零落
『零落』(れいらく)は、浅野いにおによる日本の漫画作品。『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて、2017年7号から同年16号まで連載された[1][2]。 解説
物語冬。深澤薫は書店の漫画売り場にて、話題作が平積みされたコーナーを眺めていた。その中に置かれた『さよならサンセット』(以下『さよサン』)は、深澤によって描かれた、8年にわたる長期連載作品だった。売り場では『さよサン』の最終巻のスペースはあまり広げられておらず、発行部数も以前より減らされる始末だった。深澤は仕事場へ向かう前に判子を取りに自宅へ戻り、妻で漫画編集者の町田のぞみが仕事場へと出かけるところに鉢合わせる。去り際にのぞみが深澤に進めた漫画は、書店の漫画売り場で、深澤の作品を追いやるようにスペースを広げていた漫画だった。夜に開かれた『さよサン』の連載終了をねぎらう打ち上げで、深澤は関係者へ向けて挨拶するが、多くの人はスマートフォンを操作し、まるで深澤の話に興味がないような態度であった。その後、深澤はアシスタントの富田奈央とともにタクシーで帰路につく。車内で深澤は自分はもう終わった作家なのだと自嘲するが、富田もまた深澤の話に耳を傾ける様子はなかった。富田が降り、深澤は帰宅を止めて新宿方面へ戻る。 深夜になり、深澤は風俗の案内所でデリヘル嬢を頼み、ラブホテルで待つ。現れたデリヘル嬢のゆんぼは、お世辞にも美人とは呼べない風貌の女性だった。ゆんぼは率直な態度で深澤をおだて、深澤のネガティブな発言にも明るく応える。翌日、深澤がウェブサイトでその女性のプロフィールを閲覧すると、現実の姿とは似つかぬものだった。 後日、深澤は友人の結婚式に出席する。その中で、深澤は大学時代の友人に子供は作らないのか問われる。深澤とのぞみは同じ職場で出会い、交際を経てのぞみから求婚したが、深澤の頭は漫画のことで埋め尽くされており、のぞみもまた、人気漫画家牧浦かりんを担当する編集者であり、仕事によって忙殺され、子供を作ることは話題にもならなかった。 深澤は、帰宅したのぞみがまた仕事場へ戻ると告げ、口を開けばどれも仕事に関わる内容であることに苛立ち、自身の話を聞いてほしい本音を伝えるが、のぞみの返答はあくまで仕事優先だった。のぞみが深澤に進めた漫画を、深澤は「くだらない」と評するが、その漫画の売上は『さよサン』よりも好調で、深澤は機嫌を沈める。ついに深澤は、のぞみとの共同生活を続けていく気力を失い、彼女に離婚を迫る。のぞみは拒否するが、翌日から深澤は仕事場として借りている部屋に移り、別居生活を開始する。 4月。深澤は、新連載作品のアイデアがまとまらずにいた。本来は、『さよサン』終了からあまり間隔を置かずに開始するはずだったが実現せず、仕方なくアシスタントチームを一時的に解散する。スタッフの1人はあっさりと了承するが、富田は深澤のスタッフにのみ集中しており、他の職場を持っていないために激昂し、深澤を罵倒する。さらにエゴサーチで発見した深澤に対するアンチコメントも相まって、深澤は苛立ちを重ねる。深澤は再び風俗案内所へ訪れ、ゆんぼを指名するがその日は欠勤していたので、なるべく細身の女性を注文する。ラブホテルに現れたデリヘル嬢は、猫のような目をした、陰のある様子の女性だった。深澤は過去の経験から、猫顔の女性に対して緊張してしまう性格だった。ホテルを出た歓楽街で、別れ際にデリヘル嬢はちふゆと名乗る。 しばらくして深澤は、再度ちふゆを指名する。ちふゆはゆんぼと違って落ち着いた口調で、深澤に媚びる様子もなかったが、深澤も余計な気を回さずに接せられた。対して、新作の構想は上手くいかず、次第に担当編集者からは見放されるようになっていく。富田からはハラスメントで訴えると通告され、深澤はさらにちふゆへ傾倒する。そんな中、深澤はちふゆが病床に伏した祖母のために、大学が夏休みの間、一時的に店を辞めて帰省することを知る。