双方が不法行為の当事者である場合に一方が他方を訴訟提起することを避ける際には、アメリカ法では双方不法行為(英語版)("in pari delicto")[4]の法理が適用され提訴できなくなる(日本の民法には全く同一の規定はないが、被害者の過失が認められれば、722条の2、不法行為の過失相殺により賠償額が減額される)。
著作権侵害の裁判において、原告が被告の故意の侵害(willful infringement)を立証できた場合、1著作物あたり150,000ドルを超えない額の損害賠償が認められる可能性がある(第504条の(c)の2[9][11])。また被告が著作権侵害を「認識せずかつそれを行ったと信ずる理由がない」("not aware and had no reason to believe")と立証できた場合、1著作物あたり200ドルを超えない額にまで減額される可能性もある(第504条の(c)の2[9][11])。余談だが日本法との相違点として注意すべきことがある。差止請求権は日本(著作権法112条)及び米国(合衆国法典第17編第502条 17 U.S.C.§ 502)の著作権法で共に侵害が故意や過失であることは要件ではない。しかし、損害賠償請求権については、民法709条及び著作権法114条の規定から日本においては故意や過失が要件となってくる(関連記事参照)。ところが、米国の著作権法では差止請求権と同じく故意、過失を問わず損害賠償を請求できる。これは「厳格責任(英語版)」(strict liability)と呼ばれるもので、過失責任(negligence liability)とは異なるものであることを表している。米国の著作権法では、侵害が故意であるか否かは法定損害賠償の増額が可能か否かであるかを示しているに過ぎない[12]。
合衆国法典第17編・第412条[13][14]において、法定損害賠償は著作権侵害発生前にアメリカ合衆国著作権局(United States Copyright Office)に予備登録(preregistration)された著作物、または、「発行」("publication")から3ヶ月以内の著作物に対してのみ米国内において請求可能であると定められている。
事例
米国では著作権侵害に対し原告が法定損害賠償を請求するケースが一部で見られる。キャピトル対トーマス事件(英語版)("Capitol v. Thomas")[15]とは、ファイル共有ソフトウェアによる著作権侵害に対する一連の審理(Trial)でありかつ米国での初の民事陪審("Civil jury trial")審理である[16]。RIAAは原告の音楽企業を強力にサポートしており、会長キャリー・シャーマン(英語版)(Cary Sherman)を証言台に担ぎ出す程であった(実際には被告側の異議申し立てによりその要求は却下された)[17][18]。第1次審理では、被告のトーマスに対し原告の音楽企業の請求が陪審員に認められ、1曲当たり9,250ドル、侵害認定曲24、総額222,000ドルの法定損害賠償を命ずる評決(英語版)が下った。第2次審理で更に増額したが、損害額縮減(英語版)("Remittitur")の法理により減額調停が主席裁判官から提示された。しかし原告はこの調停を拒否。第3次審理が開始され、この評決では著作権侵害による損害が発生した事実を原告が裁判で立証できなかったにもかかわらず賠償額が1,500,000ドルという侵害規模に不釣合いな程の莫大な数字に跳ね上がった。2011年現在も係争中であり、第8連邦巡回区控訴裁判所(英語版)に原告が控訴手続中である。
カリフォルニア州のアンルー市民権法(英語版)("Unruh Civil Rights Act", Civ. Code, § 51 section 52)では、連邦ADAの規定に存在する差別行為を受けた被害者に対し4,000ドル以上の賠償を規定している[25]。
経済法
公正債権回収法(英語版)("Fair Debt Collection Practices Act", FDCPA. 15 U.S.C. § 1692et seq.)とは「公正債務取立法」とも言われ、消費者信用保護法(英語版)("Consumer Credit Protection Act", CCPA)の第8編("Title VIII of the CCPA")として合衆国法典第15編に追加された債権回収業者の取立に関する規制であり、例えば取立の際の消費者への暴言の禁止などが規定されている。同法に違反したと立証された者に対しては、消費者側の実損害によらず、1,000ドル+訴訟費用を超えない額の法定損害賠償を請求できる[26]。クレジットカードの取引業者規制であるCCPA第1編・公正信用請求法(英語版)("Fair Credit Billing Act", FCBA)も消費者に同種の法定損害賠償の請求を認めている[27]。
消費者の信用情報の不正利用を禁じその保護を義務付けるため2003年に制定された公正及び正確信用取引法(英語版)("Fair and Accurate Credit Transactions Act", FACT Act or FACTA)[注釈 2]では、過失による同法違反(negligent violation)が立証された場合は違反者に対し過失相当の損害賠償(訴訟費用並びに合理的弁護士費用(英語版)含む。以下同じ)のみ請求できる[28]が故意による侵害の場合は100ドル以上、1,000ドルを超えない額の法定損害賠償を請求できる[29][30]。
