永遠平和のために
『永遠平和のために』(えいえんへいわのために、独: Zum Ewigen Frieden)は、1795年にイマヌエル・カントによって著された政治哲学の著作である。副題は「一哲学的考察」(独: Ein philosophischer Entwurf)[1]。 本書はフランスとプロイセンがバーゼルの和約を締結した1795年にケーニヒスベルクで出版された。バーゼルの和約は将来の戦争を防止することを目的としたものではなく、戦争の戦果を調整する一時的な講和条約に過ぎなかった。このような条約では永遠の平和の樹立には不完全であると考えた場合、カントには永遠平和の実現可能性を示す具体的な計画を示すことが求められる。本書はこのような平和の問題が論考されている。出版の翌1796年には第二補説を含めた増補版が発表されている。 本書の冒頭で『永遠平和のために』という標語がオランダの食堂宿にあった墓場の絵が描かれた看板に由来することを示し、それが「人類一般に妥当するのか、決して戦争を止めようとしない国家元首らに妥当するのか、或いは甘い夢を見る哲学者のみに妥当するのかは未定としよう」と書き、当時の現状を風刺的、懐疑主義的に批判している。 構成
内容本書の内容は永遠平和を確立するための予備条項と確定条項から構成されている。予備条約の章では将来戦争を留保した講和条約、買収、贈与などによる国家の取得、常備軍の維持増強、政策戦争のための国債発行、諸外国に対する軍事的な内政干渉、外国に対する相互信頼を不可能とする行為、以上を禁止するための条項が列挙されている。これら予備条項は平和をもたらすための準備的な段階であり、確定条項では具体的な平和の条件が示される。確定条項では各国の政治体制が共和政であること、また国際法は諸国家の連合体に基づくこと、世界市民法は友好をもたらす条件に律されなければならないことが定められている。 予備条項の中でも常備軍の全廃を示した第3条項は特に興味深い構想である。常備軍の存在そのものが諸外国に対して戦争の恐怖を与え、したがって無制限な軍備拡張競争が発生する。そしてその軍拡によって国内経済が圧迫されるとその状態自体が攻撃の動機となる。つまり常備軍は時期とともに全廃されなければならないとカントは考える。また国家が軍事行動のために人員を雇用することは人間の権利に反しており、国家は戦争のために国民を手段としてはならない。ただし国民が自発的に軍事的な教育訓練を実践して外敵に対する自衛手段を確保することについてはカントは認めている。 確定条項でカントは共和政の国家体制について述べているが、ここでの共和体制とは事実上の体制ではなく、自由と平等の権利が認められた国民が代表制に則りながら統治に参加している理念としての政治体制である。つまり共和体制において国民は戦争の苦難を忌避するために、開戦に同意しないとカントは考えたのである。同様の理由で協和的な国際連合の枠組みを樹立することで世界共和国を形成すれば平和を維持することが可能であると考えられる。 最後の文末は、「たとえ無限に先に進んでいく接近の中のみであるとしても、公法の状態を実現することが義務であり、同時にその根拠である希望が現存するならば、従来呼ばれていた平和締結(これは厳密には休戦の意味)の後に来る永遠平和は、空虚な理念ではなく、漸進的に解決されて目標に絶えず接近していく課題である」と締めくくっている。 日本に対する言及なお、本書の末尾、第2章の第3確定条項を説明するくだりで、カントは海洋進出した欧州諸国のアメリカ・アフリカ・アジアにおける侵略・簒奪的姿勢を批判しつつ、中国(清)と日本の鎖国政策を、賢明な措置として言及している[2]。 日本語訳
脚注・出典参考文献
関連項目 |