VFTS 102 は、銀河系 の伴銀河 である大マゼラン雲 内の星形成領域 、タランチュラ星雲 の中にある恒星 である。この恒星は、自転 速度が非常に速いことで知られる[ 4] 。
名称
タランチュラ星雲 のVFTS 102の位置。出典: ESO / /M.-R. Cioni / VISTA Magellanic Cloud survey[ 1] 。
VFTS 102の名称は、VLT (チリ ・パラナル天文台 )を使ったヨーロッパ南天天文台 の大規模掃天観測 V LT-F lames T arantula S urvey によって観測されたことに由来する。この掃天観測で得られた星表の102番であることから、VFTS 102と呼ばれる[ 2] 。
特徴
VFTS 102の最大の特徴は、自転速度の速さにあり、恒星の赤道 における自転速度の視線方向成分は、秒速およそ610km(時速およそ220万km)にも達するとされ、既知の恒星の中で最も速いとみられている[ 5] [ 7] 。結果として生じる強い遠心力 によって、恒星は平たくなり、扁平な形をしていると予想される[ 1] 。また、赤道付近には高温のプラズマでできた星周円盤 が派生しているとも考えられ、実際に分光観測 の結果では、恒星の周りに星雲 状の構造がある証拠とみられるヘリウム 原子 の輝線が検出されている[ 1] [ 4] 。VFTS 102のスペクトル型 は、これらの特性が反映され、O9: Vnnne型となっている。このスペクトル型は、有効温度 の誤差が大きいためO9は不確か(:)で、高速自転によりスペクトル 線が非常に大きく広がっており(nnn)、輝線が検出された(e)ことを表している[ 4] 。
VFTS 102は、タランチュラ星雲内の他の恒星と比較すると、視線速度 が大体40km/sくらい異なっており、逃走星であると考えられている[ 4] 。
高速自転の原因
VFTS 102の自転がこれ程高速になった原因としては、主に2つの仮説が唱えられている。一つは、質量移動 によるもの、もう一つは、天体の衝突によるものである[ 7] 。
近接連星 ・接触連星では、恒星間で質量移動が起きると、質量が降着した恒星はその角運動量 を受け取り、自転が加速することが、以前から理論的に予測されていた[ 8] 。VFTS 102の高速自転を明らかにしたVFTSチームのメンバーは、この筋書きを支持し、質量移動で自転が加速した後、相手の星がIb・Ic型超新星 となって爆発したことで、VFTS 102が逃走星になったと提唱している[ 9] [ 4] 。そして、VFTS 102の近くにX線パルサー PSR J0537-6910が存在し、パルサー から伸びる淡いX線 放射の中にVFTS 102があることから、PSR J0537-6910の前駆天体が、VFTS 102と連星を構成していたのではないかとしている[ 4] 。
一方、連星が衝突、合体する際に、自転速度が3倍から10倍速くなる場合があると、理論的に予測されていることから、VFTS 102の自転速度は衝突でも説明できる、とする説もある[ 10] [ 11] 。
他にも、形成時から高速で自転していたとする説や、主系列星 へ進化する段階で核 の角運動量が恒星表面へと輸送されて高速化したとする説もある[ 7] 。
脚注
注釈
^ 出典での表記は、
log
g
[
cgs
]
=
3.6
±
0.5
{\displaystyle \log g[{\mbox{cgs}}]=3.6\pm 0.5}
出典
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関連項目
外部リンク
座標 : 05h 37m 39.2305260100s , −69° 09′ 51.024963212″