2011年2月、米国は、USTRが作成した日米経済調和対話("United States - Japan Economic Harmonization Inititaive")上において、米国側関心事項中、知的財産権分野の「エンフォースメント手段」("U.S. Agenda items - Intellectual property rights", "Enforcement tools")の一つとして法定損害賠償の制度採用を日本に要求している[52][53]。また同じくUSTRが策定したとされるTPPに関する米国側提案(要求)事項の草案文書に、前記事項と符合する知的財産権要求事項(US proposal for TPP on Intellectual Property Rights)が存在することが外部組織が入手した文書より判明している[54]。この項目では、「総合的法執行義務」("General Enforcement Obligation", 総合的エンフォースメント義務)という知的財産権侵害時の法執行機関による公訴、並びに民事訴訟提起に関連する法的枠組みの策定が、協定参加国に対する米国の提案として存在する。この中にある第12.3ならびに.4項「知的財産権侵害に対する実損害に拠らない損害賠償制度の導入要求」(Article 12.3, 4. "Requires adopting compensation for infringement without actual damages")、が法定損害賠償の制度化要求であり、当該文書に関するコメントを述べた弁護士の福井健策は、同じく協定に含められている故意侵害の非親告罪化要求(Article 15.5(g) - "[...] legal action ex officio [...] without the need for a formal complaint by a private party or right holder")と合わせ、制度導入により侵害訴訟提起の劇的な増加や賠償額の増大の可能性を指摘している[55]。
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“Public Act No. 06-43”. CGA (2006年5月8日). 2011年3月7日閲覧。 “Sec. 4. (NEW) (Effective July 1, 2006) Any person aggrieved by a violation of section 1 of this act may bring a civil action in the superior court for the judicial district where such person resides or the judicial district of Hartford against the person or persons who committed such violation to recover actual damages, statutory damages of not more than one thousand dollars for each day such person was coerced by another person in violation of section 1 of this act and a reasonable attorney's fee.”
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“中华人民共和国著作权法(Copyright Law of the People's Republic of China)” (PDF) (英語(UNESCOによる翻訳)). UNESCO. pp. 15. 2011年11月18日閲覧。 “Article 48 [...] Where the actual losses of the right owner or the unlawful gains of the infringer cannot be determined, the People's Court shall, in light of the circumstances of the infringement, decide on a compensation amounting to not more than RMB 500,000.”
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“저작권법 일부개정법률안(著作権法一部改正案)” (PDF) (韓国語). 韓国国会. likms.assembly.go.kr. pp. 3. 2011年11月18日閲覧。 “마. 법정손해배상제도를 도입하여 실손해 배상과 법정손해배상중 하나를 선택적으로 청구할 수 있도록 하고, 법정손해배상청구 요건으로 사전 등록하도록 함(안 제125조의2 신설).(抄訳: 法定損害賠償制度を導入する。ただし実損害賠償制度も引き続き存続させる(第125条の2、新設)。)”
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“Anti-Counterfeiting Trade Agreement” (PDF). keionline.org. pp. 6-7 (2010年12月3日). 2011年11月18日閲覧。 “ARTICLE 9: DAMAGES [...] 3. At least with respect to infringement of copyright or related rights protecting works, phonograms, and performances, and in cases of trademark counterfeiting, each Party shall also establish or maintain a system that provides for one or more of the following:
(a) pre-established damages; or [...]”