高麗民主連邦共和国

高麗民主連邦共和国
各種表記
チョソングル 고려민주련방공화국(北朝鮮)
고려민주연방공화국(韓国)
漢字 高麗民主聯邦共和國
発音 コリョミンジュリョンバンコンファグッ(北朝鮮)
コリョミンジュヨンバンコンファグッ(韓国)
日本語読み: こうらいみんしゅれんぽうきょうわこく
2000年式
MR式
英語
Goryeo minju ryeonbang gonghwaguk
Koryŏ minju ryŏnbang konghwaguk
Federal Democratic Republic of Goryeo
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高麗民主連邦共和国(こうらいみんしゅれんぽうきょうわこく、朝鮮語: 고려민주련방공화국漢字高麗民主聯邦共和國)は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が掲げる朝鮮半島統一路線。

1980年当時、漢江の奇跡で経済成長を続ける大韓民国(韓国)に様々な点で北朝鮮が大きく劣ったことによって、武力・経済優位などで韓国を滅ぼすことが不可能となり、不法傀儡と主張していた韓国の存在を認めざるを得なくなった北朝鮮最高指導者金日成主席が北朝鮮の国家体制・独裁世襲を維持するために掲げるようになった[1]

概要

提唱

1980年10月10日、北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党成立35周年を記念して行った第6次朝鮮労働党大会英語版において金日成主席(当時)が、1972年の南北共同声明[注釈 1]を踏まえつつ、軍人出身の全斗煥第11代大統領政権下の大韓民国(韓国)に、南北朝鮮の統一方法(略:高麗連邦構想)として提案した。

朝鮮労働党第6回大会でおこなった中央委員会の活動報告(抜粋)(1980年10月10日)

わが党は、北と南がともに相手側に現存する思想と体制をそのまま容認する基礎のうえで、双方が同等に参加する民族統一政府を組織し、そのもとで北と南が同等の権限と義務を持ち、それぞれ地域自治制を実施する連邦共和国を創立して祖国を統一することを主張します。

— 金日成、朝鮮民主主義人民共和国外国文出版社 Nenara-朝鮮民主主義人民共和国[2]

その上で次のように主張した[2]

  • 双方の同数の代表と適当数の海外同胞代表で最高民族連邦会議を構成
  • 連邦常設委員会を組織して北と南の地域政府の指導にあたらせ、連邦国家の全般的な活動を管轄
    • 北と南の地域政府は、連邦政府の指導のもとに、全民族の根本的利益と要求に合致する範囲内で独自の政策を実施し、すべての分野で双方の差をせばめ、国家と民族の統一的発展を遂げるために努力
  • 連邦国家の国号は、高麗民主連邦共和国
  • 高麗民主連邦共和国は、いかなる政治的・軍事的同盟[注釈 2]やブロックにも加担しない中立国となるべき

これを実現する施策として、次の10項目を挙げた。

朝鮮労働党第6回大会でおこなった中央委員会の活動報告(抜粋)(1980年10月10日)
  1. 高麗民主連邦共和国は、国家活動のすべての分野で自主性を堅持し、自主的な政策を実施すべきです[注釈 3]
  2. 高麗民主連邦共和国は、国の全地域と社会の各分野にわたって民主主義を実施し、民族の大団結をはかるべきです。
  3. 高麗民主連邦共和国は、北と南の経済合作と交流を実施し、民族経済の自立的発展を保障すべきです。
  4. 高麗民主連邦共和国は、科学・文化・教育分野において北と南の交流と協力を実現し、国の科学技術と民族文化・芸術、民族教育を統一的に発展させるべきです。
  5. 高麗民主連邦共和国は、北と南の断絶された交通、逓信を連結し、全国的範囲で交通および逓信手段の自由な利用を保障すべきです。
  6. 高麗民主連邦共和国は、労働者、農民をはじめ勤労者大衆と全人民の生活安定をはかり、その福祉を系統的に増進させるべきです。
  7. 高麗民主連邦共和国は、北と南の軍事的対峙状態を解消し、民族連合軍を組織し、外国の侵略から民族を防衛すべきです。
  8. 高麗民主連邦共和国は、すべての在外朝鮮同胞の民族的権利と利益を擁護し、保護すべきです。
  9. 高麗民主連邦共和国は、北と南が統一以前に外国と結んだ対外関係を正しく処理し、両地域政府の対外活動を統一的に調整すべきです。
  10. 高麗民主連邦共和国は、全民族を代表する統一国家として世界のすべての国との友好関係を発展させ、平和愛好的な対外政策を実施すべきです。
— 金日成、朝鮮民主主義人民共和国外国文出版社 Nenara-朝鮮民主主義人民共和国[3][5][6][7]

