アロダポスクス
A. precedens の頭蓋骨
地質時代
後期白亜紀 カンパニアン - マーストリヒチアン
分類
学名
Allodaposuchus Nopsca, 1928
シノニム
種
A. precedens Nopcsa, 1928
A. subjuniperus ? Puértolas et al. , 2013 (also Agaresuchus )
A. palustris Blanco et al. , 2014
A. hulki Blanco et al. , 2015
A. iberoarmoricanus Blanco, 2021
A. fontisensis ? (Narváez et al. , 2016; originally Agaresuchus )
A. megadontos ? (Narváez et al. 2015; originally Lohuecosuchus )
A. mechinorum ? (Narváez et al. 2015; originally Lohuecosuchus )
アロダポスクス (学名 :Allodaposuchus )は、後期白亜紀 のヨーロッパ に生息した、正鰐類 に属するワニ形上目 新鰐類 の絶滅 した属 [ 1] 。他のワニ形類との間での類縁関係は諸説あり、ワニ目の外部でハイラエオチャンプサ と並ぶ正鰐類の基盤的位置に置くもの、ハイラエオチャンプサよりも派生的な位置に置くもの、ワニ目の内部に置くものがある。
特徴
A. precedens の復元図
他の白亜紀のワニ形類の多くと同様に、アロダポスクスは現生のワニと比較して小型であった。本属について既知の範囲内で最大の標本は全長約3メートルに達する[ 2] 。形態は種間で異なるが、一般にアロダポスクスの頭蓋骨は短く平坦でかつ丸みを帯びる。Allodaposuchus precedens の頭蓋骨は吻部が短く、その長さは頭蓋天井 (英語版 ) と同程度である。A. subjuniperus は吻部が中程度に伸びてり、頭蓋天井よりも長い[ 2] [ 3] 。アロダポスクスの種を他のワニ形類から区別する主な特徴としてはcranioquadrate passageと呼称される頭蓋骨の背側に走る溝の角度が挙げられ、他のワニのcranioquadrate passageが頭蓋骨背側から僅かに視認できる程度なのに対し、アロダポスクスのcranioquadrate passageは外側からも見て取ることが可能である[ 4] 。
アロダポスクスの種のうち少なくともA. hulki においては、長期間陸上で生活するための適応を遂げていた可能性がある。A. hulki の頭蓋骨には大型の洞が存在しており、これは現生のワニや化石種のワニには見られないものであり、頭蓋骨の軽量化の他にも水に由来する音を聞き取ることに寄与した可能性がある。加えて、A. hulki は肩甲骨 ・上腕骨 ・尺骨 上の筋肉の付着面がよく発達しており、前肢は陸上での歩行に適した半直立姿勢を維持することが可能であった。A. hulki の骨格は層状の砂岩 と泥岩 の堆積物から発見されており、この地層は車軸藻植物 に基づいて河川や湖沼のような恒久的な水場から遠く離れた大型の氾濫原 に存在する一時的な池で形成された可能性が高い。A. hulki は水の外で長い時間を過ごし、食餌を求めてこれらの池の間を移動した可能性がある[ 5] 。
発見史
アロダポスクスは複数の種が記載されているが、その位置づけには議論がある。
A. precedens
アロダポスクスのタイプ種A. precedens はルーマニア で化石が産出し、1928年にハンガリー の古生物学者フランツ・ノプシャ が命名した[ 6] 。ノプシャが上部白亜系 マーストリヒチアン 階にあたるハツェグ盆地の堆積物中で発見した標本は骨の断片であった。2001年にはスペイン とフランス から産出した部分的な頭蓋骨が本種に分類された[ 7] 。これらの頭蓋骨のいくつかはルーマニアの地層よりも古いカンパニアン 階のものであり、このため本種は約500万年に亘って存続していたことが示唆される[ 2] 。
2013年の研究では、2001年に本種に分類されたフランスとスペインの化石が実際にはアロダポスクスの未記載種である可能性が提唱され、Allodaposuchus sp.として同定された[ 2] 。また2005年の研究ではこれらの化石は異なるワニ形類の属に属することが提唱され、またルーマニア産の化石が自身の属を設立するにはあまりに断片的であると指摘されたことにより、アロダポスクスを疑問名 とする提案がなされている[ 8] 。しかし2013年の研究ではルーマニア産標本は他のヨーロッパの白亜紀のワニ形類から区別できるものであると主張され、属としてのアロダポスクスの有効性が再確認された[ 2] 。
