強度変調放射線治療強度変調放射線治療(Intensity-Modulated Radiation Therapy: IMRT)は、癌に対する放射線治療の手法であり、有害事象を低減すると共に、腫瘍の制御率を上げることができる。当初は、脳腫瘍と頭頸部癌(上咽頭癌や中咽頭癌など)、そして前立腺癌にしか保険適応がなかったが、現在では限局した固形悪性腫瘍全てに適応があり、近年普及が進んでいる。そもそも放射線治療とは、電離放射線のX線などを用いて、悪性疾患および一部の良性疾患に対する治療法の一つであり、外科的治療、化学療法と並んで癌の三大療法の一つとして位置づけられている。 現在、画像誘導放射線治療を併用した画像誘導強度変調放射線治療(Image-guided Intensity-Modulated Radiation Therapy: IG-IMRT)が普及し、一般的な治療法として行なわれている。これにより、より精度の高い治療が可能となり、治療効果の改善などメリットが多く報告されている。 IMRTの臨床応用
治療計画方法
従来の放射線治療の治療計画法従来の放射線治療(3D-CRT)の治療計画では、照射野の方向と形状、各方向からの線量を決め、治療計画装置がそれに基づいて計算した線量容積ヒストグラム(DVH: Dose Volume Histgram)を確認して、計画標的体積(PTV: Planning Target Volume)および危険臓器(OARs: Organs at Risk)の線量制約を満たしていれば、それで完成となる。照射法を決め、DVHが決まり、評価というのを順方向計画(forward planning)という。 線量の処方は、PTVを代表する点に対しての点処方とすることが多い。 IMRTの治療計画法IMRTでは、まず目標とするDVHを定め、照射法を決めるという順序で計画を立てる。これを逆方向計画(インバース・プランニング: inverse planning)と呼ぶ。IMRTの照射は極めて複雑であり、コンピュータを用いた最適化(Optimization)により、目標とする線量制約を可及的に満たす照射法を導き出す。コンピュータが、放射線腫瘍医の指示にできるだけ合致する照射法を考えてくれるという点では、人工知能(Artificial Intelligence; AI)に近いとも言えるが、目的関数(Objective function)を設定する時のハイパーパラメーターを適切に選ばないと、局所最適解に陥ったり、変数の振動など、まさに AI が直面している問題が治療計画の過程でも起こることがあり、最良の治療計画を立案する上で、目的関数の式と、最適化に用いるアルゴリズム(例えばシンプレックス法、焼き鈍し法など)について、数理的背景を熟知する必要がある。焼き鈍し法では、マルコフ連鎖の遷移確率行列が既約かつ非周期であればマルコフ過程のエルゴート定理から計算回数を繰り返すことによって、大域解が得られるとされるが、コンピュータが扱えるのは、連続数ではなく離散数であり、計算機数学の視点から十分条件に関して理解していなければ、得られた解が、治療システム上、最良な解かの判断もできず、不適切な治療を現実の患者に施行する可能性も否定できない。 線量の処方は、PTV内の一定の容積に対する容積処方とすることが多い。例えば、PTVの95%の容積に78Gy照射するというように処方する。PTVの95%の容積に処方する場合はD95処方、PTVの50%の容積に処方する場合はD50処方というように呼ぶ。 線量制約線量制約とは、脊髄ならば最大線量45Gy、耳下腺ならば30Gy照射される体積が全体の50%未満などというにDVHで評価しやすい形で決まっている。 なお、照射による吸収線量の空間的分布(線量分布)を治療計画装置で計算する際、線量分布を計算する範囲内を三次元的に格子で区切り、治療計画の複雑度などに見合うだけの小さな体積が線量分布を構成する最小の単位を定義し、これをしばしばボクセル(voxel)と呼ぶ(強度変調放射線治療の治療計画を作成する際には、2mm×2mm×2mm以下のボクセルが推奨される)。 危険臓器の線量制約を最大線量で定めると、危険臓器内のボクセルのうちのたった一つだけが線量制約を越えていても、線量制約を満たさないことになる。しかし、通常このような制約逸脱は臨床的意義に乏しく、より有害事象を反映する適切な線量制約が求められる。このため、小体積への吸収線量の上限という形式がとられることが多い。たとえば、45Gy照射されるのが2cc未満というような線量制約が用いられ、「D2cc < 45Gy」のように表記される。 ほかには、ある線量が照射される危険臓器の体積の上限を線量制約とすることがある。たとえば、20Gy照射される体積が肺の25%未満といった制約であり、これは「V20 < 25%」のように表記される。 近年、より正確に有害事象の起こる確率を予測できる NTCP model という概念も広く人口に膾炙してきており、今後はこの計算式が主流となることも予想される。 (ただし、線量制約の多くは経験的なものであり、放射線治療医の間である程度のコンセンサスが得られている、ある臨床試験で条件として決まっている、といったことを参考に申し合わせる。ここで挙げた数字は単なる例であり、妥当性を一切保証しない。) 運用線量分割1回線量は従来の放射線治療で用いられてきた1.8 - 2 Gy用いられることが多い。しかし、従来の点処方の2GyとIMRTのD95処方の2Gyとでは、後者の方がより高線量が投与されることになるので、注意する必要がある。こういう議論の際は、概ねD50処方が従来の点処方に対応するとされることが多い。 治療成績向上や治療期間の短縮などの目的で、分割回数を少なくして1回線量を大きくする試みも盛んに行われている。分割回数の少ない照射のことを寡分割照射(hypofractionated radiation therapy)と呼ぶ。 また、肉眼的腫瘍体積(Gross Tumor Volume: GTV)を含む臨床的標的体積(Clinical Target Volume: CTV)への一回線量を予防領域を含む臨床的標的体積への一回線量よりも大きくして照射する技術も存在する(SIB)。総治療期間を短くできる利点があるが、スケジュールによっては予防領域の一回線量が通常分割照射の一回線量よりも小さくなることがあり、その場合の予防領域の制御率が下がるのではないかという疑念も残る。 精度管理IMRTでは、複雑な照射を行うことから、検証作業が必要となる。実際には物理ファントムと線量計を用いて、治療計画装置で得られた線量分布と実測で得られた線量分布を比較検討することが多い。この作業はQuolity Assurance(QA)と呼ばれる。 保険収載内容2008年4月に保険収載され、 が保険適用となった。 さらに、2010年4月からは、全ての限局性固形悪性腫瘍での保険診療が認められた。 曖昧な点限局性「悪性」固形腫瘍の悪性はどういった文脈で解釈すればよいのかが、実地医療においては問題となり得る。
施設基準放射線治療を専ら担当する常勤の医師が2名以上(1人は放射線治療の経験を5年以上有すること)、放射線治療を専ら担当する診療放射線技師(放射線治療の経験を5年以上有するものに限る。)および放射線治療に関する機器の精度管理・照射計画の検証・照射計画の補助作業等を専ら担当する者(診療放射線技師、その他の技術者等)がそれぞれ1名以上いること。 さらに、年間にIMRTを10例以上実施している必要がある。[1] 全国の治療装置数に比較し、放射線治療医は充足しておらず、マンパワー的にIMRTを行なうことのできない施設も多い。 医師2名が、専従しているという条件は、健康保険の適応になるかという点でのみ必要と考えられ、実際 IMRT の点数を取らずに、IMRT を施行してきたグレーゾーンの施設もかつては多くあったが、医師2名の条件を満たさない施設は IMRT の技術を用いてはならないという通達があり、建前上は正式に強度変調放射線治療が行なえなくなった施設も多い。[要出典] 脚注
参考文献
関連項目
外部リンク |