2018 FIFAワールドカップ 韓国対ドイツ
2018 FIFAワールドカップ韓国VSドイツは、2018年6月27日、ロシア連邦カザン市のカザン・アリーナで行われた2018 FIFAワールドカップのグループF第3戦である[2]。 この試合で韓国が2-0でドイツに勝利した[2]ことにより、ドイツはFIFAワールドカップの歴史上で初めて決勝トーナメント(ベスト16)へ進出できずにグループリーグ(ベスト32)で敗退した[3]。 この結果は韓国では「カザンの奇跡」と称賛され[4]、ドイツでは「カザンの恥辱」と酷評された[5]。 なお、本記事における「韓国」とは大韓民国の通称であり、「ドイツ」はドイツ連邦共和国の通称である。 背景過去の韓国対ドイツ1994 FIFAワールドカップ・グループCの第3戦が初対戦であり、この試合はドイツが3-2で勝利したことでドイツは決勝トーナメントへ進出し、韓国はグループリーグで敗退した[6]。 2002 FIFAワールドカップの準決勝で2回目のマッチアップとなり、この試合でもドイツが1-0で勝利したことでドイツが決勝へ進出した[7]。韓国は同国の最高順位を更新中であったが、ベスト4で阻まれた。 2004年に初めて親善試合を行い、韓国が3-1で勝利している[8]。 両国の対戦は2004年以来、14年ぶりとなった。 世界1位の優勝候補ドイツドイツは前大会の2014 FIFAワールドカップの優勝国であり、FIFAランキングは世界1位であった。 同国は初出場した1934 FIFAワールドカップ以降、2018年以前までに出場した18大会連続で常にベスト16以上の成績を残していた。さらに、第二次世界大戦による中断を挟んだ1954 FIFAワールドカップ以降では、常にベスト8(準々決勝進出)以上の成績であった[9](1954年から1990年までは西ドイツとしての記録)。 同チームには様々な外国にルーツを持つ選手や様々な宗教的背景を持つ選手が所属し、多様性ある社会を作る上での模範例とされてきた[10]。 本大会の欧州予選では全チーム最多の43得点をあげて失点はわずかに4であり、圧巻の10戦全勝を飾った。ドイツは優勝候補の筆頭と目されていた[11]。 世界57位の韓国一方、韓国は前大会でグループリーグ敗退(ベスト32)止まりであり、FIFAランキングは世界57位であった[12][13]。 同国は1954 FIFAワールドカップに初出場し、以後2018年までに10大会に出場した。うち6大会ではアジア予選で敗退して本戦へ進めず、本戦出場した9大会のうち7大会はグループリーグで敗退していた。1986年大会からは8回連続で本戦出場していたものの、過去最高の順位は同国と日本で共同開催された2002年大会のベスト4であり、同大会ではドイツに敗れて決勝進出を阻まれた。次点は2010年大会のベスト16であり、ウルグアイに敗れた[14]。 本大会のアジア予選においては、同国は2次予選を7戦7勝と順調に首位通過し[15]、最終予選を11戦4勝3分け3敗と辛くも2位通過し[16]、ワールドカップ本戦へ出場した。 ドイツ代表内の亀裂しかし、大会前にトルコ系ドイツ人のメスト・エジルとイルカイ・ギュンドアンが、トルコ大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンと面会して一緒に写真を撮影していたことが物議を醸した。エルドアンは言論弾圧や人権侵害を続ける独裁者だとして、ドイツを含む欧州で強く批判されていた[17][18]。 ドイツの高級新聞ターゲスシュピーゲル紙はエジルとギュンドアンを批判し、同紙のアンケート調査では回答者の70%以上が「彼らを代表チームに招集するべきでない」と答えるなど、団結に亀裂が入ったまま大会を迎えた[10]。 試合前の状況韓国の状況韓国はスウェーデンとの第1戦では枠内シュート数0と抑えこまれ、後半20分にアンドレアス・グランクヴィストのPKにより失点し、0-1で敗れた[19]。 第2戦ではメキシコと対戦した。チャン・ヒョンス(張賢秀)の失策もあって前半26分にカルロス・ベラのPKにより失点し、後半21分にハビエル・エルナンデスに決められて2点ビハインドとなり、後半45+3分の終了間際にソン・フンミンが得点して一矢報いたたものの1-2で敗れた[20]。 韓国は2連敗を喫し、グループ内では暫定最下位に沈んでいた。しかし、同グループは複雑な混戦状態であり、残る第3試合の結果次第では韓国にも決勝トーナメント(ベスト16)進出の望みは残されていた(詳細は後述)。 