『アラサー・アズール』(Araçá Azul)は、ブラジル人ミュージシャン、カエターノ・ヴェローゾが1973年[注釈 1]に発表した、ソロ名義では5作目のスタジオ・アルバム。ヴェローゾの作品の中でも、特に実験的なアルバムとして位置付けられている[2][3]。
背景
アルバム・タイトルは「青いアラサー(グアバの近縁種の植物)」を意味し、本来アラサーの実は青くならないが[2]、本作の裏ジャケットには青く着色されたアラサーの実の写真が使用されている。タイトル曲の歌詞では、「アラサー・アズール」は「秘密の夢」、そして「玩具」と表現されている[2][4]。
「ヴィオーラ、メウ・ベン」と「シュガー・ケーン・フィールズ・フォーエヴァー」にゲスト参加したエヂッチ・オリヴェイラは、本作のリリースから29年後の2002年にDona Edith do Prato名義でレコード・デビューを果たすまで、アマチュアとしての活動を続けてきたサンバの音楽家である[5]。「シュガー・ケーン・フィールズ・フォーエヴァー」は、ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」にインスパイアされた曲で、サンバ、オーケストラによる不協和音、ボサノヴァ、ロック等の要素がコラージュされている[2]。
「ヂ・カーラ/エウ・ケーロ・エッサ・ムリェール」は、『ホワイト・アルバム』(1969年)でギター・パートをオーバー・ダビングしたラニー・ゴーディンと、前スタジオ・アルバム『トランザ』にも参加したリズム・セクションによるバンドの演奏がフィーチャーされた[5]。「ジュリア/モレーノ」は、自分の子供に付ける名前の候補が織り込まれた歌で[5]、本作リリース前の1972年11月22日には長男モレーノ・ヴェローゾ(英語版)が誕生した[1]。なお、ヴェローゾは1979年1月に生まれた娘をジュリアと名付けるが、彼女は生後数日で死亡した[1]。
2012年発売の日本盤SHM-CDにはボーナス・トラックが2曲追加され、そのうち「カダ・マカッコ・ノ・セウ・ガーリョ」は1972年5月にジルベルト・ジルとのデュエット・シングルとしてリリースされた曲で[1]、ヴェローゾとジルのコラボレーション・アルバム『トロピカリア2』(1993年)でも再録音された。
評価・影響
リリース当時は多くのファンから拒絶され、ブラジルの音楽史上、最も返品の多いレコードになったといわれる[2]。Philip Jandovskýはオールミュージックにおいて5点満点中3点を付け「彼が以前に残した録音とは殆ど類似性がない」「その実験精神とサウンド・エフェクトにかかわらず、友達が遊びに来ている時にかけるのには向いていないだろうが、実験音楽のファンや、そういう気分になっている人にとっては、とても良いレコードである」と評している[3]。
タイトル曲は、デーモン&ナオミ(英語版)のアルバム『ジ・アース・イズ・ブルー』(2005年)でカヴァーされた[6]。
収録曲
特記なき楽曲はカエターノ・ヴェローゾ作。
- ヴィオーラ、メウ・ベン(愛しのヴィオラ) - "Viola, Meu Bem" (Traditional) - 0:54
- ヂ・コンヴェルサ(会話)/クラーヴォ・イ・カネーラ(クローブとシナモン) - "De Conversa / Cravo e Canela" (Caetano Veloso / Milton Nascimento, Ronaldo Bastos) - 5:42
- トゥ・メ・アコストゥンブラステ - "Tu Me Acostumbraste" (Frank Domínguez) - 2:58
- ジルベルト・ミステリオーゾ(謎のジルベルト) - "Gilberto Misterioso" (C. Veloso, Sousândrade) - 4:50
- ヂ・パラーヴラ・エン・パラーヴラ(言葉から言葉へ) - "De Palavra em Palavra" - 1:21
- ヂ・カーラ/エウ・ケーロ・エッサ・ムリェール - "De Cara" (C. Veloso, Lanny Gordin / Monsueto Menezes, José Batista) - 4:15
- シュガー・ケーン・フィールズ・フォーエヴァー - "Sugar Cane Fields Forever" - 10:10
- ジュリア/モレーノ - "Julia / Moreno" - 3:17
- エーピコ(英雄詩) - "Épico" - 4:04
- アラサー・アズール(青い果実) - "Araçá Azul" - 1:20
日本盤SHM-CDボーナス・トラック
- カダ・マカッコ・ノ・セウ・ガーリョ - "Cada Macaco no Seu Galho" (Riachão) - 4:23
- ヂアス、ヂアス、ヂアス/ヴォルタ - "Dias,Dias,Dias / Volta" (Augusto de Campos, C. Veloso, Lupicínio Rodrigues) - 5:06
脚注
注釈
- ^ ブラジル初回盤LP (Philips 6349.054)のレーベルには「℗1973」と明記されている。ただし、ダン クリストファー『トロピカーリア ブラジル音楽を変革した文化的ムーヴメント』国安真奈訳 音楽之友社 p.324 ISBN 4-276-23683-5、カルロス・カラード『トロピカリア』前田和子訳 アルテスパブリッシング p.304、AllMusicなど「1972年発表」とする資料もある。
出典
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スタジオ・アルバム | |
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ライヴ・アルバム |
- Ao Vivo (with ムタンチス)
- バーハ69 (with ジルベルト・ジル)
- Caetano e Chico - Juntos ao Vivo (with シコ・ブアルキ)
- Temporada de Verão - ao vivo na Bahia (with ガル・コスタ、ジルベルト・ジル)
- Doces Bárbaros (with ガル・コスタ、ジルベルト・ジル、マリア・ベターニア)
- Bicho Baile Show (with バンダ・ブラック・リオ)
- Maria Bethânia e Caetano Veloso ao Vivo (with マリア・ベターニア)
- トータルメンチ・ヂマイス
- Circuladô Vivo
- "粋な男"ライヴ〜カエターノ・ヴェローゾ・ライヴ・イン・リオ
- プレンダ・ミーニャ
- フェリーニへのオマージュ
- ノイチス・ド・ノルチ・ライヴ
- カント・ライヴ
- セー・ライヴ
- E a Música de Tom Jobim (with ロベルト・カルロス)
- MTV Ao Vivo – Caetano – Zii e Zie
- カエターノ・ヴェローゾ&マリア・ガドゥ
- Live at Carnegie Hall (with デヴィッド・バーン)
- アブラサッソ・ライヴ
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サウンドトラック | |
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コンピレーション・アルバム | |
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関連項目 | |
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