唐船峡唐船峡(とうせんきょう)は、鹿児島県指宿市開聞十町[注釈 1]にある渓谷。池田湖の南西に位置する。 回転式そうめん流し発祥の地として知られており[1]、指宿市の統計によれば年間30万人以上の観光客が訪れる観光地となっている[2]。 概要名の由来は、江戸時代には深くまで入り江が迫っており、唐の船が出入りし舟を着けていたことで名付けられた、唐船ヶ迫という地名から[3]。一般に知られるような奇岩、奇勝の景勝地と言うよりは、平地よりも約40メートル低い陥没した谷間の、杉に囲まれた地に水が湧き出るような規模の渓谷で、その水源を中心に「唐船峡公園」として公園整備されている。 規模のわりに湧出量は多く、1日に約10万トンの清涼な水が湧き出しており、水温は年間を通じ摂氏13度前後と一定している[4][5]。「 近年では、ニジマスやキャビアを特産品にする研究を目的としたチョウザメの養殖も行われており、湧水池内や渓谷沿いの清流には、数万尾のコイやマスが泳ぎ回る中、チョウザメも一緒に泳いでいる[4][6]。一帯では、清流を活用してワサビも栽培されており、下流ではクレソンも栽培されている[4][6]。また、この湧水と厳選した砂糖を使用して、ラベルにはハワイアン姿のカップル、開聞岳、イッシーが浮かぶ池田湖が描かれた、鹿児島県初の地サイダー「指宿温泉サイダー」も製造されている[8]。 湧水池のほとりには、唐船峡の約2キロメートルほど南側にある枚聞神社の摂社として、後三条天皇の四王子によって延久に建てられ、天和3年(1683年)には石祠へ造り替えがなされ、祭神には水神・ 1996年(平成8年)3月には、旧・国土庁が指定する「水の郷百選」に選ばれており[4][11]、2008年(平成20年)6月には、環境省の「平成の名水百選」にも選ばれた[6]。唐船峡公園の中には、3つの飲食店「指宿市営 唐船峡そうめん流し」「味の長寿庵」「鱒乃家[注釈 4]」があり、そうめん流しがどの店にもあるが、めんつゆの味がそれぞれ異なっており、そうめん流しの里として観光客を受け入れやすい体制を整えている。また、「涼味唐船峡めんつゆ」の製造元として知られる唐船峡食品もある[注釈 5]。 回転式そうめん流し発祥の地唐船峡内にある「指宿市営 唐船峡そうめん流し」は、回転式そうめん流し発祥の地として、唐船峡が全国的に知られるようになった大きな一因となっている[1]。 回転式そうめん流が誕生したきっかけは、高度経済成長を背景に1960年代に起こった新婚旅行ブームで[5]、温泉などがある旧・指宿市は観光地として盛り上がったものの[5]、かつての旧・開聞町には目立った産業が無く「通り過ぎるまち」とも言われる状況であったため、町おこしとして町の発展には不可欠となる観光の目玉の開発が、助役だった井上廣則[注釈 6]に任され当時の役場職員が動き出した[5][12]。唐船峡の清流を観光に使えないかと模索して、茹でたそうめんを住民が湧水にひたして食べているのを見て活用を思い付き[5]、1962年(昭和37年)6月1日に旧・開聞町では初となる、唐船峡の清流を利用してテーブルに埋め込んだ竹樋[注釈 7]から素麺を流す「流しそうめん」をはじめたところ、目新しさもあって注目を集めた[5][9][11]。しかし、そうめんを流し続ける手間や、竹に生える海苔やカビなど衛生面での管理の難しさに悩まされ、その費用で経営は成り立たず、わずか1年ほどで暗礁に乗り上げる[5][9]。その後も、高いところから水を流し、そうめんを流せないか試みるも失敗。井上は部下の家族から「たらいで洗濯するように、そうめんを回せたら」というアイデアを聞かされ、自身の妻からも「洗濯桶で洗うように、そうめんを回せたら楽しい」と助言されるも、決め手に欠けると試行錯誤し続けるが、中華料理店の回転テーブルを目にしたことで、これに洗濯用たらいのような水槽を載せてはどうかと発想が閃く[5][13]。 井上は、鹿児島市の「鶴丸機工商会」初代社長・久保 水温が年間を通し約13度ある水を活用した唐船峡のそうめん流しは、夏だけでなく季節を問わず年間を通じて楽しめる[11]。そのため、市営唐船峡そうめん流しは年中無休で営業しており[10][注釈 9]、冬でもストーブにあたりながら食べることができる。また、市営唐船峡そうめん流しは屋根付きの屋外施設なため、木の香りや水の音に囲まれ食事ができる[11]。市営唐船峡そうめん流しの回転式そうめん流し器は現在91台あり、うち3台は客の要望により左利き用として鶴丸機工商会が開発した、水の流れが時計回りと反時計回りの2段式になっている[13][15]。この91台のメンテナンスは、鶴丸機工商会により行われている[19][20]。2022年(令和4年)6月には、店を盛り上げようと開業60周年を記念して、LEDで様々な色に光る60周年記念モデルのそうめん流し機を、1台限定で設置[5]。 市営唐船峡そうめん流しは、めんつゆが鹿児島県指宿市山川産の鰹節や、北海道産の利尻昆布をふんだんに使用し、九州特有の醤油による少し甘めな秘伝の味で、そうめん以外では鯉の洗いが名物となっており、最も人気のあるメニューは、そうめんにマスの塩焼きやコイの洗いなどが付いた「A定食」[9][10][15]。また、冬季限定メニューとしてにゅうめんもある。 共同開発した鶴丸機工商会は、業務用・回転式そうめん流し器の製造販売で国内シェアの約8割を誇っており、九州各県のみならず遠くは東北地方や北海道まで設置に行くなど、鹿児島を中心として全国各地に納入しているが、中国や韓国など国外からも購入されている[9][14][15][16]。このそうめん流し器は、第1号機が製造されてからも様々な改良が繰り返され現在の形になったが、一度製造して設置するとほとんど壊れることがない製品のため、ぜんぜん儲からないと語っている[15]。また、鶴丸機工商会では家庭用として卓上用そうめん流し器も製造している[13]。なお、鹿児島市加治屋町において鹿児島県立鹿児島中央高等学校の隣にあった以前の工場兼住宅は、2019年(平成31年)3月16日の火災により全焼し製品や設計図も焼失したが、周囲の応援により再起し、跡地は売却して2020年(令和2年)6月中旬、鹿児島市山田町に新たな工場を再建して事業を再開した[15][19][20]。 脚注注釈出典
参考文献
外部リンク
座標: 北緯31度13分12.5秒 東経130度32分33.6秒 / 北緯31.220139度 東経130.542667度 |