A. (Agaresuchus) subjuniperus ?
2013年にはアロダポスクス属の第二の種であるA. subjuniperus がスペイン・ウエスカ県 に分布する上部マーストリヒチアン階のトレンプ層群 (英語版 ) Conquès層から産出した頭蓋骨に基づいて命名された。本標本はビャクシン属 の樹木の下で発見され、骨の間にはその根が食い込んで成長していたため、ラテン語 で「ビャクシンの下で」を意味する種小名が命名された[ 2] 。しかし2016年に本種はA. precedens と十分な区別が可能と判断されたため、新属アガレスクス (英語版 ) にそのタイプ種Agaresuchus fontisensis と共に再分類された[ 9] 。2021年にはBlanoによる系統解析がこの結果に異を唱えることになり、A. fontisensis とA. subjuniperus のいずれもがロフエコスクス (英語版 ) のL. megadontos とL. mechinorum と共にアロダポスクス属に属することが示された[ 10] 。
A. palustris
ピレネー山脈 南部のFumanya Sudと呼ばれる化石産地においてトレンプ層 (英語版 ) で発見された部分的な頭蓋骨と他の骨格断片に基づき、2014年にはA. palustris が記載された[ 11] 。これらの骨格により、初めてアロダポスクスの体骨格の詳細な記載が可能となった。
A. hulki
アロダポスクス属の第四の種であるA. hulki は2015年に記載された。産出層準は同じくトレンプ層であるが、産地はCasa Fabàであった。本種の種小名はマーベル・コミック の超人ハルク にちなんでおり、本種が強い筋肉を有したことを示す骨格の特徴を反映している[ 5] 。
A. iberoarmoricanus
2021年にBlancoが命名したA. palustris は、南フランス のブーシュ=デュ=ローヌ県 に分布する上部カンパニアン 階の河川堆積物中に発見された化石に基づいて記載が行われた[ 10] 。本種の種小名は白亜紀 のヨーロッパの群島の一つであったIbero-Armorican島にちなむ[ 10] 。
A. (Agaresuchus) fontisensis ?
2016年に新属新種Agaresuchus fontisensis が発見・記載された。本種の種小名は化石産地Lo Huecoが位置するスペイン・クエンカ県 のFuentesにちなんでおり、fontis はFuentesのラテン語名である[ 9] 。これに伴ってA. subjuniperus も新属アガレスクス属に再分類されたが[ 9] 、Blancoの2021年の研究はこれに異論を投げかけており、アガレスクスをアロダポスクスのジュニアシノニムとして扱いこれら2種をアロダポスクス属に再分類することを提唱している[ 10] 。
A. (Lohuecosuchus) megadontos と A. (Lohuecosuchus) mechinorum ?
2015年に命名された属であるロフエコスクス (英語版 ) にはL. megadontos とL. mechinorum の2種が含まれており、これらはスペインと南フランスから産出したものである[ 12] 。Blancoの2021年の研究ではこれら2種はアロダポスクス属に再分類することが提唱されており、またロフエコスクスはアロダポスクスのジュニアシノニムと考えられている[ 10] 。
分類
A. palustris の顎の断片と歯
A. palustris の基地の部位を示す骨格ダイアグラム
アロダポスクスはアロダポスクス科 の分岐群に属すが、アロダポスクス科の厳密な位置付けについてはいまだ議論がある。Narváez et al. はアロダポスクス科をハイラエオチャンプサ科 の姉妹群とした上でこれら2科を纏めてワニ目 の姉妹群としており[ 12] 、Salisbury et al. (2006)やそれに準拠する小林快次 『ワニと恐竜の共存』も同様の樹形を採用している[ 1] 。別の研究ではこれら2科は姉妹群ではなくワニ目に向かう進化的段階として扱われ、ハイラエオチャンプサ科はアロダポスクス科よりも基盤的とされている[ 13] [ 14] 。2021年には体骨格の情報を組み込んだ系統解析により、アロダポスクス科はワニ目の内部に位置付けられている[ 15] 。
Cladogram 1 : Narváez et al. , 2015
Cladogram 2 : Rio & Mannion, 2021
Cladogram 3 : Blanco, 2021
以下は2021年のBlancoの研究に基づく、アロダポスクス科内の類縁関係を示すクラドグラム [ 15] 。
2021年の研究においてアロダポスクスはアガレスクス (英語版 ) やロフエコスクス (英語版 ) と共に側系統群 として扱われており、Blancoはこれら2種をアロダポスクスのジュニアシノニムにすべきであると主張している[ 15] 。
出典
^ a b 小林快次 『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』北海道大学出版会 、2013年7月25日、34-36頁。ISBN 978-4-8329-1398-1 。
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