よるのばけもの
住野よるの3作目の小説である。自身へのインタビューで、100人の僕の作品が好きな人がいるとして、70人は『君の膵臓をたべたい』が好きといって、27人が『また、同じ夢を見ていた』が好きといって、3人が今作を好きといってくれるような感じの作品であると答えている[1]。 あらすじ主人公・安達は、いつからか夜になると8つ目があり、6つ足、4つの尾があるバケモノに変身してしまうようになった。バケモノになると夜寝る必要がなく、夜海へ行ったり、観光地へ行ったりして過ごしていた。ある夜、学校に数学の宿題を忘れたことに気づいた安達は、バケモノの姿で学校に忍び込み、宿題を取りに行く。プリントを取って、帰ろうとしたとき、教室から「なにしてんの?」という声が聞こえる。それはクラスメイトの矢野さつきであり、自分が安達であるということもバレてしまう。彼女は「夜休み」をしていたという。日常の彼女は、空気を読めず、声が無駄に大きく、しゃべり方が独特なためもともと鬱陶しがられていた上に、"雨の日に突然、クラスメイトの緑川双葉の本を校庭に投げ捨て、泣く緑川の前でにんまり笑っていた"という出来事を境にクラスから決定的なイジメの対象になっていた。 高校受験を控えたクラスには全体的に小賢しさがあり、直接的な暴力はほぼなかったが、矢野はいつもゴム銃で撃たれたり、椅子や机を汚されていたり、カエルの死骸を靴箱に入れられたりしていた。それでも矢野は毎日、教室に入る時、友達と会う時、ニタニタと笑いながら大きな声でおはようと挨拶をするのが日々の姿である。ある日、矢野が落とした消しゴムを反射的に拾ってしまったことにより、「矢野の手助けをした」ということからクラスメイトの井口が無視の対象となる。夜休みの最中に僕からその話を聞いた矢野は「良い子が傷つくのはやだね」と言い、次の日学校で井口の前に行き井口の頬をビンタする。その行動により矢野はさらなるイジメを受け、一方で井口は同情という仲間意識から無視を解かれる。安達は、矢野のいじめられても にんまりと笑って常に楽しそうに過ごしている姿から、彼女のことをそれまで自分たちの想像もつかない思考回路で動く、おかしな人間だと思っていた。ところが今回の一件は井口を守るために矢野が“身代わり”となったことが分かると、本当は一生懸命に生きているのではないかと考え始め、彼女に好奇心のような感情が芽生え始める。 その後、学校に怪物が出るという噂が流れ、クラスメイトの元田達が捕まえに行くという。安達は矢野の「夜休み」という安寧の時間がなくなることを危惧し、元田達を脅かし二度と来ないようにしようと考える。矢野は掃除道具箱の中に隠れていたが元田達に見つかりそうになり、安達は咄嗟に掃除道具箱ごと飲み込む。そして元田達を怖がらせて帰すことに成功する。元田達が帰った後、掃除道具箱を吐き出すと「見つかると思った」とにんまり笑ってぴょんぴょん跳ねる矢野がいた。 安達は「矢野さんってやっぱり変だよね」と話しかける。教室にいた時も今も「怖い」と言いながらそんな風に笑っているのはやっぱりおかしい、と。 矢野は「怖いと無理にわらっちゃうの。癖なのかなあ いつもなんだよ」と答える。井口をビンタした時ににんまり笑っていたのも、朝にんまり笑いながら教室に入ってくるのも実は矢野にとっては恐怖の表情であったことを安達は初めて知り、「夜休み」から距離を置こうと決める。 ある朝、足元に何か飛んできた。白く膨らんだ紙袋には「矢野さつき」と名前が書いてあった。名前が判明した瞬間井口のことが思い浮かび安達は紙袋を踏んでしまう。その瞬間魔法が解けたように教室の時間が動き出す。安達はクラスの一員として正しい行動をとれたと胸をなでおろす。一方で、教室の隅で「割れてる」とつぶやく矢野の声が聞こえた。 その日の夜、安達は怪物の姿で、昼の件を矢野に詫びに行く。矢野は安達に対して「昼と夜、どちらが本当の姿なのか?」と問う。そして自分は昼も夜もなくいつも同じだと話す。 次の朝いつものようににんまりと笑って矢野が教室の前方からおはようと言って入ってきた。いつもの朝のようにみんなが無視する。無視されることをわかっている相手に挨拶をする矢野が頭がおかしいわけではなく、本当は恐いのだと知っているのは僕だけだと安達は思う。何に対して怖がっているのだろうか、いろいろ考えた挙句、単純に「今日もまた無視をされること」を怖がっているのではないかと思う。と考えた結果、震える声で拶してきた矢野に安達は、夜の 矢野を無視できない“僕” も、昼の クラスメイトから嫌われたくない“俺” のどちらかを選ぶことはできず、矢野を助けることもできないが、言葉を受け止めて返すくらいはしようと決意し、矢野の挨拶に「おはよう」と返した。 登場人物
オーディオブック2018年11月、オトバンクのオーディオブック配信サービスの「audiobook.jp」でオーディオブック版が配信された。収録時間は約7時間43分[2]。
脚注
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