繭の密室
『繭の密室』(まゆのみっしつ)は、今邑彩による日本の推理小説。警視庁捜査一課・貴島柊志シリーズの第4作目。書き下ろし。 著者の今村はこの貴島刑事シリーズについて、「もともとシリーズをあてこんで書き始めた探偵もの作品ではなく書き続けるのがしんどくなったため3作でやめるつもりだったが、読者からの支援の手紙により、4作目の執筆を決意した。」と述べている[1]。 あらすじ8月20日、同居している妹・ゆかりがアルバイト先から帰ってこないことを心配していた日比野功一・京子夫婦の元に、「妹を預かっている」という脅迫電話がかかってくる。身代金5000万円と警察には知らせないことを要求され、動揺した功一はすぐに金を用意しようとするが、以前ゆかりが同居を拒んで家出をしたことを思い出し、狂言の可能性を考えて警察には知らせず様子を見ることを決める。 8月21日、警視庁捜査一課の刑事・貴島柊志は701号室の住人で大学生の前島博和が転落して死亡しているというマンションにいた。転落時についたとは思えない右前頭部の打撲傷や首に紐状の擦過傷がみられた他、前島の部屋のドアはチェーン錠とともに施錠され、スニーカーを履いているなど不可解な点が多い。貴島は現場に来ていた中野署の警部・倉田義男と共に聞き込みを開始し、前島が以前サラ金にも手を出していたことや、この転落事件の直前に前島の部屋の前で「開けろ!中にいるのはわかっている!!」と謎の若い男が騒いでいたことを知る。さらに2人は、前島の部屋によく出入りしていたという中学時代からの友人である坂田勝彦と江藤順弥にも話を聞くが、2人はそれぞれ関与を否定。しかし明らかに動揺していた坂田に比べて妙に落ち着き払った江藤の態度に対して貴島は、外側は健全な若木でありながら中には大きなうろができているような病んだ木のような印象を受ける。その印象を裏付けるかのように、亡くなった前島の両親から、江藤・坂田・前島の3人が中学時代にクラスメイトの吉本豊を自殺に追いやったという噂があったことを聞く。豊の父親である吉本孝三は当時、息子は自殺したのではなく3人によって殺されたのだと思い込み、「いつか俺の手で3人を殺してやる」と息巻いていたらしい。貴島と倉田は江藤ら3人が関与した自殺騒動を調べるため、4人の出身中学であるN中学がある浜松へと向かう。 浜松中央署で当時のことを聞くが、「受験勉強に疲れた」と書かれた遺書も見つかっており、吉本豊の自殺は疑いようがなかった。しかし当時の担任であった日比野功一も江藤らによる他殺を疑っていたことがわかる。東京に戻った2人は、現在は教師を辞めて出版社で働いているという日比野を訪ねるが、彼は「妹が行方不明」という理由で欠勤中だった。家まで押しかけ、心配で憔悴しきった日比野から、吉本孝三と2年前まで連絡を取り合っていたことや、彼が姉の元に身を寄せているという情報をなんとか聞き出す。 貴島と倉田は吉本の姉がおかみとして働く福島県・飯坂温泉の旅館を尋ねるが、そこで知らされたのは孝三が2年前にすでに他界しているという事実だった。驚く2人に今度は捜査本部から坂田が部屋で死体となって発見されたという悪いニュースがもたらされる。死因は前頭部を殴られ、首を絞められたことによる窒息死だった。部屋からは日比野ゆかりを隠し撮りした写真が発見され、そこで貴島は初めて日比野功一の妹がゆかりであることに気付き、2つの事件が繋がっていることや、日比野功一の欠勤理由は妹の「行方不明」ではなく「誘拐」ではないのかという可能性に思い当たり、その犯人が江藤ら3人ではないかと考える。 登場人物
書籍情報
テレビドラマ
本作を原作としたテレビドラマが『“繭の密室”連続殺人事件』(まゆのみっしつ れんぞくさつじんじけん)のタイトルで1998年1月31日にテレビ朝日系列の2時間サスペンス枠「土曜ワイド劇場」にて「異常犯罪シリーズ」の1作として放送された。サブタイトルは「母と子が育む歪んだ殺意」。 無名時代のバナナマンが予備校生役で揃って出演している[注釈 1]。 あらすじ(テレビドラマ)アルバイトに行っている妹・ゆかりの帰宅を待つ日比野家に、「妹をあずかっている 3千万円用意しておけ」というFAXが送られてくる。兄・日比野功一は大学時代の先輩・貴島柊志が警視庁捜査一課の刑事になったことを思い出し、電話で助けを求めるが、貴島はマンションの802号室から前島博和という予備校生が転落死した事件現場で捜査中であったため、電話で励ますにとどめ、後輩の事件に胸を痛めながらも転落死の捜査を優先させる。前島には殴打された痕と索条痕があり、鈍器で殴られて首を絞められた後に転落させられたと思われたが、ドアはチェーン錠で施錠されており、室内からはロープも鈍器も見つからなかった。 縄張り意識が強く、友好的でない中野南署の刑事・倉田義男とペアで聞き込みを始めた貴島は、前島の部屋の前で叫んでいる男がいたことや、親友で同じ予備校「代々木英進ゼミナール」に通っている田坂勝彦と江藤順弥と共に、中学時代、吉本豊という生徒をいじめて自殺させたという黒い噂があったことを突き止める。そのことで3人を恨んでいたという吉本の父・吉本孝三を追って新潟へと赴くが、孝三は妻とも別れ、現在は行方不明であるという。2人は前島らの母校で県下で1,2位を争うという進学校「新潟明暁学園」や新潟北警察署にも訪れて自殺の真相を調べ、当時の担任が妹の件で助けを求めていた貴島の大学時代の後輩・日比野功一であることがわかり驚く。そんな中、田坂勝彦も何者かに同じ手口で殺されてしまう。 捜査本部では吉本犯人説が有力となっていたが、貴島は江藤の態度や、田坂の現場に何者かとピザを食べた形跡が残っていたことから、ゆかりを誘拐したのは江藤ら3人ではないかと推理する。しかしこの後、誘拐されたはずのゆかりが傷だらけながらも無事に帰り、「3人組に拉致された。犯人らは最後まで3人いた。」と証言したことから、誘拐犯が江藤らではありえないことが証明される。一方、警察は土木作業現場で働く吉本孝三を発見し、取調室で問い詰めていた。しかし前島のマンションへ行ったことは認めたものの、豊の自殺は過去のことであり、もう忘れた話であると話す。この証言をどうとるか思案する警察に、今度は江藤が襲われ、病院に運び込まれたという一報が入る。 キャスト
スタッフ
脚注注釈
出典関連項目 |