この提唱により、武力による赤化統一路線を放棄したとの見解もある[8]。しかし、この第6回党大会における朝鮮労働党党規英語版改正では、従来の「民族解放」路線することは無かった[8]

南側の反応

「高麗民主連邦共和国」創設案は、「自主・平和・民族大団結による統一」のスローガンの下、一民族・一国家・二制度・二政府の下で連邦制による統一を主張したものであった[9]。これは、韓国のほうが北朝鮮よりも経済的に優位に立ち、北朝鮮が韓国を武力で併合する可能性が薄らいだために提唱されたものと言われている[誰?]

だが、これは政治面(連邦議会)で北朝鮮が明らかに優位な地位につくことになっており、また「先統一、後同一感回復」を唱えるものの、国家保安法撤廃、韓国内での共産主義政党の結成の容認、在韓米軍撤収などを求めていたため、韓国側には到底受け入れられるものではなかった。

韓国の保守勢力は、「民族解放」路線が削除されない限り[注釈 4]、従来の赤化統一政策に変わりはないと認識した[8]

その後

2000年6月金大中大統領金正日国防委員長の間で行われた南北首脳会談の際に発表された6.15南北共同宣言では、北朝鮮は「低い段階の連邦制」を提示しており、韓国側の考えである連合制との共通性を認めている。

評価

肯定的見解

批判的見解

韓国現代史研究家の金一男は、「民主」が欠落した「実現性のないニセの民族統一論」と強く批判し、現状の分断国家体制が維持されるものと論じている[9]。その結果、国防に関し、中立的で統一的な指揮機能が確保できないことから南北それぞれに事実上の軍隊である「民兵組織」が残り、かつ北朝鮮が実質的な核保有国で南北の軍事バランスが非対称であるため、内戦の危機を包含すると考えている[4]

また金一男は、そもそも北朝鮮が維持する、唯一絶対性の主体思想及び首領体制が、複合的な多元主義である「連邦制統一」に相容れないと論じ、北朝鮮がこれらの思想を放棄しない限り、冒険主義的、かつ、朝鮮民族の自滅的構想であると断じている[10]

影響

北朝鮮の歌謡曲
  • 『建てよう われらの高麗民主連邦共和国』(朝鮮語: 세우자 우리의 고려민주련방공화국[注釈 5]

脚注

注釈

  1. ^ 祖国統一の平和的実現に向けた7項目に言及。当該項目を参照。
  2. ^ 1980年当時の国際社会は、北大西洋条約機構を中心とした西側諸国と、ワルシャワ条約機構を中心とした東側諸国に、大きく分断されていた(冷戦)。韓国は米韓相互防衛条約を、北朝鮮も中朝友好協力相互援助条約ソ朝友好協力相互援助条約(1996年失効)を締結していた。
  3. ^ 本段落には、さらに「あらゆる形の外部勢力の干渉と外部勢力への依存に反対」とあり[3]、具体的にはそれぞれの軍事同盟(南:米韓相互防衛条約、北:中朝友好協力相互援助条約ソ朝友好協力相互援助条約)の廃棄や、在韓米軍撤退を指すと考えられている[4]
  4. ^ 2021年1月に至り、朝鮮労働党第8次大会で党規約の序文から「民族解放民主主義革命」に関わる文言を削除するとともに、第4条「党員の義務」第5項中の、統一のための闘争に関する部分を削除した[8]
  5. ^ 統一歌謡”. Nenara-朝鮮民主主義人民共和国. 朝鮮民主主義人民共和国外国文出版社. 2023年2月27日閲覧。にて聴取可能。

出典

参考文献

関連文献

  • 金日成『高麗民主連邦共和国創立方案について』外国文出版社、1983年。NDLJP:11926523 

関連項目

  • 朝鮮統一問題
  • 高麗 - 10世紀から14世紀に朝鮮半島に存在した王朝であり、転じて朝鮮半島の異称
北朝鮮側の政策
韓国側の政策

外部リンク