摂動完全均衡 (せつどうかんぜんきんこう,英: trembling hand perfect equilibrium, 独: trembling-hand-perfektes Gleichgewicht) とは,ナッシュ均衡の精緻化のひとつ.1975 年に International Journal of Game Theory 誌に掲載された論文において,“A Model of Slight Mistakes” (軽微な誤りのモデル) の名前で,ラインハルト・ゼルテンによってこの概念が発見された.ここでの狙いは,均衡はプレーヤーたちの誤りによってどの程度影響されるかを決定することである.ゼルテンによれば,プレーヤーたちが完全に合理的に行動するならば,誤りは起こらない.しかし現実では,人びとは相手のプレーヤーの誤った決定を計算に入れねばならない.この点をゲーム理論的に表現するために,摂動完全均衡が生みだされた[1].
アプローチの簡単な説明
簡単な表現で摂動完全均衡のアイデアを説明しよう.プレーヤー A が,プレーヤー B はかならず戦略b1 をとってくると考えているとして,その b1 へのプレーヤー A の最適反応は戦略 a1 であるとしよう.戦略 a1 をプレーすることは,もしプレーヤー B が小さな誤り確率 ε で b2 をプレーしてくるとしても,なお最適な選択でありつづけるだろうか.そのような条件でもなお a1 がプレーヤー A の最適戦略であるならば,これは摂動完全均衡戦略であるという.
右のものには 4 つの部分ゲーム完全均衡がある.(A, (X, X)), すなわち,プレーヤー 1 は戦略 A をプレーし,プレーヤー 2 は,プレーヤー 1 が A を選んだならば X を,プレーヤー 1 が B を選んだときにも X を選ぶようなものである.ほかの 3 つの部分ゲーム完全均衡は,(A, (Y, X)), (B, (X, X)), (B, (Y, X)).
このうち,プレーヤー 1 が戦略 A を選んでいるような 2 つの均衡だけが摂動完全である.プレーヤー 2 が戦略 Y をプレーする確率は十分小さいのだとしても,プレーヤー 1 にとってはやはり A をプレーすることがよりよい.というのもそうすればかならず 2 の利得が得られ,戦略 B を選んだ場合には戦略 A による場合よりも決してよい結果にはならないからである.
プレーヤー 2 にとっても戦略 R は摂動完全である.なぜならば,プレーヤー 2 が R を選ぶよりも L を選ぶほうが利得が大きくなるような唯一の戦略の組みあわせは (ul, R) に比べたときの (ul, L) だけであって,ところが ul が実現するのは,プレーヤー 1 の両方のエージェントが誤りを犯した場合であり,その ul の確率は最小の εδ だからである.
Reinhard Selten (1975). “A reexamination of the perfectness concept for equilibrium points in extensive games”. International Journal of Game Theorie (Vienna: Physica-Verlag): 25 - 55.
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^Reinhard Selten (1975). “A reexamination of the perfectness concept for equilibrium points in extensive games”. International Journal of Game Theorie (Vienna: Physica-Verlag): 25 - 55. S.35
^Harold William Kuhn (1953). “Extensive Games and the Problem of Informations”. Contribution to the Theory of Games, Vol. 2 (Princeton: Princeton Univ. Press): 193 - 216.
^Alexander Mehlmann (2007). Strategische Spiele für Einsteiger. Wiesbaden: Friedr. Vieweg & Sohn Verlag S.88 - 92
^Ken Binmore (1992). Fun and Games (1 ed.). Lexington: Heath S.454 - 462