エドワード・セント・オービン (英 : Edward St Aubyn 、1960年 1月14日 - )はイングランド の作家 ・ジャーナリスト で、代表作に半自叙伝的小説『パトリック・メルローズ』シリーズを持つ。2006年には同シリーズ第4作の『マザーズ・ミルク』"Mother's Milk " でブッカー賞 にノミネートされた[ 1] 。
家族と私生活
セント・オービンはロンドンで上流階級の家庭に生まれ、父は元軍人で外科医 のロジャー・ジェフリー・セント・オービン(Roger Geoffrey St Aubyn、1906年 - 1985年)、母は彼の2番目の妻であるローナ・マッキントッシュ(Lorna Mackintosh、1929年 - 2005年)であった[ 1] 。彼はセント・オービン準男爵家 (英語版 ) のエドワード・セント・オービン初代準男爵 (Sir Edward St Aubyn, 1st Baronet) の玄孫に当たるが、初代準男爵はジョン・セント・オービン (初代セント・レヴァン男爵) (英語版 ) の長男である。父の前妻はザルツブルク ・ミラベル宮殿 (英語版 ) のゾフィー・ヘレネ・フォン・プトン男爵夫人 (英語版 ) (Sophie Helene Freifrau von Puthon of Schloss Mirabell in Salzburg) であったが、1957年に離婚している[ 1] 。母方の祖父はシーフォース・ハイランダーズ (英語版 ) 所属のアラステア・ウィリアム・マッキントッシュ大尉 (Capt. Alastair William Mackintosh) で後にフロリダ州 パームビーチ に移住しているほか、母方の祖母リラ・エメリー (Lela Emery) はニューヨーク の女子相続人で、シンシナティ の実業家ジョン・ジョサイア・エメリー・シニア (John Josiah Emery, Sr.) の娘であり、きょうだいにはジョン・J・エメリー・ジュニア (英語版 ) とオードリー・エメリー (英語版 ) (ロシア大公 ドミトリー・パヴロヴィチ の妻)がいた[ 2] [ 注釈 1] 。彼女は後に「タリーランドとディノ公」(Duc de Talleyrand et Dino) と結婚し、フランスのサン=ブリス=スー=フォレ (英語版 ) に移住した[ 4] 。アラステア・マッキントッシュはインヴァネス 出身で、1926年から1927年にかけてアメリカの無声映画 スターであるコンスタンス・タルマッジ と結婚していた[ 5] 。セント・オービン本人には姉アレクサンドラ (Alexandra) と、父親の最初の結婚で生まれた異母姉が2人いる[ 4] 。
彼は家族が家を持っていたロンドン・フランスの双方で育った[ 6] 。自身の幼少期に関しては、5歳から8歳にかけて父親に児童性的虐待 を受け、母親もこれに荷担していたことから、不幸せなものだったと回顧している[ 6] [ 7] 。ウェストミンスター・スクール に進んだ後、1979年にはオックスフォード大学 のキーブル・カレッジ で英文学を学んだが、大学在学時代にはヘロイン 中毒に陥った[ 6] 。25歳で心理療法 と出会い、その後プロの文筆家になった。1987年から1990年にかけては、作家のニコラ・シュルマン (英語版 ) (現ノーマンビー侯爵夫人 )と結婚していた[ 4] 。ふたりの子どもがおり、ロンドン在住である。
『パトリック・メルローズ』シリーズ
彼の代表作でもある『パトリック・メルローズ』シリーズは、『ネヴァー・マインド』、『バッド・ニュース』、『サム・ホープ』、『マザーズ・ミルク (英語版 ) 』、『アット・ラスト』の全5巻から成っている。前4作は、最終作『アット・ラスト』の刊行に合わせ、2012年にそれぞれ1巻として再発行された。作品は筆者自身の人生を下敷きにしており、崩壊しかかったイングランドの上流階級の家庭を舞台に、両親の死、アルコール依存症 、ヘロイン 中毒とそれからの回復、結婚や親としての生活などを描いている[ 8] 。作品は、幼少期の逆境がいかにして心理的健康を損なうかを力強く探索した作品と評されている[ 9] 。
第4作『マザーズ・ミルク』は、2012年に長編映画化されたが、脚本はセント・オービン自身が執筆し、ジェラルド・フォックス (Gerald Fox) が監督した[ 10] 。作品にはジャック・ダヴェンポート 、エイドリアン・ダンバー (英語版 ) 、ダイアナ・クイック (英語版 ) が出演したほか、マーガレット・タイザック (英語版 ) の遺作となった[ 10] 。
2018年には、ショウタイム (Showtime) とスカイ・アトランティック (英語版 ) の共同事業により、全5話のミニシリーズ『パトリック・メルローズ (英語版 ) 』として映像化された。ベネディクト・カンバーバッチ が主役・製作総指揮を務め(幼少期を演じるのはセバスチャン・モルツ)、1話につき原作の1巻を映像化する構成となっている[ 11] [ 12] [ 13] 。シリーズは2018年5月12日にショウタイムで初放送され、好意的な評価を得た[ 14] 。この年のテレビ番組を対象としたBAFTA テレビ賞では、最優秀ミニシリーズ賞と主演男優賞(カンバーバッチ)を獲得した[ 15] 。
受賞歴
著作
脚注
注釈
^ セント・オービンの著作『パトリック・メルローズ』シリーズ第5作の『アット・ラスト』には、次のような一節がある。なおパヴロヴィチはグリゴリー・ラスプーチン の暗殺の実行人物でもあった。ジョンソン家の三姉妹の末っ子でいちばん美しかったガーティーに、まちがいなく母は最も競争心を燃やしていた。ガーティーはロシア最後の皇帝の甥であるウラジーミル大公と結婚した。ナンシー[
=パトリックの母方の叔母 ]が「ウラド叔父さん」と呼んでいたこの大公は、ラスプーチンの暗殺に手を貸し、とどめを刺すために皇帝のリボルバーを
ユスポフ公 に手渡したが、結局は、この生命力旺盛な怪僧に
ヒ素 を盛り、
ネヴァ川 で溺れさせるという中途半端な方法がとられた。
— エドワード・セント・オービン、『アット・ラスト』[ 3]
出典
^ a b c #TheNewYorker140602
