては、ポルノグラフィ文学や官能小説のような文章を主体としたもの、ヌードや着エロ、水着などでのセクシーなポーズ、性行為(オナニー,セックス等)およびそれに関連する写真を主体とした「アダルト写真誌」、漫画を主体とした「アダルトコミック」などがあり、これらを総合的に含むものを古くは「ポルノ雑誌」、現在は「成人向け雑誌」、「アダルト雑誌」という。SM、ブルセラ、同性愛など、特定の分野を掘り下げた専門誌もありジャンルは様々である。21世紀に入りインターネット等の普及により紙媒体の需用は大幅に減少している。 書店で陳列の際に本の内容を立ち読みできないようにビニール袋に包装していることが多かったことから、かつて昭和後期には「ビニ本」(ビニール本)とも呼ばれたが[1]、現在ではビニ本は死語になっている。エロ本は現在少なくなっており漫画などが多くなってきている 概要『エロ本』は俗語であり明確な定義は存在しないが、大まかにはエロチックな刺激を得られる書籍、雑誌を指す。「エロティックな本」、「エロい本」であるからエロ本である。なお、エロ本は女性のヌード等を扱った書籍が多いことから主に男性のものとの認識が一般にはあるが、少女漫画でもティーンズラブという分野の登場と共に一般の漫画雑誌でも性描写を表現した作品が現れ始め、表紙の写真やイラストからは一般書とエロ本とがほぼ区別できない状況であり、定義の境界線はややあいまいである。 一般の週刊誌であっても巻頭に女性ヌードグラビアを掲載しているものもあり、『エロ本』との呼称は読者側の主観に基づく分類である。なお、1970年代から1980年代まではマニアックなサブカルチャーもエロ本に掲載されていたこともあり、末井昭編集の『ウィークエンド・スーパー』(セルフ出版/日正堂)という雑誌では赤瀬川原平や高平哲郎、南伸坊といった作家陣が連載を持っていたことがある[2]。 日本ではエロ本の頒布に関する法令として刑法175条で規定されるわいせつ物頒布等の罪がある。 このほか、都道府県単位では、1950年(昭和25年)5月19日、岡山県議会が青少年の保護育成のため日本初のエロ本取締条例を可決した[3]ことを皮切りに、地方自治体が独自の条例(青少年保護育成条例)などの制定により、18歳未満への販売が禁じられている場合が多い。18歳の高校生への販売を自主規制している場合もある。(あくまでも自主規制であるため高校生であることを隠して購入して後から発覚した場合でも補導されることは無い。) エロ本のうち比較的に性表現のゆるいと考えられるものは、自主規制により15歳未満の販売禁止をしているものもある。また大きく分けてコンビニなどで販売される成人向け本(俗に「類似本」)と書店向けで表紙に「成人」「18禁」などの表示がある成人指定本があり[4]、それぞれ業界自主規制としてゾーニング、小口シールでの封などの配慮がされている。 販売場所日本における、エロ本の主な販売場所は下記のとおり。
コンテンツの種類・表現媒体表現方法としては写真(グラビア)、イラスト、漫画、小説、解説文、手記などさまざまな体裁があり、雑誌の場合、それらがある程度組み合わされたものが多く、ヌードグラビアだけでなく同性愛、SMなど専門的な分野に特化した雑誌も多い。掲載モデルを中心としたアイドル誌的な側面と専門分野の情報誌といった側面もある。 写真写真はエロ本の中心的な表現方法である。しかし、一人のモデルに焦点をあてたヌード写真集は、建前上は芸術として撮影される事が多い。男女の性行為の写真は、いわゆるエロ本としてのものが多数を占める。SMにおいては緊縛の写真なども同様である。 どこまで見えても許されるかは国や時代によって大きく異なるが、日本ではわいせつ物頒布罪(刑法175条)により長らく陰毛が規制され、1991年以降はヘアヌード解禁(陰毛の見える写真が解禁)となったが、陰唇や陰茎については未だに隠されるかモザイク処理等の規制がなされている。出版物や映像作品でも、性器の部分に同様の修正が施されている。この刑法175条については、現状にそぐわない不合理な規制であるから廃止すべきとの批判もあり[10]、参議院議員の山田太郎が刑法175条の見直しを政策課題として掲げている[11]。 1991年から1992年にかけて宮沢りえの『Santa Fe』、マドンナの『SEX』、樋口可南子の『Water Fruits』などヘアを掲載したヌード写真集が軒並み発売された。