深澤は、思いつきで彼女の地元へついて行ってもいいかと尋ね、ちふゆはこれを了承する。ちふゆの地元は目立った観光地もない田舎だった。ちふゆの運転で2人はドライブに出る。ちふゆはこの頃ルームメイトが失踪したために引越しを計画し、資金調達のために風俗店で働いていた。深澤は自身の家へ来ないかと持ちかけるが明確な答えは返されない。翌日、深澤は駅舎でちふゆと別れる。反対側のホームから駅舎内を覗くと、すでにちふゆは去っていた。一瞬、深澤と子供を抱いたちふゆの姿を見るが、それは幻想であり、深澤は思わず吹き出す。深澤は1人で東京へと戻る。 夏の終わりにのぞみが新しく部屋を借りたため、深澤は自宅へ戻る。すでに『さよサン』の完結から1年が経過していたが、新作は相変わらず手つかずだった。夏以来、深澤とちふゆとの連絡は途絶えていた。店のホームページには何事もないようにちふゆの名が載っていたが、メッセージを送っても返信はない。 深澤は一度、売れることを意識せずに自由に漫画を描こうとするが、まったくペンを進められずに苦悶する。その最中、深澤の元に富田が来訪する。富田は完成した漫画の原稿を深澤に見せる。深澤は素直にその作品を褒め称えるが、富田は自分が手がけたのは作画のみでそれ以外はすべて担当編集者のものだと不満げに言う。それでも深澤が前向きな助言を施すと、富田は以前のハラスメントの訴えについて深澤に謝罪する。同時に、自身を忘れてほしいと懇願する。富田は、深澤がハラスメントの訴えで富田を恨み、彼女が漫画家として不利になる行為をするのではないかと危惧していた。深澤がそれを否定すると、今度は「売れ線漫画」を否定する深澤の姿勢を挑発する。深澤は富田に食ってかかり、彼女を追い出す。去り際に富田は深澤に「あなたが一番落ちぶれている」と罵る。 直後、郵便物を取るためにのぞみが訪れる。雨が降り始めたため、深澤は彼女を家へ招き入れる。別居こそしているものの、のぞみが離婚届に署名していないため、2人は夫婦関係にあった。深澤は早く書けと迫るが、のぞみは拒否する。離婚、飼い猫の入院、別居以前のことで2人は口論に陥る。深澤はのぞみとの関係に決着をつけようとするが、のぞみは牧浦との打ち合わせを理由に、彼との話を先送りにする。深澤よりも牧浦を重視するのぞみに深澤は激昂するが、のぞみは「牧浦は深澤よりも売れているから」と反論。深澤はのぞみに対して強引に性行為へ及ぼうとする。深澤はのぞみの言葉から、売れれば勝ちと結論づけ、のぞみを残して家を出る。 約半年後にようやく離婚届を提出し、協議離婚が成立した。深澤は次回作の作業にあたっていた。彼の態度はそれ以前よりも遠慮のないやや傲慢なものへと変化していた。 春。深澤は『さよサン』から2年ぶりとなる新作『星降る町のポラリス(以下、星ポラ)』の連載を開始していた。4月に『星ポラ』の第1巻が発売されるとたちまち重版がかかり、SNSや他の漫画家からも絶賛される感動作として話題となっていた。深澤は以前の売れ線を嫌う性分をすっかり失い、売れれば正義だと豪語していた。 新宿の書店にて催された深澤のサイン会にて、深澤は、彼のファンのアカリと名乗る女性と出会う。その女性は『さよサン』の連載時から深澤のTwitterへメッセージを送り、深澤も何度か返信していた人物だった。アカリは『さよサン』のおかげで自分は救われており、さらに『星ポラ』から感動を与えられたと、深澤に感謝を表す。深澤は売れることに徹した自身の姿勢と、読者が彼の漫画を読む感覚が食い違っていると知り、思わず涙を浮かべる。 登場人物
書誌情報
映画
2023年3月17日に公開された。監督は竹中直人、主演は斎藤工[5]。PG12指定。 キャスト
スタッフ
脚注出典
外部リンク
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