^ “Former Husband of Film Actress to Wed”. The Warren Tribune (Warren, Ohio: Ogden Newspapers Inc. (英語版 ) ): p. 9. (September 7, 1928)
^ エドワード・セント・オービン 著、国弘喜美代 ・手嶋由美子 訳『アット・ラスト』早川書房〈パトリック・メルローズ〉、2019年2月25日、29-30頁。ISBN 978-4-15-209839-9 。
^ a b c Mosley, Charles, ed (2003). Burke's Peerage, Baronetage & Knighthood (英語版 ) (107 ed.). London, England: Burke's Peerage & Gentry. p. 3496. ISBN 0-9711966-2-1
^ “Film Actress's Divorce Suit”. The Times (London, England: The Times Digital Archive): p. 9. (29 September 1927)
^ a b c Brown, Mick (2 May 2014). “How writing helped Edward St Aubyn exorcise his demons” . デイリー・テレグラフ (London, England: テレグラフ・メディア・グループ (英語版 ) ). https://www.telegraph.co.uk/culture/books/authorinterviews/10800965/How-writing-helped-Edward-St-Aubyn-exorcise-his-demons.html 4 May 2014 閲覧。 ( 要購読契約)
^ Moss, Stephen (17 August 2011). “Edward St Aubyn: 'Writing is horrible'” . ガーディアン (London, England: ガーディアン・メディア・グループ ). https://www.theguardian.com/culture/2011/aug/17/edward-st-aubyn-interview 4 May 2014 閲覧。
^ Kakutani, Michiko (February 21, 2012). “Laying to Rest Familial Horrors: Edward St. Aubyn’s ‘At Last,’ an Autobiographical Novel” . The New York Times (New York City: New York Times Company). https://www.nytimes.com/2012/02/22/books/edward-st-aubyns-at-last-an-autobiographical-novel.html?pagewanted=all October 1, 2012 閲覧。
^ James, O.W. (2013). How to Achieve Emotional Health . London, England: Vermilion
^ a b Bradshaw, Peter (2012年11月8日). “Mother's Milk – review ”. ガーディアン. 2019年6月16日 閲覧。
^ “ベネディクト・カンバーバッチが破壊的なプレイボーイ演じる「パトリック・メルローズ」18年12月より日本初放送 ─ 原作小説も邦訳、ドップリ楽しめ ”. THE RIVER (2018年10月3日). 2019年6月16日 閲覧。
^ 市川遥 (2018年10月7日). “カンバーバッチが破滅的プレイボーイを演じたドラマ、12月日本初放送! ”. シネマトゥデイ . 2019年6月16日 閲覧。
^ なかざわ ひでゆき (2018年12月30日). “【新作ドラマ・レビュー】 『パトリック・メルローズ』 ベネディクト・カンバーバッチの大熱演に注目! ”. 海外ドラマboard . AXN Japan . 2019年6月16日 閲覧。
^ Villarreal, Yvonne (May 12, 2018). “Benedict Cumberbatch takes on a dream role in Showtime's 'Patrick Melrose' — thanks to Reddit ”. Los Angeles, California: Tronc . July 26, 2018 閲覧。
^ “ゴミ袋ドレスでレッドカーペットに登場 英テレビ賞授賞式 ”. BBC (2019年5月13日). 2019年6月16日 閲覧。
^ “Previous winners of the Betty Trask Prize and Awards ”. The Society of Authors. 2019年6月23日 閲覧。
^ a b “ベネディクト・カンバーバッチ主演ドラマ原作『パトリック・メルローズ』シリーズの書影公開! ドラマの日本放送も決定! ”. 早川書房 (2018年10月3日). 2019年6月23日 閲覧。
^ “Borat up for South Bank Show gong ”. 英国放送協会 (2007年1月5日). 2019年6月23日 閲覧。
^ Lea, Richard (19 May 2014). “Edward St Aubyn wins Wodehouse prize with a satire of literary awards ”. ガーディアン. 2019年6月23日 閲覧。
^ Waters, Lowenna (2014年5月19日). “Edward St Aubyn's satire on book prizes wins book prize ”. デイリー・テレグラフ . 2019年6月23日 閲覧。
参考文献
外部リンク
英語版ウィキクォートに本記事に関連した引用句集があります。