アラド市電 (ルーマニア語 : Tramvaiul din Arad )は、ルーマニア の都市・アラド に路線網を有する路面電車 。2020年現在、アラド市(70 %)およびアラド県(30 %)が株を所有する企業であるアラド公共交通会社 (ルーマニア語版 ) (Compania de Transport Public SA Arad、CTP Arad)による運営が行われている[ 1] [ 6] 。
概要・歴史
市内線
アラド市内における公共交通機関の始まりは、1869年 に開通した馬車鉄道 であった。これらの路線は1910年代まで残存し、電化計画も立ち上がったものの実現することなく1916年 までに廃止され、以降はルーマニア への併合を経てアラド市中心部の公共交通機関は路線バス が主力となった[ 6] [ 7] 。
その後、第二次世界大戦 中に勃発したオデッサの戦い によりルーマニア は一時的にソビエト連邦 (現:ウクライナ )のオデッサ を占領したが、その中で同都市の路面電車(オデッサ市電 )から接収した軌間 1,000 mm の施設および車両を基に、アラド市内に路面電車を再度建設する計画が発案された。この時点では実現しなかったものの、終戦後に本格的な計画が始動し、1946年 11月29日 にアラド市内に路面電車が運行を開始した[ 6] [ 7] [ 3] 。
1970年代までは4系統のみの運行に留まっていたが、1980年代以降は石油を多く消費する路線バス に代わり路面電車網を拡充するルーマニア政府の方針に基づき大規模な延伸が実施され、民主化以降の2000年代にも更なる延伸が行われた他、線路や施設の改修・近代化工事も継続的に進められている。一方、車両については後述するように共産主義時代に導入された各種電車の老朽化が早期に進行したことを受け、1995年 以降ドイツ やオーストリア の中古車両の大量譲受が行われている他、2010年代以降はルーマニア国産の超低床電車 であるインペリオ の導入も実施されている[ 6] [ 7] [ 3] 。
郊外線
アラド市電はアラド市内を走る路線網に加えて、伝統的なガラス工芸で知られるポドゴリア(Podgoria)地域を結ぶ郊外路線を有している。この路線はハンガリー時代の1906年 に開通し、当初はスチームトラム が客車を牽引する非電化路線であったが、効率の悪さから電化が決定し、1913年 に東ヨーロッパ初、世界全体でも8番目となる都市間電気鉄道(インターアーバン )となった。ルーマニアへの併合以降も国営化を経て運行を続けたが、1960年代以降都市の発展の障害となるという理由でアラド市内の区間をはじめとする一部路線が廃止され、1983年 以降はアラド市電の路線網に編入されている[ 4] [ 5] 。
電化開業時に導入されたハンガリー製の大型電車については、アラド市電への編入やルーマニア民主化を経た1991年 まで営業運転に使用された後、1995年 に残存車両の動態復元が実施され、2020年現在も現存する。路線の愛称であった「グリーンアロー(Sagetii Verzi)」は現役時代のこの電車の塗装が由来であったが、復元以降は灰色を基調とした開業当初の塗装に改められている[ 3] [ 10] [ 4] [ 5] 。
郊外線向け車両(1995年撮影)
車内(2017年撮影)
運用
2020年現在、アラド市電で運行されている系統は以下の通り。運賃は距離制に基づいて設定されており、最低運賃は5 km県内までの乗車時の3レイ で、全区間を1日乗車可能な12レイの乗車券や1ヶ月ごとに更新される定額制の乗車券の展開も行われている[ 1] [ 2] [ 11] 。
系統番号
経路
備考・参考
1
Făt Frumos - Podgoria - Plaţa Romană
1b
Zona Industrială - Făt Frumos
3
Făt Frumos - Podgoria - Plaţa Romană - Gara Aradul Nou
6
Plaţa Gai - Podgoria - Plaţa Romană
7
Făt Frumos - Podgoria - Mioriţa - Billa - Podgoria - Făt Frumos
ラケット式環状系統
9
Făt Frumos - Podgoria - Vladimirescu - Combinatul Chimic
10
Piata Romană - Combinatul Chimic
11
Făt Frumos - Podgoria - Sămbăteni - Ghioroc
12
Piata Romană - Podgoria - Sămbăteni - Ghioroc
14
Combinatul Chimic - Ghioroc
15
Făt Frumos - Gara CFR - Sere
15b
Făt Frumos - Gara CFR - Sere - CET
16
Piata Romană - Podgoria - Sere
18b
Făt Frumos - Cpt. Ignat - Piaţa Romană - Podgoria - Maranata - Billa - Renasterii - Miorita - Podgoria - Piata Romană - Cpt. Ignat - Făt Frumos
環状系統
車両
車庫に並ぶアラド市電の電車(2013年撮影)
概要