小説性欲を刺激するジャンルの小説もあり、専門的には官能小説、ポルノ小説などと分類されるが、一般的にはエロ小説とも言われる。雑誌としては読み物系の成人向け雑誌に広く掲載され、一般誌にもそれに近いものが掲載される例がある。また文庫本でも多くの書籍が刊行されている。作家はポルノ系の専門の者から幅広いジャンルを手掛けている者まで多数いるが、近年はサブカルチャーと連動したライトノベル系の作品・作家も多く誕生している。 手記一般人の体験手記という体裁の文章である。個人が体験したエロチックな事件のことを説明する、という形を取ったものであるが、基本的にはノンフィクションの形を取ってはいるがフィクションの可能性もある。単発読みきりの形だが月刊誌ではシリーズ化されていたりすることもある。 読み物系の成人雑誌の「潜入ルポ」などの特集として、あるいは読者の投稿記事として掲載されることが多かった。『禁じられた体験』の出版以降、それのみから構成された単行本が多数出版されるようになり、またこれを主力に置いた読み物系の雑誌も出てきた。平成に入ってからは、インターネット上の体験書き込み型の掲示板に由来する本も出ている。 情報性風俗店の情報やアダルトビデオの新作情報といった、特定のコンテンツに関する情報に特化した雑誌も多くあり、専門の出版社もある。SMやゲイ向けの情報などの専門誌もある。 あるいは事件をルポ的な形で読ませ、その中にエロい展開が含まれるもの、芸能界の裏話としての猥談的読み物などもよくある。 知識としての情報性的な事項に関する解説も重要な位置を占める。特にかつては現在ほど性知識が普及しておらず、学校での性教育もほとんど行われていなかったこともある。春画は性交に関する知識を直接に伝える役割も担っていた。同様に性交や性生活の知恵を説明する文章は初期の読み物では大きなウェイトをもっていた。より解説書的になったものでは「How to sex」なども有名である。近年ではファッション誌のコーナーの一つとして同年代のセックスライフの統計やラブホ情報、体の悩みや性に関する悩みのQ&Aがよく見られる。 イラストエロ本の場合、普通はイラスト単体の書籍や雑誌はなく、多くの場合は口絵や挿絵の形で雑誌に挿入される。ただ、SM雑誌ではイラストに凝る例が多く、口絵に数ページ以上のイラストが載るのが普通である。 エロ小説の表紙はイラストによることが多く、専門とするイラストレーターがいる。 漫画エロ漫画とも言われる。もともとは、おそくとも昭和の後期のころまでには、劇画風の絵で性的なことを表現した作品から始まり、性描写のある劇画作品を掲載している漫画雑誌も増加した。1980年代からは劇画は廃れはじめ、代わりにアニメ絵調のポップな画風での美少女キャラを使用したいわゆるエロ漫画も増え、美少女漫画雑誌やその単行本も多く発売された。その影響からか非エロの劇画にも美少女キャラが登場するようになった。一方、レディースコミックでも性描写のあるティーンズラブが登場し、一般の漫画とエロ漫画の垣根は限りなく曖昧となっている。 出版物の型単行本・ムック一冊の本の形で出版されるものには、小説、写真集がある。他に体験手記だけを集めたものがある。また、性に関する知識や技法をまとめ、紹介するタイプの本も多い。
上記を組み合わせた形の季刊もしくは各月刊のムック本も多く発売されている。 雑誌ジャンルとは別に2000年までに大きく分けてコンビニ向けと書店向けに分けられた[12]。これは配本において求められる部数と自主規制において表現できる内容に差があるからで、コンビニ向けは概ねライトな表現で価格も安い。書店向けは部数が少なく、比例して内容は濃く価格も高い。2000年代後半からは本来付録であったDVDが主体になっているものも多く、ページ数が10数ページという場合もある[12](この時点の週刊プレイボーイ調べでは風俗誌以外はDVD付きが標準であった[12])。
その他
歴史エロは人間の基本的な欲求のひとつであるから、それにかかわる歴史は古い。他方では正当なものと見なされない歴史も古い。 明治時代以前例えば春画のように、日本でも古くからエロ本的な伝統は存在した。例を挙げるとすれば、葛飾北斎は「鉄棒ぬらぬら」「画狂老人卍」「紫色雁高」という別名で春画作家として活躍していた。有名なものに「蛸と海女」があり、触手プレイの先駆けとも言われている。しかし、現在の日本文化は、明治時代で大きく区切られる。ちなみに枕絵のような多色刷木版の猥褻な絵は、第二次大戦以前頃まで残ったとみられる。その系列ではエロ写真のばら売りという形がある。 明治時代から戦前まで現在のエロ本につながるようなものとしては、古くは1875年(明治8年)に『造化機論』が出る。これは西洋式の科学的な理論に基づいた性学書で、当時の一般人にはなじみのなかった精子と卵のことなども解説されていた。道徳的には保守的で、エロ本と言うにはやや上品であったようだが、男女の性器の図解等もあり、現在のエロ本のような関心で見られた面も強かったらしい。