塩化銅(I)
識別情報
CAS登録番号
7758-89-6
PubChem
62652
ChemSpider
56403
UNII
C955P95064
EC番号
231-842-9
DrugBank
DB15535
ChEBI
RTECS 番号
GL6990000
バイルシュタイン
8127933
Gmelin参照
13676
InChI=1S/ClH.Cu/h1H;/q;+1/p-1
Key: OXBLHERUFWYNTN-UHFFFAOYSA-M
InChI=1/ClH.Cu/h1H;/q;+1/p-1
Key: OXBLHERUFWYNTN-REWHXWOFAC
特性
化学式
CuCl
モル質量
98.999 g/mol[ 1]
外観
白色の粉末、酸化不純物によりわずかに緑色
密度
4.14 g/cm3 [ 1]
融点
423 °C , 696 K, 793 °F [ 1]
沸点
1490 °C , 1763 K, 2714 °F (分解[ 1] )
水 への溶解度
0.047 g/L (20 °C)[ 1]
溶解度平衡 K sp
1.72×10−7
溶解度
エタノール、アセトンに不溶[ 1] 濃塩酸、濃水酸化アンモニウムに溶ける
バンドギャップ
3.25 eV (300 K, direct)[ 2]
磁化率
-40.0·10−6 cm3 /mol[ 4]
屈折率 (n D )
1.930[ 3]
構造
結晶構造
閃亜鉛鉱型構造、cF20
空間群
F4 3m, No. 216[ 5]
格子定数 (a, b, c)
a = 0.54202 nm Å
危険性
安全データシート (外部リンク)
JT Baker
GHSピクトグラム
GHSシグナルワード
警告(WARNING)
Hフレーズ
H302 , H410
Pフレーズ
P264 , P270 , P273 , P301+312 , P330 , P391 , P501
NFPA 704
引火点
不燃性
許容曝露限界
TWA 1 mg/m3 (as Cu)[ 6]
半数致死量 LD50
140 mg/kg
関連する物質
その他の陰イオン
フッ化銅(I) 臭化銅(I) ヨウ化銅(I)
その他の陽イオン
塩化銀(I) 塩化金(I)
関連物質
塩化銅(II)
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
塩化銅(I) (えんかどう(I)、英 : Copper(I) chloride )は、1価の銅 と塩素 とで構成され、組成式 CuClで表される無機化合物 である。白色固体でほとんど水に溶けないが、空気酸化により緑色固体の塩化銅(II) が生成する。ルイス酸 の一種であり、アンモニア や塩化物イオン などとは水溶性の錯体 を形成する。日本 では毒物及び劇物取締法 により劇物に指定されている。
水溶液中では不安定であり、不均化 により銅と塩化銅(II)が生成する。しかしながらほとんど水に溶けないため、見かけ上は安定であるように見える。[ 7]
化学的性質
塩化銅はルイス酸であり、HSAB則 に従うとソフトな酸に分類される。このためトリフェニルホスフィン のようなソフトなルイス塩基と安定な錯体を形成しやすい
CuCl + PPh 3 → [CuCl(PPh 3 )] 4
塩化銅は水に不溶であるが、適切な配位子 があれば水に溶解する。ハライドイオンと容易に錯体の形成が可能であり、たとえば濃塩酸 中ではH3 O+ CuCl2 - といったイオン対を形成し溶解する。他にもシアン化物イオン (CN- )やチオ硫酸イオン (S2 O3 2- )、アンモニア(NH3 )などと錯体を形成する。
塩酸やアンモニアを含む水中に溶解した塩化銅(I)溶液は一酸化炭素 を吸収し、ハロゲンで架橋した構造の二量体[CuCl(CO)]2 (無色固体)を形成する。また塩酸に溶解した塩化銅(I)溶液はアセチレン ガスとも反応し、CuCl(C2 H2 )を形成する。一方アンモニアに溶解した塩化銅(I)は、アセチレンガスと反応すると爆発性の銅アセチリド を生成する。アルケン と塩化銅(I)の錯体を得るには、アルケン存在下で塩化銅(II)を二酸化硫黄 により還元 すればよい。1,5-シクロオクタジエン のようなキレート 能をもつアルケンとの錯体は特に安定である[ 8] 。
メチルリチウム(CH3 Li)のような有機金属化合物 とも反応し、ギルマン試薬 である(CH3 )2 CuLiが生成する。グリニャール試薬 も同様に生成する。これらの試薬は有機合成化学において多用されている。
合成
塩化銅(I)は硫酸銅 などの2価の銅塩を二酸化硫黄 や金属銅 などで還元することで得られている。この二酸化硫黄を用いる場合は、亜硫酸水素ナトリウム (NaHSO3 )やピロ亜硫酸ナトリウム (Na2 S2 O5 )に酸を反応させin situ で二酸化硫黄を発生させている。塩酸中でこの反応は進行し、まず塩化物イオンとの複合体CuCl− 2 の溶液が得られる。この溶液を大量の水で薄めると化学平衡 により塩化物イオンが取り除かれ、塩化銅(I)の沈殿が得られる。
NaHSO 3 (aq) + HCl(aq) → SO 2 (aq) + NaCl + H 2 O(l)
2 CuSO 4 (aq) + SO 2 (aq) + 2 H 2 O(l) + 4 HCl(aq) → 2 HCuCl 2 (aq) + 3 H 2 SO 4 (aq)
HCuCl 2 (aq) + H 2 O(l) → CuCl(s) + H 3 O+ (aq) + Cl− (aq)
利用
塩化銅(I)は様々な有機化学反応 の触媒 として非常によく用いられる。他の「ソフトな」ルイス酸と比較すると、塩化銀(I) や塩化パラジウム(II) は比較的無毒であるが塩化銅(I)の方が安価であり、塩化鉛(II) や塩化水銀(II) より毒性が低いという特徴をもつ。また銅の価数を2価や3価に調節可能であり、酸化還元を伴う反応において触媒サイクル中に組み込まれやすい。これらの特徴のため塩化銅(I)をはじめとする1価の銅塩は有用な反応試剤となり得る。
一例としてザンドマイヤー反応 が挙げられる。芳香族ジアゾニウム塩 を塩化銅(I)で処理すると芳香族塩化物 が得られる[ 9] 。
この反応は広く使われており、収率も良い。
1941年 、グリニャール試薬 に塩化銅(I)をはじめとする1価の銅ハロゲン化物を付加するとα,β-不飽和ケトンの1,4-付加反応 が効率的に進行するという報告がなされた[ 10] 。この報告から有機銅化合物 についての研究がさかんに行われるようになり、2006年現在では有機合成化学において広く用いられている[ 11] 。
ヨウ化銅(I) などの他の1価の銅塩も同様に広く用いられているが、塩化銅(I)を用いた方が効果的な反応も存在する[ 12] 。
注意
毒性があるため、手袋やメガネを着用して取り扱う必要がある。アルキン類と接触させると危険である。ラット を用いた染色体異常試験では陽性を示すなど、変異原であるため取扱いに注意しなければならない[ 13] 。
参考文献
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^ Haynes, William M., ed (2011). 化学と物理のCRCハンドブック (英語版 ) (92nd ed.). CRC Press . p. 4.132. ISBN 1439855110
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関連項目
Cu(0,I) Cu(I) Cu(I,II) Cu(II) Cu(III) Cu(IV)