ドイツの状況前回王者・ドイツは、前年のFIFAコンフェデレーションズカップ2017のメキシコ戦で4-1と圧勝したため、初戦でも難なく勝利すると考えられていた。ところが前半35分でメキシコのカウンターからイルビング・ロサノに決勝ゴールを許し、その後は得点のないまま0-1で敗れた[21]。メキシコ監督のフアン・カルロス・オソリオは対ドイツ戦のために6ヶ月間かけて戦略を構想しており、それが機能した格好となった[22]。 続いてスウェーデンとの第2戦では後半37分にDFジェローム・ボアテングが退場となり、さらには前半32分にオラ・トイヴォネンに先制点を献上してリードされるも、後半3分にマルコ・ロイスのゴールで同点に追いつき、後半45+5分の終了間際にトニ・クロースの逆転ゴールで2-1で勝利した[23]。 ドイツは1勝1敗によってスウェーデンと並び、暫定第2位に浮上した。ベスト16への進出には、確実とはいえないものの充分な可能性があった(詳細は後述)。 リーグ各国の状況この時点でグループリーグ各国は全3戦中2戦を終えていた。 メキシコが2勝0敗で勝ち点6、得失点差+2と暫定首位であり、ドイツとスウェーデンがそれぞれ1勝1敗で勝ち点3と得失点差0でともに並び、総得点の基準によって暫定的に2位はドイツ、3位はスウェーデンとなっていた。韓国は0勝2敗で勝ち点0と暫定最下位であった。 それぞれが残す第3試合の結果により、グループリーグを首位または第2位として通過し、決勝トーナメントへ進出できるかどうかが決まる。本リーグは混戦の様相を呈しており、各国が進出できるための条件は、それぞれ同時刻に行われる別会場での第3国同士の試合結果によって複雑に異なっていた。 暫定首位のメキシコも敗北すれば敗退の可能性が残されており、暫定2位と3位のドイツとスウェーデンは確実な進出のためには自力での勝利が必要となった。また最下位の韓国にも自力で勝利しつつ他の試合の結果によっては進出の可能性が残されていた。 決勝トーナメント進出のために各国が達成すべき大まかな条件は以下の通りであった。
韓国対ドイツの試合予測ドイツが前大会の王者である(韓国は前大会ベスト32)ことや、FIFAランキング世界1位(韓国は57位)である[13]ことを考えれば、ドイツの優勢は明らかであった。 試合直前、韓国の大手メディアの中央日報は「(韓国は)2−0の勝利よりも0−7で敗れる可能性が高い」と悲観的に論じており、同じく朝鮮日報は「(韓国代表は)守備のミスを減らすべき。このままでは4年後の見通しも明るくない」と批判的であった[24]。同じくYTNテレビは「海外の賭け屋はいずれもドイツの勝利を楽観している」と報じていた[25]。 韓国の国民からはスウェーデン、メキシコに連敗を喫したすえに優勝候補のドイツ戦を迎えることに諦観する雰囲気があったが、監督のシン・テヨン(申台龍)は「1%の希望も捨てず、最後まで逆転のチャンスを作る」と決意を表明していた[26]。 試合直前から韓国各地ではパブリック・ビューイング会場が設置され、首都ソウルの中心部にある「光化門広場」では韓国代表ユニフォームと同じ赤いシャツを着た約5千人のサポーターが大声援を送りながら観戦した[25]。 一方、これまでFIFAワールドカップでは2大会連続で前回大会の覇者がグループリーグで敗退しており(2006年に優勝したイタリアは2010年に、また2010年に優勝したスペインは2014年にグループリーグで敗退した。また1998年優勝のフランスも2002年にグループリーグで敗退した)、一種のジンクスとなっている[9]ことが不安視されていた[27]。また、ドイツの低調な戦いぶり、特に決定力不足が指摘され、一部ではドイツの敗退を予測する向きもあった[要出典]。 試合出場選手韓国は前試合から4人を変更した。中盤に本職センターバック(CB)のチャン・ヒョンスが入ってチョン・ウヨンと組み、CBにはユン・ヨンソン、センターフォワード(CF)に本職中盤のク・ジャチョルが入るなど、守備重視の布陣を組み、左サイドバック(SB)にはホン・チョルが入った。 一方ドイツはベスト16進出を見据えて前試合から5人を変更した。CBはマッツ・フンメルスとニクラス・ジューレのバイエルン勢が組み、アンカーは負傷したセバスティアン・ルディに代えサミ・ケディラ、右サイドはトーマス・ミュラーに休養を与えレオン・ゴレツカ、トップ下はメスト・エジルが入った。 前半序盤からドイツがボールを回して押し込んだ。ヨナス・ヘクター、ヨシュア・キミッヒの両SBも積極的に攻撃に参加し、事実上フンメルスとジューレを除く残りのすべての選手が攻撃に加わったが、守備を徹底しカウンターの機会を伺う韓国は攻撃を水際で食い止め続け、シュートは打たせなかった。