『落窪物語』(おちくぼものがたり)は、10世紀末頃に成立したとされる中古日本の物語である。全4巻。作者は不明[1]。源順、源相方などが候補に挙がっており、巻四は清少納言が書き加えたとする説まであるが、いずれも確定に至っていない[注 1]。
概要
題名の「落窪」は、主人公の薄倖な女君が置かれた居室の名前に由来する。美しい容貌を持つ主人公の落窪の女君が、その名の通り寝殿の隅にある、畳の落ち窪んだ陋屋(ろうおく)に住まわされ、継母からのいじめにあうが、結末は右近の少将に見初められ結ばれるという、シンデレラとも似通った構図を持つ継子いじめ譚。
『落窪物語』は『源氏物語』に先立つ中古の物語で『枕草子』にも言及がある。恩讐のけじめをはっきりさせているやや単純な筋ながらも、継子いじめの筋を軸に、当時の貴族社会を写実的に描写した物語として評価されている。
内容
主人公は中納言源忠頼の娘(落窪の姫)である。母と死別した落窪の姫は継母のもとで暮らすことになったが、継母からは冷遇を受けて落窪の間に住まわされ不幸な境遇にあり、味方は女房のあこきと末弟の三郎君だけであった。そこに現われた貴公子、右近の少将道頼に見出され、姫君に懸想した道頼は彼女のもとに通うようになった。しかしそれを知った継母に納戸に幽閉され、さらには貧しい典薬の助の元へ嫁がされそうになるが、そこを道頼とあこき達に救出され、二人は結ばれる。道頼は姫君をいじめた継母に復讐を果たし、中納言一家は道頼の庇護を得て幸福な生活を送るようになった。
登場人物
- 落窪の姫
- ヒロイン。王家筋の女を母に持つため、出自は継母や異母姉妹達より遥かに高いが、彼女達からは下女同然の扱いを受けていた。長年、針子として家族の着物や小物類を縫わされ続けていたため裁縫と、亡き母から習った琴が非常に得意。
- 中納言(源忠頼)
- 落窪の父。北の方の言いなりになって、落窪を自分の娘として扱ったり庇ったりすることも無かった。
- 北の方
- 落窪の継母。4人の娘を持つ。落窪を虐待し、四の君を右近の少将に嫁がせようとするが、右近の少将によって四の君は兵部の少輔と結婚させられるなど、理由も分からないまま右近の少将から様々な嫌がらせを受ける。
- 三の君
- 蔵人の少将の妻だったが、妻としての自覚がないため、愛想を尽かされてしまう。
- 四の君
- 中納言と北の方の間に生まれた末娘で、北の方は右近の少将と結婚させようとするが、右近の少将の策略によって兵部の少輔と結婚させられる。後に右近の少将の計らいで大宰大弐と再婚する。
- 三郎君
- 北の方の実子だが、異母姉である落窪の姫を慕っている。姫君が納戸に閉じ込められた時は、右近の少将とあこきと共に救出に乗り出す。
- あこき(阿漕とも表記)と帯刀(惟成)
- 落窪の姫に仕える女房とその夫。元々は姫君の母親に仕えていたのだが、没後は姫君とともに北の方の屋敷にやって来る。夫の帯刀を介して姫君と右近の少将の仲を取り持つなど、彼女を通して当時の貴族の縁談の一端が生き生きと描かれている。
- 蔵人の少将
- 三の君の婿であったが妻の自覚が無い三の君に愛想を尽かし、後に右近の少将の妹(中の君)と結婚。
- 右近の少将(道頼)
- 帯刀の乳兄弟で、落窪の姫の夫。後に三位の中将、中納言兼衛門督、大納言兼左大将、左大臣、太政大臣と昇進。落窪の姫以外に妻も恋人も持たず、彼女だけを一生愛し続け沢山の子供に恵まれた[注 2]。実在の藤原道頼がモデルとされる。
- 左大将
- 右近の少将の父。後に右大臣に昇進。
- 帯刀の母
- 右近の少将の乳母。落窪が実家で虐待されていたことを理由に右近の少将を別の女性と縁談させようとするが、帯刀の説得によって断念する。
- 典薬の助
- 中納言家の居候。中納言の北の方の叔父。落窪の姫と結婚しようとする。
- 兵部の少輔
- 右近の少将の母方の親戚である治部卿()の息子。馬面で性格も変わっているため、人々から「面白の駒」と馬鹿にされている。右近の少将の策略で四の君と結婚し、後に出家する。
刊本
関連作品
脚注
注釈
- ^ 岩波文庫版(2014年)は「解説」で女性作者説(「老練の作り手か」)を採る。
- ^ 一夫多妻制の当時としては珍しいことである。
- ^ 当初は藤子・F・不二雄が担当する予定であったが、執筆前の1996年に亡くなったため果たされなかった。
出典
参考文献
関連文献
関連項目
外部リンク