基質的リン酸化でATPが生成する反応の模式図
基質レベルのリン酸化 (きしつレベルのリンさんか、substrate-level phosphorylation)または基質的リン酸化 とは、高エネルギー化合物からアデノシン二リン酸 (ADP)またはグアノシン二リン酸 (GDP)へリン酸基 を転移させてアデノシン三リン酸 (ATP)またはグアノシン三リン酸 (GTP)を作る酵素反応を指す。化学エネルギー(官能基移動エネルギー (ドイツ語版 ) )がATPまたはGTPに蓄積される。この反応は細胞内では平衡に近く、調整を受けることはない。酸化的リン酸化 とは異なる反応である。
反応
基質的リン酸化では、リン酸化された中間基質からリン酸基(無機リン酸塩 )がADPやGDPに転移される。
反応の上流は酸化 反応であることが多い。アルデヒド がカルボン酸 に酸化される時のエネルギーは、カルボン酸のリン酸エステル化で使用される。生成されたリン酸無水物 は高いエネルギーを持つ。ピルビン酸 などのケトン基 を持つ分子は酸化的脱炭酸 (ドイツ語版 ) される。酸化エネルギーは補酵素A のチオエステル基に渡される。リン酸基を受け渡された化合物は、ADPやGDPのリン酸化に充分なエネルギーを持つ。
意義
基質的リン酸化は、外部の電子伝達系が呼吸鎖 で利用可能か否かにかかわらず速やかにATPを産生できる。ヒトでは、ミトコンドリアのない赤血球 や好気呼吸 で解糖系 が産み出すエネルギーを独占できない状況で起こっている。筋肉系 (英語版 ) では酸素供給が不足していても基質的リン酸化のみでエネルギーを供給できる。にもかかわらず、一般には好気的呼吸や嫌気的呼吸ではより多くのATPを産出できる。
基質的リン酸化反応がなければ、酸化などの反応で放出されたエネルギーは単に熱となって失われてしまう[ 1] 。
実例
基質的リン酸化の例を下に挙げる:
1,3-ビスホスホグリセリン酸 + ADP → 3-ホスホグリセリン酸 + ATP
(関与する酵素 :ホスホグリセリン酸キナーゼ (英語版 ) )
ホスホエノールピルビン酸 + ADP → ピルビン酸 + ATP
(関与する酵素:ピルビン酸キナーゼ )
スクシニルリン酸 + GDP → コハク酸 + GTP
(関与する酵素:サクシニルCoA合成酵素 )
一部の生物(植物等)では、ここでATPが産生される[ 2] 。
プロピオン酸発酵 (ドイツ語版 ) およびヘテロ型乳酸発酵 :
アセチルリン酸 + ADP → 酢酸 + ATP
(関与する酵素:酢酸キナーゼ)
酪酸発酵 :
ブチリルリン酸 + ADP → 酪酸 + ATP
(関与する酵素:酪酸キナーゼ)
出典
^ (ドイツ語) Georg Fuchs (Hrsg.), Hans. G. Schlegel (Autor): Allgemeine Mikrobiologie . Thieme Verlag Stuttgart, 8. Auflage 2007, ISBN 3-13-444608-1 , S. 200.
^ (ドイツ語) Jeremy M. Berg, John L. Tymoczko, Lubert Stryer: Biochemie . 6 Auflage. Spektrum Akademischer Verlag, Heidelberg 2007; ISBN 978-3-8274-1800-5 ; S. 543.
関連項目