韓国は激しい守備を行い、8分にチョン・ウヨンがヘクターへのタックルで警告を受けた。 19分、ここまで守備で粘っていた韓国だが、ゴール手前30m、中央右寄りの地点からのフリーキック(FK)を獲得した。これをチョン・ウヨンが直接狙う鋭いシュートを打ち、ドイツのゴールキーパー(GK)マヌエル・ノイアーが一度はキャッチしたものの落としてしまった(ファンブル)。これをソン・フンミンが詰めるが、ノイアーがなんとかクリアして凌いだ。 その後もドイツが攻め込み続けるが、ファイナルサードで精度を欠きシュートを打てない時間が続いた。韓国もソンを中心に速攻でチャンスを作って対抗した。前半終了間際にはイ・ヨンのクロスが中央の競り合いでこぼれたところをソンがボレーで狙うが、枠の左上に逸れた。 前半終了前半は両者ともに得点できず、0-0で終了した。ドイツはボール支配率75.4%・デュエル勝率64.9%と圧倒するが、肝心のシュート回数は6本、枠内の方向へのシュートに至っては2本にとどまり、得点の気配がなかった。 また同時刻開催のメキシコvsスウェーデンも同じく0-0で折り返した。この時点ではドイツが暫定2位、スウェーデン暫定3位、韓国は暫定4位であった。 後半両者ともハーフタイムの交代は無し。 後半もドイツが押し込む展開となる。すると48分にキミッヒのクロスに中央で完全フリーのゴレツカが頭で合わせ、ショットが枠の右へと飛んだが、韓国GKチョ・ヒョヌが右手一本でファインセーブ(見事な阻止)を決めた。 51分にはエジルとマルコ・ロイスのコンビネーションで左サイドを突破し、クロスにティモ・ヴェルナーがボレーで合わせるが、これは枠の右に逸れた。 56分、韓国はク・ジャチョルが負傷しファン・ヒチャンとの交代を余儀なくされた。 スウェーデンの先制ここで他会場のスウェーデン対メキシコでは50分、スウェーデンがルドビク・アウグスティンソンのゴールで先制した[2]。 この時点でドイツは暫定3位に転落し、両試合の得点がこのままの場合には敗退するという状況へ陥った。この情報が入ると、得点を挙げるしかなくなったドイツは58分にマリオ・ゴメス、63分にはミュラーも投入し猛攻を仕掛けた。 一方、スウェーデンはさらに66分にグランクヴィストのPK、72分にメキシコ側のオウンゴールで3-0と点差を広げ、勝利をほぼ手中に収めた[2]。 勝利が必要となるドイツもし暫定3位であったスウェーデンが勝利すると、暫定2位であったドイツは少なくとも韓国に勝たなければならなくなる。ただし、スウェーデンとメキシコとの得点差が3-0と大差であることから、この点差のまま試合終了するならば先刻まで暫定首位であったメキシコの得失点差が-1と大きく下がる。 このようにスウェーデンが勝利する前提ならばできるだけ大差で勝つことがドイツにはかえって有利に働き、このままであればドイツは韓国に1点差でも勝てば決勝トーナメントへ進出できることとなる。一方、韓国はもしドイツへ勝利しても敗退が確実となる。 これにより絶対に1点が必要となるドイツは、ユリアン・ブラントを投入してさらに攻勢に出る。だが、シュートは打つものの枠を大きく外したりブロックされたりが続き、さらにカウンターによりピンチとなる場面も散見された。 終盤にはフンメルスも前線に上げパワープレーに出るが、88分には右サイドからエジルのクロスにフンメルスがフリーで飛び込むもののシュートは枠の左へ外れた。89分にはクロースがエリア手前から右足で狙うがこれもチョ・ヒョヌが好セーブと、なかなか韓国の牙城を崩せなかった。 アディショナルタイムの初得点後半戦90分を終えても両者無得点のままであった。 しかし、アディショナルタイムの93分、韓国の左コーナーキックから、混戦の末にゴール目の前にいたキム・ヨングォンが左足でゴールへ蹴り込んだ。これを主審のマーク・ガイガーが一度はオフサイドと判定し、得点は認められなかった。だが、今大会から導入されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)[28]による判断の結果、オフサイド判定は取り消されて改めてゴールが認められた[29][30]。 これによって韓国はこの試合終了まで残り数分という時間に貴重な初得点をあげ、1-0と先制に成功した。 ドイツは非常に厳しい状況へ陥った。VAR介入のため追加タイムは9分に延びたとはいえ、ドイツは残り6分で少なくとも2得点しなければグループリーグ敗退が確定する状態へ追い込まれた。