当時はこれに次いで類書が多数出版された。明治末から大正になると、その種の本も次第に娯楽的な彩りを持つようになった。 大正期には雑誌『変態心理』『変態性欲』などが出て、変態性欲まで幅を持つようになった。昭和にはいると雑誌『グロテスク』や『猟奇画報』『世界猟奇全集』など、エログロ、特に猟奇という言葉で表されるような内容の書籍雑誌が多数出版された。ただし検閲などの統制下でもあり、それらは会員制等の下での限られた部数のものであった。しかし次第に自由な出版を弾圧する姿勢が強まり、1930年頃には表向きとしてはエロ本は全滅する。もちろん地下出版や非合法出版は多数あった模様であるが、それらについては詳しい記録が現存する[18]。 戦後復興期第二次大戦の敗戦によって、それまでの統制からの解放と共に、一気に合法的エロ本が急増する。それらの雑誌は、粗悪な紙を使っていたことから当時の低品質の酒「カストリ」にちなんで「カストリ雑誌」と呼ばれた(呼称の由来には諸説あり)。それらは出来てはすぐにつぶれと出入りが激しく、その全体像は今も明らかではない。内容は雑多だが、戦前戦中の出版物を継ぎ接ぎした内容も多かった由。中でも戦前からの執筆陣を抱えた『猟奇』はその2号が戦後初めての発禁(猥褻物頒布違反)を受けた。同様の出版物は単行本にもあり、『カストリ本』と言われた。これも内容は戦前のものの焼き直しが中心であった。この時期の特筆すべきものとしてはヴァン・デ・ヴェルデの「完全なる結婚」が挙げられる。戦前に発禁になっていたものが、1946年に完訳本が出版された。これはハードカバーだったが、直後に別社より抄訳が出て、そちらはカストリ本であった。 カストリ雑誌そのもの3、4年でほぼ消えたが、それらは形を変え、いくつかの型に分かれて継承された。
昭和後期以降社会が豊かになるにつれ、雑誌の質も向上し、昭和30年代半ばには多くの雑誌にも写真(グラビア)が多用されるようになった。 性知識に関するものでは1960年には『性生活の知恵』、1971年には奈良林祥の『HOW TO SEX』がある。 1964年には「平凡パンチ」が創刊、ヌードを多用した成年男子向けの雑誌であり、そのヒットから「週刊プレイボーイ」が出て、この両者は長く若者向けソフトエロ本としての地位を保ち続ける。「ポケットパンチOh!」(1968年)はロマンポルノの女優を中心にピンク映画情報などを扱った情報誌の走りで、類似誌が多数出た。またこれが後にAV情報誌に引き継がれる。1971年にはSM主体の雑誌から分かれるような形で「薔薇族」が創刊、続いていくつかの同性愛雑誌が出ている。また昭和40年代後半にスワッピング情報誌が創刊された。これには読者の写真が載ることが多く、読者投稿写真の走りの一つと見られる。1970年代中ごろにはビニールに包装された50数ページのヌード写真集、いわゆる「ビニ本」が爆発的な売れ行きを見せる[1]。これらは1981年頃より警察より摘発されて第一次ブームは終息した[1]。 漫画では1970年代当初にエロ劇画が出現、1973年の「エロトピア」の創刊を皮切りにエロ劇画誌が続々と出て、一気にその市場を拡大した。やがて作品内に美少女が登場する美少女漫画も増加し、美少女漫画誌も多く発売されるようになった。また、パソコンの一般への普及率こそ高くなかったものの、アダルトゲーム(いわゆるエロゲ)を製作するサードパーティーも増え、アダルトゲームを中心に扱うパソコン雑誌も誕生した。 風俗情報誌は1980年代初頭に出現した。たとえば「ナイトタイムス」は元来は歌舞伎町のタウン誌であったが、風俗関連の情報誌として独立したものである(同紙は後に「ナイタイレジャー」を経て「ナイスポ」となる)。風俗嬢の顔が露出することで、後にその中からアイドル扱いされるものも現れ、フードル(風俗アイドル)と呼ばれるようになった。 また、性描写のある女性向けのレディースコミックも少女漫画を発行している出版社と同じ出版社から発行されるようになり、ティーンズラブは少女向け情報誌の別冊の形で生まれた。 2004年に自主規制ながらエロ本にテープが貼られ中身が見られなくなると、2006年にはDVDが付き、2008年には下着までが付録となるなど工夫が凝らされた[19]。 2019年1月、コンビニ大手3社が扱いの中止を発表[7]。7万から2万部が配本されていた「コンビニ向け成人向け類似本」が事実上締め出され、実施前から休刊雑誌が相次ぐ。 ゴミ問題エロ本を廃棄する際に、親類等に見つからないように家庭ごみとして捨てるのも難しいため、人気のない場所に投棄されている場合がままある。なお、エロ本の場合、単に不法投棄ではなく、その内容から迷惑防止条例に抵触する可能性がある[9]。 脚注
参考文献
関連項目 |