過臭素酸 (かしゅうそさん、perbromic acid)とは、臭素 のオキソ酸 の一種で、化学式 HBrO4 の化合物 である。臭素原子の酸化数 は最高酸化状態の+VII(+7)である。名称に「過」と付いているものの分子内に-O-O-結合はなく過酸 ではない。
概要
形式的には七酸化二臭素 (Br2 O7 )と水 が反応してできることになるが、この七酸化二臭素自体、現在のところ安定には得られていない。過臭素酸は不安定な強酸で、過塩素酸 に性質が似ている。また、強い酸化力 がある。遊離状態の純粋な酸はまだ得られていない。
かつては過臭素酸および過臭素酸イオンは存在しないとされ、存在しない理由を理論的に説明する学術論文 まで出される始末であったが、1968年 にようやく合成されるに至った[ 1] 。
製法
最初は放射性同位体 のセレン 原子を含むセレン酸イオン のβ崩壊 により過臭素酸イオンの生成が見出された[ 2] 。
SeO
4
2
−
83
→
β
−
83
BrO
4
−
{\displaystyle {\ce {^{83}SeO4^{2-}\ ->[\beta -]\ ^{83}BrO4^-}}}
化学実験室レベルの合成としては、臭素酸 塩を二フッ化キセノン で酸化 する方法もあるが、濃厚臭素酸ナトリウム水溶液を塩基性 条件で、冷却しながらフッ素 により酸化させる方法が実用的である[ 3] 。
BrO
3
−
+
XeF
2
+
H
2
O
⟶
BrO
4
−
+
2
HF
+
Xe
{\displaystyle {\ce {BrO3^- \ + XeF2\ + H2O -> BrO4^- \ + 2 HF\ + Xe}}}
BrO
3
−
+
F
2
+
2
OH
−
⟶
BrO
4
−
+
2
F
−
+
H
2
O
{\displaystyle {\ce {BrO3^- \ + F2\ + 2 OH^- -> BrO4^- \ + 2 F^- \ + H2O}}}
得られた溶液から、未反応の臭素酸イオンを臭素酸銀(AgBrO3 )として、フッ化物イオン をフッ化カルシウム (CaF2 )の沈殿として除き、陽イオン交換樹脂 を通して遊離酸の水溶液を得る。
化学的性質
過臭素酸イオンは熱力学 的に不安定であり、極めて強い酸化剤であるが、反応速度 論的には比較的安定している。その酸性水溶液 中における標準酸化還元電位 は以下の通りである。
BrO
4
−
(
aq
)
+
2
H
+
(
aq
)
+
2
e
−
=
BrO
3
−
(
aq
)
+
H
2
O
(
l
)
,
{\displaystyle {\ce {BrO4^{-}(aq)\ +2H^{+}(aq)\ +2{\mathit {e}}^{-}\ =\ BrO3^{-}(aq)\ +H2O(l)\ ,}}}
E
∘
=
1.76
V
{\displaystyle E^{\circ }={\rm {1.76V}}}
過臭素酸の水溶液を減圧濃縮することも可能であり、6mol dm-3 (約55%)程度までの水溶液は100℃以下であれば比較的安定で、さらに減圧濃縮し12mol dm-3 (約80%)程度の水溶液および2水和物(
HBrO
4
⋅
2
H
2
O
,
H
3
O
+
⋅
BrO
4
−
⋅
H
2
O
,
H
5
O
2
+
⋅
BrO
4
−
{\displaystyle {\ce {HBrO4\cdot 2H2O\ ,H3O^{+}\cdot BrO4^{-}\cdot H2O\ ,H5O2^{+}\cdot BrO4^{-}}}}
)の結晶も得られるが不安定であり、塩化物イオン を酸化し有機物 と接触すると爆発的に燃焼する[ 1] [ 3] 。
また水溶液中では過塩素酸と同様に著しい強酸である。
HBrO
4
(
aq
)
+
H
2
O
(
l
)
⇄
H
3
O
+
(
aq
)
+
BrO
4
−
(
aq
)
{\displaystyle {\ce {HBrO4(aq)\ +H2O(l)\ \rightleftarrows \ H3O^{+}(aq)\ +BrO4^{-}(aq)}}}
過臭素酸イオン
過臭素酸イオン (かしゅうそさんいおん、perbromate, BrO4 - )は過臭素酸の電離 により生成し、また過臭素酸塩中に存在する1価の陰イオン であり、過塩素酸イオン と同様に正四面体 型構造でBr-O結合距離は161pmである。
過臭素酸塩
過臭素酸塩 (かしゅうそさんえん、perbromate)は過臭素酸イオンを含むイオン結晶 であり、過臭素酸カリウムは比較的安定で275℃で分解して酸素 を放ち臭素酸カリウム(KBrO3 )となり、過臭素酸アンモニウムも175℃まで安定である[ 1] 。
参考文献
^ a b c FA コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年,原書:F. ALBERT COTTON and GEOFFREY WILKINSON, Cotton and Wilkinson ADVANCED INORGANIC CHEMISTRY A COMPREHENSIVE TEXT Fourth Edition, INTERSCIENCE, 1980.
^ 『化学辞典』 東京化学同人、1994年
^ a b 日本化学会編 『新実験化学講座 無機化合物の合成I』 丸善、1977年
関連項目