再開と同時にドイツが攻撃を仕掛けるも、95分のフンメルスのヘディングシュートも枠を捉えられなかった。 終了間際の追加点後がなくなったドイツはゴールキーパーのマヌエル・ノイアーまでもがゴール守備を放棄して攻撃に参加し[30]、11人全員で得点を狙った。 しかし、中盤でボールを受けたノイアーが、途中出場の韓国チュ・セジョンにボールを奪われた。韓国はすぐさまカウンターとして前線にボールを送り、反応したソン・フンミンが追いついた。ソンは左足で冷静にゴールへ流し込んで韓国が追加点を決め、2-0とリードを広げた。 時間は後半96分[2]、ドイツにとって絶望的な2失点目であった。 試合終了その後も攻撃を続けたドイツだが、最後までシュートは枠に飛ばず、試合終了となった。 韓国が2-0でドイツに勝利し、2002年の雪辱を果たした。FIFAワールドカップでの対ドイツ勝利は初めてであった。 ドイツは試合全体を通してボール支配率74%、デュエル勝率62.4%、空中戦勝利65.4%、コーナーキック9(韓国3)[2]と大勢では韓国を圧倒しており、後半だけで22本、計28本のシュートを放った。しかし枠内の方向へ飛んだシュートはわずかに6本と、課題とされた決定力不足が最後まで重くのしかかった。 この結果により、韓国はグループリーグ第3位へと浮上したものの決勝トーナメントへは進出できず敗退した。一方のドイツはグループリーグ最下位へと転落し、史上初のグループリーグ敗退となった。 反響メキシコの歓喜首位からの敗退の危機メキシコは第2試合までを連勝してグループリーグ暫定首位であり、決勝トーナメントへの進出が濃厚であった。 しかし、本試合の同刻にエカテリンブルク市で行われていた第3試合でメキシコはスウェーデンに先制され、さらに0−3と大差をつけられたことで、にわかに敗退の可能性が浮揚していた。このままメキシコがスウェーデンに敗れ、さらに他会場で韓国がドイツに敗れた場合には、メキシコはグループリーグ第3位に転落して敗退することとなる。 メキシコの命運を握った韓国一方、韓国がドイツに勝利もしくは引き分けに終わればメキシコはグループリーグ第2位として決勝トーナメントへの進出が決まる。同時点で韓国対ドイツは依然0−0の同点であり、その可能性は充分にあった。そのため、メキシコのサポーターたちは同刻に行われていた本試合(韓国対ドイツ)に注目し、韓国を応援した[31]。 本試合では前述のように後半戦の終了間際となるアディショナルタイムに韓国が先制し、さらに追加点を決めてドイツに勝利した。この瞬間、メキシコは決勝トーナメント進出が確定した。 「ありがとう、韓国」その劇的な結末を見て、同国の首都メキシコシティに集まったサポーターたちは「韓国!韓国!」と歓喜をあげて飛び跳ね、抱擁を交わした[31]。サポーターの一部は同市にある韓国大使館に押し寄せた。ある同市の22歳の学生は、韓国を「われらの兄弟」と称賛し、テキーラで祝うとともに「泣いていたのに笑顔に変わった」「ありがとう、韓国。韓国がどこにあるのかも知らないけど、ありがとう、ありがとう」と述べた[31]。 なお、韓国にとってみれば決勝トーナメント進出のためには自国の勝利とともにメキシコの勝利が絶対に必要な条件であったため、自国の奮闘にもかかわらずメキシコの惨敗のおかげでリーグ敗退を余儀なくされた立場であった。 韓国内の反応韓国は前大会に続いて2大会連続でのグループリーグ敗退が決まったが、強豪ドイツを相手に念願の一勝を果たしたことを評価する報道が相次いだ[25]。 同国大手メディアの朝鮮日報は「韓国は世界最強のドイツを沈没させ、有終の美を飾った」と称え、同じく京郷新聞は「16強入りは失ったが、韓国サッカーが見せた『最後の闘魂』は輝いた」と好意的に報じた[25]。 一方で韓国が2大会連続での敗退に怒りを募らせる国民もおり、一部のファンたちは同国の仁川国際空港へ帰還した代表選手たちに鶏卵を投げつけて問題となった[32]。なお、同国では前大会でも代表チームが敗退して帰国した際にトフィーを投げられる事件が起きている[32]。 ドイツ国内の反応日本メディアのサンケイスポーツによると、ドイツ国内からは本試合の結果について「史上最大の恥だ」などと次のような批判が相次いだ[33]。
韓国メディアの中央日報によると、ドイツ国内メディアは次のように批判した[12]。 世界各国の反応韓国メディアの中央日報や日本メディアのThe PAGEなどによると、各国では本試合の結果を次のように報じられた[12][34]。
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