民主化直後の1990年 の時点で、アラド市電には共産主義時代に導入されたタトラT4R (100両)およびティミス2 (電動車44両、付随車44両)が在籍していた。1990年代初頭、アラド県評議会はルーマニア国内における路面電車近代化のための投資プログラムに基づき、タトラT4Rのうち27両の近代化を実施したが、それ以外の車両は老朽化が進行し運用に就けない状態にあり、特にティミス2は車軸の破損、機器の落下など欠陥が多数露呈する状況となっており、アラド市電では運用本数に対し車両数が不足する状態に陥った。この事態を受け、ドイツ やオーストリア 等ヨーロッパ各地の路面電車事業者はアラド市電の支援のため事業者で使用されていた旧型電車を譲渡する形での支援を表明し、1995年 以降アラド市電には第二次世界大戦後の東西ドイツで使用された多種多様な車両が使用されることとなり、共産主義時代の自社発注車が置き換えられた[ 3] 。
ただし、これらの車両についても継続的な導入は難しく、更に長年の使用による老朽化も進んだことから、2010年代以降アラド市電にはルーマニアの国産超低床電車 であるインペリオ の導入が実施されている。2016年時点では6両の導入に留まっていたが、2019年 には新たに28両の発注が実施された。また、これに加えて既存の譲渡車両についても2025年 までに54両が近代化工事を受け、今後も使用される事になっている[ 3] [ 15] 。
車両形式一覧
1990年 以降のアラド市電に導入された、もしくは導入される予定の営業用車両の形式は以下の通り。そのうち太字 の車両は2020年時点で現役車両が存在する、もしくは2020年以降導入が計画されている形式である。これらに加えて、前述の通り「グリーンアロー」こと郊外線で長年使用されていたハンガリー製の車両(電動車 、付随車 )が動態保存運転用に在籍する[ 3] [ 15] [ 10] 。
ギャラリー
B4 (2017年撮影)
T4D (2017年撮影)
GT4 (2003年撮影)
GT6 (2009年撮影)
GT6ZR (2017年撮影)
GT8 (2013年撮影)
M8S (2013年撮影)
インペリオ (2017年撮影)
ティミス2(2006年撮影)
郊外線向け動態保存車両(2017年撮影)
脚注
注釈
出典
^ a b c d e f “ARAD ”. UrbanRail.Net. 2020年12月4日 閲覧。
^ a b “PROGRAM TRAMVAIE PE LINII ”. CTP Arad. 2020年12月4日 閲覧。
^ a b c d e f g “Romania's tramway revival – part 2 ”. LRTA (2016年4月11日). 2020年12月4日 閲覧。
^ a b c “Istoria "Sagetii Verzi " ”. Salvati Sageata Verde. 2007年9月15日時点のオリジナル よりアーカイブ。2020年12月4日 閲覧。
^ a b c Untaru Claudia (2017年2月4日). “Săgeata Verde: povestea primului tren electric din România ”. Adevărul. 2020年12月4日 閲覧。
^ a b c d e “Istoricul companiei ”. CTP Arad (2010年9月21日). 2020年12月4日 閲覧。
^ a b c Andreas Günther; Sergej Tarkhov; Christian Blank (2004-2-16). Straßenbahnatlas Rumänien 2004 . Blickpunkt Straßenbahn (1., Edition ed.). Arbeitsgemeinsch. pp. 14. ISBN 978-3926524232
^ a b “Vehicle Statistics Arad, Tramway ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
^ “Tarife servicii ”. CTP Arad (2011年10月31日). 2020年12月4日 閲覧。
^ a b “Astra Vagoane Calatori wins tram contract in Arad ”. RailwayPro (2019年6月4日). 2020年12月4日 閲覧。
^ “Arad, car # 230 ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
^ a b “Roster Arad, Duewag B4 ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
^ a b “Roster Arad, Esslingen GT4 ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
^ “Roster Arad, Duewag GT6 ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
^ “Roster Arad, Lohner GT6 ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
^ “Arad, car # 1054 ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
^ “Roster Arad, Duewag GT6ZR ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
^ “Roster Arad, Duewag GT8 ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
^ “Roster Arad, Duewag M8S ”. Urban Electric Transit. 2020年12月4日 閲覧。
参考資料
外部リンク
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